20・木星の五大陸王、ジプスの拉致(ジプス視点)

「ジプス様!! 階段下でブリッジの守護をしていたギュリオが敗れました!! 敵兵団、このブリッジに向かって登ってきます!!」


 ……何という事だ……。こんな事態になるとは……!!

 そもそも、いや。今は繰り言のようにそもそも論に走っている場合ではない。

 目の前に、物理的に敵兵が迫ってくるという非常事態なのだから!!


「よぉ、木星のお偉いさん。なんて名前かは知らないけどよ。悪いけど、俺らに捕まってもらうぜ? すまねーな」


 そんな言葉を吐くのは、ブリッジに登って来て、途中にあるクリスタルのドアを粉砕して中に入ってきた敵兵団長。何やら、よくわからない構造をしていそうな、機能の高いであろう戦闘宇宙服を着ている。


「……貴様らは……! 狂っているのか!! 一万隻対一隻でも逃げようとせずに、なおかつ、この我が旗艦メノストルペ号に向かって特攻をかけて来て!! どてっぱらに大穴あけおって、なおかつ旗艦内に侵入!! その上で目に余る大数だったはずのこの旗艦の陸戦隊を全部平らげてくるとは!!」

「……ふん。こっちゃ狂っちゃいねぇよ。実際お前の指揮する大戦艦隊は、俺達の旗艦を止められなかったし、そこからこのお前の旗艦の中を戦い潜ってきた俺は、お前の目の前にいる。要するに、まぁ。場数踏みゃあ分かる事なんだが。『できる事とできない事を怯えのない感覚で掴む』事が出来れば、まあ。人間というものは間違えない。そう言うことだな」


 生意気な態度でそう言う、金髪とげとげ頭の地球人。さて参った、この木星五大陸王筆頭のジプスともあろうものが。

 こんなところで捕虜になろうとはな。


「命の保証は。あるんだろうな?」


 私はそう問うた。それの保証されない捕虜など、捕虜とはいえぬからだ。


「安心しろ。俺らの提督、ネレイドは。つまらねー殺しはしないんだ。それにそもそも、俺にお前を捕まえて来いって言ったのだって。ちゃんと理由があってのことだ」

「私を捉えて。地球宇宙軍の手で処刑させる気では?」

「怯えるなよ。実際の所な、俺達第47艦隊は。もう地球宇宙軍の手からは放れている。俺らの提督のネレイドの深い考え合ってのことだが、俺達の実態は一隻だけの宇宙海賊。そう言う形になってるんだからよ」

「……宇宙海賊……、だと? 何を目的と為している?」

「太陽系に公正を齎すこと。それだけが、ネレイドから俺達に言い渡された心がけだ。他に特に気これと言った束縛や信条はない」

「公正……。公以って正しい事……。不思議な言葉だな、実際こう耳にすると。平等でも公平もなく公正か」

「まあ、そういう事で。お前には、ネレイドが木星の星母マナや五大陸王に謁見するための人質になってもらう。これだけの大艦隊を率いてきたってことは、お前も相当高位の軍人なんだろ? 大将クラスか?」


 モノのわかっていそうな青年だが。まだ読みが甘い。なぜならば。


「ふん。人を見くびるな。私は、木星五大陸王筆頭の仁王ジプスだ。お前たちは、ある意味外れ籤を何度も引いたのと同じだった。だが、外れ籤の状況が重なったにもかかわらず、お前たちは。工夫や思慮を凝らし、また実行してきて。その末に、この私を捕らえることができるという大戦果に繋げたわけだ。誇ってもいいぞ、地球軍第47艦隊、いや。宇宙海賊ネレイドとその部下どもよ!!」


 私は、この者たちを褒めたたえざるを得なかった。何故かと? それはそうだろう。この木星に墜落して、船は回復するまで機能不全。そこに押し掛けた偵察艦隊を剛柔取り交ぜた弁論術で丸め込んで。偵察艦隊を饗応し、追い返すことに成功。そして、酒を持たせて会談に持ち込もうとした。

 しかし、星母マナさまが。酒の余りの味の良さに怪訝さを覚え、私に指示を下し処分をさせようとしたときには既にネレイドの船は修復されて、フル戦力の備えをしていた。

 更には、圧倒的兵力を覆すための、極度の一点突破とスピードに乗った判断で、この青年が隊長の肉弾戦部隊を送り込んできて、私を捕らえるに至った。


 どこにケチのつけようがあると言うのか。これを認めない狭量さを持つものは、決して王になど成れぬ。私は、長年部下を使ってきて知っているのだ。

 狭量な者の下に着く部下など、媚び媚びのバカ者か、全く役に立たない無能か。


 それくらいしかいないということを。


「……フン。私は、捕虜としてお前たちの船に連れていかれるのか?」


 私はそう尋ねた。すると、想像を違えずに青年は頷いた。


「ああ。ワリィがそういうことになる。まあ、待遇はよくするってネレイドの奴が言ってたから。そこのところはご満悦してもらえると思うぜ、木星王ジプス」


 青年はそう言うと、部下らしい十人ほどの隊員から、光る拘束テープを受け取り。

 それで私をぐるぐる巻きにした。


「ファイオ艦長。私は大丈夫だ。必ず戻るから、この船を木星星都ユド・グ・ラシルまで乗って帰って修理して。私の帰りを待っていてくれ。私は、この船自体もこの船のクルーも。気に入っているのでな」


 私がそう言うと、ファイオ以下ブリッジクルーは敬礼をして私が地球の青年に連れていかれるのを見送るのであった。

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