23・ルルジュとエリゴールのミーティング(エリゴール視点)

『殺サナカッタネ、アノ女。木星五大陸王ノ、ジプスヲ。ネ? エリゴール』

『……むむ。んだな』


 うーむ。俺は悪魔公爵エリゴールで。

 一緒にいるこのバカ娘は死神天使ルルジュってんだが。

 実はあのネレイドの行った、事の顛末はちゃんと俺とルルジュが情報収集して監視を密にしている。

 それでもって、もしおかしな行動をすれば。懲罰のためにぶっ殺してもいいと言う許可をソピア様から貰っている俺なんだが……。

 楽しい趣味の虐殺を行う言い訳がなくて、俺はちょっと不機嫌だった。


 ともあれ、俺とルルジュは。木星星都のユド・グ・ラシルの巨大ドームの外側から透視眼を使って情報を集め、霊声を聞き取る耳でアイツの発言を集めていたんだが、何というか。うぐぐ。

 隙がなさすぎる、あのネレイドって女。あり得ねぇ。

 だってそうだろ? アイツは地球圏の人間だ。欲深残酷なはずなんだ。その筈なのに。欲もそんなに多くないし、どんな相手に対しても寛容なんてのは出来過ぎだろうってモンだ。


『ネエ。エリゴール。アノ、ネレイドッテ女。実ハイイ人ナンジャナイノ?』

『んなわけねぇだろうが。よく考えろルルジュ。悪名高き地球宇宙軍の幹部に近い中将女だぞ? 今までのアイツの戦績見てきても。敵になった奴は容赦なく殺しまくってる女だ。今更改心したってのか? イヤ、あり得ねーだろ』

『ソンナ事言エバ。私ダッテドレクライノ人間ヲ殺シテキテイルカ分カラナイワヨ?』

『オメェはいいんだよ、ルルジュ。分かって殺してるからな、死ぬべき人間と生きるべき人間を。だが、死神天使のお前ならばともかく。ただの人間がそこのところの判断がつくとは思えねぇ』

『ソウカナ……。今マデタクサンノ人ヲ殺シテイルカラコソ。分カルコトッテ言ウノモアルヨ?』

『……俺が気に入らねぇのはよ。アイツが、あのネレイドって女が。殺しを楽しんで・・・・・・・やがるわけじゃない、って所だ。いいかぁ? 生き物ってのは、他の生き物を殺すときに凄まじいプレッシャーに襲われるもんだ。それを乗り越えて。いわば、他人を他者を他の動物を害するには。酔うしかねえんだよ、殺業ってものにな。ところがあの女。殺業を飲み込んでいやがる癖に。酷く冷静で常識も弁えてるし、その上に優しさも捨ててない。その癖、この前みたいな命がけの特攻も掛ける根性が据わってる。出来過ぎだよ。俺は、アイツの秘密を何としてでも知りたいと思ってな。いわば、躍起になってる』

『フゥ……。エリゴール、変態ミタイダヨ?』

『なっ!! この紳士の俺が変態に見えるだと⁉』

『ウン。ストーカーミタイ。怖ーイ』


 そう言ってケラケラ笑うルルジュ。このバカ娘め、傷つくことを言いやがる!


『そうは言うがよ。気になるもんは気になるんだよ。あのネレイドって女。どうやって存在・・してられてんだ? 普通、あれだけの人間を人間が殺しちまったら、怨嗟で押しつぶされて、その重みで魂が歪んで。正常ではいられなくなるぜ?』

『ソウネェ……。怨嗟ヤ呪イノ力ハ、獣ノ力デアル重力ヲ侵スモノネ。考エラレルトシタラ……。アノ、ネレイドガ。獣トシテノ気品アル戦イヲ制シテ相手ニ勝ッタ。一個ノ獣トシテ、己ニ恥ズル戦イヲシテコナカッタ。ソウイウコトカモシレナイワ。ソレナラバ、敗レタ者タチモ怨嗟ノ声ハ放チヨウガナイ。コレカモ知レナイワ』

『だとしたら、厄介だぜ。あの女は。タダモンじゃねえからな』

『最初ッカラ唯者ジャナイワヨ、アノ女ハ。コノ私ニ傷ヲ負ワセルナンテ。人間ノ癖ニ……』

『でよ。俺はあることを考えた。いいか? ルルジュ』

『ン? 何ヨ、エリゴール?』

『俺は決めた。あのネレイドの秘密を解き明かすまで。ずっと付き纏ってやる』

『エリゴール……』

『そんな顔するな。心配するなよ』

『ウウン……。ソウジャナクテ。ストーカーキモイナッテ』

『殴るぞテメェ!!』


 俺は泣けてきた。俺は、猫の姿を持つ悪魔公爵として誇りを持っていて。もし仮に交尾するとしても、それはネコ科の動物としかしないと決めているのに。

 このルルジュに掛かっては、この俺も一種の大人の女を追いかけるストーカーらしい。


『エリゴール。実際ノ所サ。私思ウンダ……』

『ん? 何をだ? ルルジュ』

『アノ、ネレイドッテ女ニハ、私モ変ナ縁ヲ感ジルノ』

『ん? お前百合の気あったか?』

『モウ! ソウジャナクテ、アノ強イ人間ニ引キ合ワサレタノモ。女神ソピア様ノオ導キジャナイカッテネ。ソウ思ウノ』

『ってことはルルジュ。どういうことだ?』

『ウン。一緒ニ、レッツストーキング、ヨ♪』


 何やら珍妙な話だが。対象にここまで興味を持つミッションは初めてかもしれない。

 とまあ、そう言うわけで。

 俺とルルジュは、隙を伺いつつも。

 あのネレイドという女の近くに居れる術を考え始めたんだな。


 これが。

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