22・星母マナとの会談(ミズキ視点)

「……ジプス! 大丈夫でしたか⁉ 私は、貴方が捕まったと聞いて……。本当に心配したのですよ⁉」


 木星星都の巨大ドーム都市、ユド・グ・ラシルにて。その中央にある星母城で、とうとうネレイド提督は星母マナと会うことに成功しました。


「マナ様……。いや、してやられました。この者たちは、唯者ではありません。客として我らの味方につけることをお勧めしますぞ」


 陽気な感じにそう言うジプス。むろん、私たちは例の茶と酒と料理の三段構えの接待をしたので、ジプスの機嫌は上々です。しかし、そんなジプスを責めるように、星母マナが口を開きました。


「ジプス……。貴方は、木星の誇りをその中年男に売り飛ばしたのですか!! 食べ物とお酒の魔力に負けて!!」

「? 当たりませんぞ、マナ様。それから、私の勘違いだったのですが。この中年男は実は提督ではなく、ゼイラムと言う名の提督付きの副官だという事です。提督は、そこの銀髪紅瞳の美女です。その提督の名をネレイドというらしいのです」

「女……。まさか、地球宇宙軍に女の提督がいるなんて……」

「そうですな、大変珍しい。それから、此度の会談を開くにあたって、私はこのネレイドが何を考えているかを聞かされました。その結果、木星の利になると思ったのでお連れしたというわけです」


 諸々便宜を図ってくれる、木星の仁王ジプス。

 星母マナは、そのジプスの言葉を聞いて、どうやら。

 少しは話を聞くつもりが出てきたようです。

 提督の方に向かって、言葉を放ちました。


「地球の軍人。この木星に何用か? 何のために、我らが領域を侵したか?」


 尖ってはいるものの、一応疑問の形の言葉を。ネレイド提督にぶつけて来ました。

 対してネレイド提督は。

 軽く眉間にしわを寄せて、皮肉気に言いました。


「一言で言おうか。星母マナ、このまま地球に対して反抗の意を向けているとな。一惑星息滅の憂き目に遭うぞ。地球人は、おのれの利益に対して敏感かつ貪欲。反抗的ならば木星人を駆逐し、もはや出来上がっている木星の液体水素汲み上げのプラントを、アンドロイドを派遣して使えるようにしようという計画も幾つもあるのだから」

「⁉ なんてことを!! あれは、あのプラントは!! 私たちの命の一線その物です!! あれがなくなってしまっては、奪われては! 私たち木星人は食べることも飲むことも、稼ぐこともできなくなって。木星の海に飛び込んで自死をするしか無くなります!!」

「だから、さ。だから、地球は強気に出ている。舐められているんだよ、木星星母マナ、君は」

「……っ!!」

「所詮は小娘。そう言われているよ。ただ、存在のクオリティが高いので、呪詛や祝言が使えるだけのお飾り。そう見られているよ、地球側からは」

「嫌な……! 嫌なことを聴かせないでくださいっ!!」

「直視しろ、星母マナ。君の役目は、プラントが問題なく稼働するようになった時点で終わっているのだよ」

「私の……? 役目が終わってる⁈」

「そうだ。アンドロイドでは出来ないからな。様々な問題やエラーを自分の力で直すことは。だが、プラントが完成している今は、その作業は全てアンドロイドの力で代替できる。故に言ったんだ。地球から見た君や木星人は、既に用済みの存在だと」


 ああ。可愛いのに可哀想な子です! 星母マナは、地球人のすれっからした感性から見れば、とても純情で。その見るからに感傷的な瞳が潤んで、大きな涙滴がぼたぼたとその大きな目からこぼれ出て来ました。

 それほどに、悲しくも衝撃的な事をネレイド提督は星母マナに直言したのです。


「わた……し……。どうしよう!! どうすればいいの!! このままでは、また地球宇宙軍の艦隊がやって来て……。また、重力子爆弾でプレート大陸を攻撃してくるわ……! 私も、木星の皆も。生き抜くためには……、どうしたら……」

「泣いても何も解決せん。いいか、マナ。こういう時は、敵に噛みつけ。いかに敵が強かろうが、諦めて泣き寝入りするな。泣き寝入りして済むものならばそれでいいが、その次に待っているのは、落命という悲劇だぞ」

「……木星宇宙軍は。数は多いけれど、また、将兵も強いけれど……。それでも、用兵術や兵装兵器の点では地球宇宙軍には遥かに及ばない。戦いに一番大事な、数だけはあるけれど……。それだけでは勝てないじゃないの……!」

「そう言ったことじゃないんだ。出来ない理由を連ねれば、人間はいくらだって思いつく。要はやるかやらないか。その選択を君ができるかするかの問題なんだ。やるつもりはあるのか? マナ」


 たしかに。今木星が置かれている状況を勘案すると、ネレイド提督の言う通りの状況なのですが……。


「星母マナ。私たちは、しばらくこの都市に逗留する。もし君が、『戦う意思』を。そう、地球を相手に回しても戦い抜く意思があるのなら、私に使いをよこせ。助言以上の助力・・・・・・・をしてやるから」

「……すこし、少しだけでいいですから。考えさせてください、ネレイド提督」


 急に入ってきた様々な情報に打ちのめされるように、星母マナは悩み込みました。

 しかし、こういった時に励ましの言葉を気安く掛けては、現状認識に甘みが加わる可能性もあるのです。


 たぶん、ネレイド提督はそれを分かっているのでしょう。


「意思が固まったら、使いをよこせ。決めるのは君だ、星母マナ」


 という言葉を放って。星母マナの前から、私たちブリッジクルーを連れて、ユド・グ・ラシルに停泊しているアフラ・アル・マズダ号に帰っていくのでした。

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