25・ネレイドと星母マナ。そして五人の木星大陸王(クリーズ視点)
フム……。先ずは提督の思惑通りと言ったところか。ん? 私はだれかと?
私はクリーズ。今は海賊船となっている宇宙船、アフラ・アル・マズダ号の機器調整やシステム設定を一手に担っている、地球出身の技術将校のクリーズというものだ。
「さて、皆さん。こちらがネレイド。私たちの力強い味方になってくれた、勇猛果敢かつ英知を持つ、元地球宇宙軍の中将だった女性です」
ふむ。星母マナがネレイド提督を。
自らが召還を掛けて集めた木星の五大陸王に紹介している。
「と、いうわけでだ。これより木星側に鞍替えすることになったネレイドだ。よろしく頼む」
ネレイド提督がそう言葉を放つと。
「……信じられたものではない」
いきなりそう言葉をぶつけてきた背の低い筋骨の張った男が一人。
「イオス? 貴方は、この星母マナの審人眼が信じられないと?」
「その通りですぞ。このような、禍々しい顔をした地球女など。邪悪な色気が滴っているではないですか」
「邪悪な……色家? ですかイオス?」
「そうです。マナ様のような清純な心を持っていない証拠。本の中で見た蛇のような顔をしております」
「そんな……。ネレイド? どうしましょう」
星母マナがそう言うと。ネレイド提督は木星王イオスの前につかつかと歩み寄り。
「蛇か。それくらいは食ったことはあるが。あれは旨いものだぞ? ジビエとしてはな。ただ、アレに噛みつかれると厄介だ。強い毒を持つからな。だが蛇は、な。臆病な生き物だ。自分から襲い掛かってくることはない。敵意を向けてくる相手には自ら襲い掛かることもあるが。どうだ? 私が蛇に見えるのだろう? 私を味方にするか、敵にするか。選べ、木星王イオス」
と、毒と威圧感たっぷりの恫喝に近い質問を叩きつける。ふむ、見事な応対。
「……貴様が。味方になるというのか? 本当に? ならば言うことはない。貴様の怖さ、今悟った。ジプスが言っていたように、一万隻の船団の旗艦目指して一隻掛けを駆けるような女だということが……。ようやく実感できる」
見事に威圧感に負けたイオスという木星王。この手で、他の木星王にも掛かるつもりかな? ネレイド提督は。
「信王イオスを、雰囲気と言葉だけで鎮めた……か」
続いて口を開くのは。背が高く、痩せぎすであるが。瞳に確かな知性が炯々と宿る男。コイツは知性で勝負のタイプだな。
「失礼。私は木星の知王、エウロスというもの。お聞きしたいがネレイド殿とやら。貴殿は我が木星軍を率いて、地球軍に当たりたいという。それは私怨か何かによるものか?」
エウロスとやら。嫌な聞き方だが、一番肝心かなめなところを聞いてきた。
さて、。提督はどう答えるか?
「エウロス殿。私は確かに。地球に対して憤りは持つ。しかし、考えても見てくれ。私は地球にある時は、地球宇宙軍元帥ヴィフィールの妹であり、なおかつ自分自身も地球宇宙軍の中将という重責にある。そして、それに応じて齎される特権の数々は数えようもないほどだ。だが、私はそれらをすべて捨ててきた。これがどういう事かわかるか?」
「……不思議なことをなさる方だとは思いますが。どういう意思によって行なわれたのかは私には理解できませんな」
「私はな。
「幸せの質にこだわる癖……、と申しますと?」
「たとえ、太陽系の頂点である地球の更に上層階級の高級軍人とはいえ。幸せの形を考え始めてしまうとな。
ふむ。これは弁論術ではないな。ネレイド提督は、心の奥からの真情を吐露した。さて、エウロスという男、いや、知王とやらはどう答えるか。
「ふむ。宜しい。それゆえに地球に愛想をつかし。我が木星に属しようと。それはいいのだが、ネレイド殿。貴殿はそのように簡単に、愛しの故郷を忘れられるのか?」
「……ふふ。確かに知王。聡いな、エウロス殿。私の怒りはどこに向かっているかといえば、ワガママである地球市民に向かう。されども、彼ら彼女らはいわば子供なのだ。だからこそ、教えてやりたいのだ。その地球は、決して安全な揺り籠であり続けていてはくれないぞと。その為に、木星の力を借りて、外圧を掛けることによって。恐怖と鍛錬の経験をさせたい。私の欲は、これだ」
ふむふむ。なるほどな、そういう攻め方か。
いや、エウロスに対する言葉による攻め方ではなく。
未熟なままでも満たされていると勘違いしている、地球市民の目を覚ますための。
攻め方の方だがな。
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