19・闘の愉悦、闘の痛み

「ぐぐっ……ぅう!! やるな貴様!! ふふふふふ……!!」


 ? 気持ちワリィな、ギュリオの奴。変な笑い声出して。倒れたままで、すんげえ嬉しそうな顔してやがる。


「あ? まあ俺はつぇえけどよ。んで、お前、何で笑ってんの? Mなんか? マゾヒストなんかよ?」

「私はマゾヒストではないっ!! 厳然たるサディストだ!!」

「んで、そのサディストたるお方が。なんで人に殴り倒されて笑ってるわけ? 気色ワリィな?」

「いや……な。ふふ。ふふふふふ!! 貴様のような強者が私の前に現れてくれたことが嬉しくてな、つい。笑みがこぼれたというわけだ!」


 そういうと、バッと跳ね起きて、再び臨戦態勢をとるギュリオ。

 ニタニタニタニタと気色悪い笑みを浮かべて、俺の前でやたらと丹念に柔軟体操を始めた。


「んで? なんなんだよ、ウォーマニアクス。いや、バトルマニアクスか。どうしたいんだテメェ?」

「ふふふ……。何の余事でもない。私が軍にいる理由は、ただ戦いたいだけ。強い、強い、強い敵とな!」

「ってことは……。おめえ、あんま強くねぇだろ?」

「⁈ 何を言う?」

「実際試してやろっか?」

「ああ⁈ 何言ってやがるこの地球人がっ!!」

「ガタガタ言わねぇで。構えろやこの蛮人」

「っ……! ふっ!! ふふっ! はははははははは!!」

「なーにがおかしいんだ。オラっ!」

「がふぁっ⁉」


 何を考えてんのかわからねえマッドネスなバトルマニアクスに構っている暇はねえんだ、今の俺は。

 そう言う気持ちを込めた、『御免なさいねパンチ』は、見事にギュリオにヒット。

 この、筋肉だけで技量が全くないバトルマニアクスもどきは、それだけで沈黙した。……と思ったんだが。


「まだ、だ! まだ私は死んではいないぞ! 勝った気になるな!!」


 再び跳ね起きるギュリオ。あーもー。うぜぇよぉ。何なんだ粘着質なコイツ!!


「きんもちわりいからよ。お前の粘着質なところに喝叩き込んでやるよ。有難く思えよ?」

「ふ? ふふふふふ? 私に喝を叩き込む? そんなことが貴様ごときに出来るのかな?」

「ああ、どーやるかっつーと……」


 俺は、絡みまくってしつこいギュリオを卒倒させる一撃を放つために。

 気を練るというか、理力を使うというか。

 その双方を同時に身体に掛ける、ドラゴンアーツ、と呼ばれる闘法の構えに入り。

 ぶつぶつと念仏を唱え始めた。


「ラーメンチャーハン、チンジャオロース! ホイコーローと紹興酒!! シャオロンポウにシューマイギョーザ、とどめにからい担々麵!!」


 何の呪文かといえばあれだ。必殺・中華料理の思い出アタック。

 自分の中にくどくも旨い中華料理の『氣』を思い出して発生させることにより、中華料理に宿る『龍の力』が俺の体力によって産み出されるというわけ。

 これこそ、中華オーラである!!


「ほお……、貴様。何やら強烈強靭な圧を放つな?」

「オメーみたいな頭イカレた奴もいるからな。こういう特殊技術は習得済みだ!」


 俺は中華オーラ、もとい、ドラゴンオーラを自分の身体全体を使って練り始めた。

 コツは、体の隅々まで氣が回るように行き届かせることと、呼吸法によってそれを絶やさないこと。まあ、口で言うのは簡単だが、やると結構きついのがこの闘法の特徴だ。楽して強くは成れんと言った師匠の言葉が頭に蘇る。

 まあ、あの師匠は俺がちゃんと鍛錬していれば飯を惜しまず食わせてくれる人だったから、今の健全な俺があるともいえる。

 けっこう、財布の重みが軽かったなぁ、ロン師匠……。


 まあ、ともあれ。俺は俺にこの龍闘法ドラゴンアーツを教えてくれたロン師匠の面目を潰すわけには絶対行かないし。

 これを出した以上は、この変態SMバトマニ野郎を木っ端微塵粉に粉砕するつもりになった。

 ドラゴンアーツは玩具じゃねえんだ。使えば簡単に人が死ぬ。

 だが、俺は。

 この道を踏み外したっぽい自分の命を顧みないタイプの奴には。


 遠慮しないことにしているんだ。


「ふふふ……。面白い、面白いぞ!! 木星では肉弾戦で敵なしの私!! その私を戦慄させるような、ド迫力を!! 貴様は放っているではないか!! 来い! 撃ち込んで来い!! そして私に、力を見るという、力を受けるという、成長のための糧を……っ」

「喰らわせてやるぜたっぷりと!! 発剄はっけい龍闘気ドラゴンオーラ!! からのぉ―――――――っ!!」

「来い、来い! 来い! 来い 来ぉ――――――い!!」

「黙っとけ変態野郎!! 『龍撃拳ドラゴニックナックル』!!」

「なん!! 青い光っ⁈ がががががごぶはっ!!」


 俺の龍撃拳が、ギュリオのどてっ腹に見事に入った。だってコイツ、避けねぇんだもん。


「やる……な……、好敵手!!」

「……俺、ほぼお前から攻撃喰らってねえんだけど……」


 なにやら、ギュリオの中でだけ・・、俺は好敵手認定されたらしい。

 まあ、一方的に思っておけ。死ななかったみたいだし、そこまで気も配れねぇ。

 崩れ落ちる、幸せそうな顔をしたドMのギュリオを置き去りにして。


 俺は、敵を粗方片つけたアンドロイド兵10体を連れて、敵旗艦ブリッジに向かう階段を登り始めた。

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