26・地球圏に攻め込む前に(メルシェ視点)
さて、先程からの星母城での。ネレイド提督と星母マナ、そして五人の大陸王の会議はまだ続いています。
「ネレイド殿。失礼、私は義王カリトスと申す。最初は貴殿を疑惑の目で見ていたことは確かであるが、今はおおむねその疑惑は解けております。しかしながらさて。ネレイド殿は地球もしくは地球圏に攻め込むと仰るが……」
「ふむ。何かな? カリトス殿。疑問でも?」
「大いに疑問があります。実際の所ですが、我が木星宇宙軍の艦船船舶の装備では、地球宇宙軍の強烈な結界シールドを破ることはむつかしく、また戦術も田舎戦術の数に任せた攻撃法でしかありません。こんな様で、本当に我ら木星は地球に勝てるのでしょうか?」
先程話した、イオス王、エウロス王との対話を終えて。次にネレイド提督に話しかけてきたのは、五大陸王のうちのカリトスという王でした。
ネレイド提督はそれに答えます。
「主兵装の問題ならば、資源さえあればウチの技術士官が地球産兵器の設計図を示すことができるし、製造もまた行える。ただ、量産には木星現地の人間にも動いてもらわねばならないが。また、それの使用法についてはウチの攻撃兵装長が教えてくれる。兵器の点では、そこまでの劣った点はなくなることになるかな」
ネレイド提督がそういうと、星母マナと五人の大陸王は息を吞んだような顔をしました。
「地球産の兵器を……? 我らが用いる事ができるようになると……!!」
殊更に大きな息をついたのは。
「失礼。私は忠王ガニメス。衛星ガニメデにおいて、兵器の増産と開発を行っているものだ。その話、大変興味深い。詳しく聞きたいのだが……」
この五大陸王の一人、ガニメスという男でした。
「ああ、それについては。この二人を貴殿につけよう。ケルドム、クリーズ。ガニメス王と話をまとめておいてくれ」
ネレイド提督がそう言うと。今まで暇をしていたかのようなケルドム少佐と、何やら色々と考えを巡らしていたらしいクリーズ少佐が。つと立ち上がってガニメス王の方に向かい、タブレット映像と身振り手振りで様々なことを話し始めたようです。
「さて、ジプス。貴殿のおかげだ、ここまで話が進んで。木星を味方につけるところにまで話が進んだのは」
最後は、木星の仁王ジプスに話しかけるネレイド提督。
「フン……。私は貴様らにうまく利用されただけで、殊更な便宜を図った覚えはない。誇るなら己を誇れ、この私を正当に捕らえることのできた自分たちを」
「そうか。その賛辞は有難くいただく」
「それでいい。で、何か? 用でもあるのか? この私に」
「ふむ。兵の訓練の様子を見たくてな。後は実際の木星人の生活も」
「それは構わぬが。一般木星人の生活など、我ら木星軍人に比べてすら更につまらないもの。そんなものを見てどうする?」
「謙遜するなジプス。貴殿は、木星の仁王だ。そのつまらない木星の民の面倒を見ているのは貴殿だろう。興が乗るわけでもない、地道な仕事だ。それに苦痛を感じない貴殿の王としての適正は、また大したモノなのかもしれぬ」
「……木星人民というものはな。才気や知恵とは縁遠い存在で。退屈なものだぞ? その者たちの些細な願い些細な怒りや。そう言ったものを無視することなく叶えたり解消するのはな。だが、やらねばならぬのが面倒なところだ」
「はは。仁王と呼ばれるだけのことはある。人民に仁慈を垂れているようだな」
「全くな。まあ、あの労働人民がいなければ。我らとても喰えなくなる。ある意味のギブアンドテイクであるのかもしれんが……」
「ギブアンドテイク? いーやそうではなかろうジプス。貴殿は、自分の心のままに善性を示している。要するにだ、自分の子供のような木星人民の面倒を見ることが好きな性を持っている。そうでなければそのような仕事はこなせぬよ」
「うーむ……。そう言われればそう言う部分もなくはない私ではあるが……」
「ともあれ。兵の訓練所から見せてくれ」
「分かった。ユド・グ・ラシル内にも練兵場はある。そこの物でよければ、だが」
ふむふむ。場所を移るようです。この木星星都、ユド・グ・ラシルの中の練兵場に。私とミズキさん。それにピウフィオさんが。提督に同行することになりました。
ジプス王は、もうこちらに対する警戒をほぼ解いているようで。五、六人の部下を従えただけで私たちを先導し、都市内移動用の電力で動く車に乗せて移動していきます。もちろん、車を運転しているのはジプスの部下です。
「ネレイド。これより我ら木星人は地球と戦うのだが。まず何を心に持てばいい?」
車中、そんな質問をネレイド提督にするジプス王。それに対して提督は。
「そうだな……。自分の欲が、木星の欲と。木星の欲が、太陽系の欲と。合致するように生きていけばいいのだ。そうすれば、まあ、負けても立て直しは効くし、な。そもそも大勢の意見を酌んだ志というものは非常に頓挫しづらい。これが肝要なところかな?」
などという事を言うのでした。
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