29・火星の先鋒(マドルス視点)

「マドルス提督。敵木星軍、前方に数3000隻。メイン構成はムータアズマ級のようです」


 ふっふーん。木星軍はあんな旧式を未だに使っているのか。俺はそう思った。


「オペレータ。引き続き情報をモニターしておけ。さて、艦長。如何にしてかかろうか? もちろん、腹案は持っているがな」

「……でしたら、私如きから口を出すことはありませんが……」

「はっは! そう言うな艦長! 中将提督の高みにある俺としてはだな。下々や部下の意見を聞く耳を持たねばならない。自己啓発本にそう書いてあったのでな」

「そうですか」

「そうだ。俺は素晴らしい上司だろう!! はっははー!!」


 俺の存在の余りの神々しさに、艦長は口をつぐんだ。少し悔しそうに。まあ、そうだろうな、37歳という若さにして、火星宇宙軍の中将提督の座にいる俺。その前では皆が才気に恐れおののいて沈黙をするのが常だ。

 俺は気分が良くなった。いつだって自分の実力と存在の力を確認させてくれる、俺を持ち上げるための踏み台になる部下というものはいいものだ。


「こっちは、先鋒の1000隻。数において劣るが、艦艇は準最新式のシュメール級で揃えている。旗艦のイシュタル号の特殊兵装、マシンテンプテーションも強力だ。AIを洗脳する荒業が使える。これは、負けはないな! ははっははは!!」

「……」


 何やら静まり返るブリッジ内。なんだコイツら? ノリが悪いな?


「なんだよ? お前ら? まさか負けると思ってんのか? このマドルス中将様が指揮鞭を執るんだぞ? あり得ねーだろ、負けは!!」

「マドルス中将。敵もこちらを認識。機動をかけてきます。接触まであと20min程です」


 オペレーターが口を開く。全く、仕方ねーな。何でだかやたらと士気が低いぞ、この艦隊は。ここは俺が、一発ドカンとかまして。一気に戦意を掻き立ててやるかね!!


「操舵長!! 全艦突撃に先んじて突っかけるぞ!! 我が旗艦にて、敵軍に飛び込む!! 機動エンジンフル稼働! 道を開く!!」

「!! お止めください! マドルス閣下!!」


 うるっせえ!! この人の足を引っ張ることしか考えてない艦長や、ブリッジクルーはなんだ!! やたらと士気が低いから俺が盛り立ててやろうってのに!!


「とぉつげきぃいい――――――――!! 貴様ら、早く突撃をしろっ!!」

「ええい!! どうなっても知りませんぞ!! 旗艦、イシュタル号。突撃開始!! 他の艦艇も続けっ!!」


 そうそう。いう事聞きゃあいいんだよ、無能無知な一般軍人ども!!

 この、火星外交官の親を持つハイパー上級火星民の俺の言うことを!

 そうすれば、神の御憶え良いこのウルトラエリートの俺には勝利が齎される!!


「勝てる!! 俺は今確信した!! 砲火を交える前にな!! これは勝てる! 勝てるぞぉーっ!! 俺が思うのだから間違いはないっ!!」

「!! 前方より大質量接近!! 宇宙岩石のデカいものが!! こちらに向かって飛んできますっ!!」

「わはっは――――――っ!! 恐れるな!! 主砲、アトミックレーザー三連斉射!! 木っ端微塵にしろっ!!」

「はっ!!」


 まったく。宇宙岩石如きに怖れを為すとは。このマドルス様の部下にふさわしくねぇな! 今度火星に帰ったら、部下の総入れ替えが必要になる。

 新しいブリッジクルーは、実力よりも見た目と色気と可愛げ重視で行こう。

 俺はそんなことを考えていた。

 が!!


「ぐわっ!!」


 派手な大爆発音とともに、突然俺の身体を襲う大震動!!


「宇宙機雷付きのワイヤーネットです!! 宇宙岩石を破壊したら……!! 中に封入されていたらしく、飛び出してきました!! 前方に膜のように広がっています!!」

「ワイヤー、ネットだとぉ⁈ んな小賢しいもの……!!」

「熱伝導の非常に優れた金属でできているようで……! アトミックレーザーの熱量がアレに当たると拡散されてしまいます!!」

「チッ!! 兵器消耗は避けたかったんだが……!! 光子弾ミサイル発射!! ネットを破壊しろッ!!」

「了解ッ!!」


 物質を浄化破壊する光子弾ミサイルが発射され、爆発。何の金属でできていたかはわからないが、とにかくネットの膜は消滅した!


「オラァ―――――ッ!! かますぞおっ!! 全艦突撃ぃっ!! 一気に木星宇宙軍を粉砕するっ!!」


 そして、景気よく突っ込んだ俺の艦隊だったが。


 なにか、ぞわりとした悪寒のようなものを感じたときは、もう。

 手遅れだったんだ、後で思い返して見るに……。

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