14・ワインのお味は、魔性の味

「……!! これ、すごい!!」


 私は、グラスに注がれた赤いお酒を。見るからにワインであるその液体を口に含み、驚きに目を瞠りました! 凄く美味しいのです!! 私が知っている500年前のワインとは比べ物にならない味の深みと、甘みのコクと。ほろ苦い、アルコールの香り。

 ああ……。と。私は嘆息してしまいました。

 そうでした。そうだったのです。この世は、こんなにも。地球という星は、こんなにも!!

 素晴らしいものを創り出せるだけの技術力を誇るのに……。

 なぜ、あんな心ないことを!!

 なぜ、無慈悲な絨毯爆撃などを我が木星のプレート大陸上を狙って!!

 それさえなかったのならば、我ら木星人もここまで意固地になって、反地球の気勢を上げる必要すらなく、地球に交渉を続ける事もできたかもしれないのに!!


「……」


 私は黙り込みました。いま、この酒の味にやられて。ヘタなことを口走ろうものなら。

 その怪しげな、地球よりの第47艦隊の提督と会談を持つことになってしまいます。

 なにしろ、敵は地球人。交渉においては、この太陽系では並び立つもののない手腕を誇る人間たちです。

 ヘタな会談を持てば。

 手首を取られ、姿勢を操られるように。

 我が木星人との契約を取り付け、さらなる搾取の道に走るための道を作られてしまうかもしれません。

 一度は思いました。その、ネレイドという敵の提督が、木星と地球の橋渡しをしてくれるのではないかと。


 しかし、その私の甘い幻想であろう思惟を掻き消したのは。


 ワインの味・・・・・。その物でした。

 そうです。

 あまりにも、あまりにも……。


 美味しいという桁・・・・・・・・が外れすぎていたためにです!!


 これは、きっと毒です! 私たち木星首脳部に送り付けられてきた、敵からの心を蝕む猛毒・・・・・・です!!


「五大陸王!! 飲むのをお止めなさい!! これは毒です!!」


「「「「「!?」」」」」


 私の突然の放言に。ギョッとしたようにこっちを振り向く、五大陸王。


「どく……? 毒ですと⁈」

「そうです!! こんなものを飲んでいてはいけません!! 敵に対する戦意が鈍ります!! 我らがすべきことは、鋭意を表し!! 覇気で以って敵を打ち破ること!! こんなものに騙されてはいけませんっ!!」


 私は、自分のグラスを床にたたきつけ。赤いワインの酒飛沫と共に砕きました!!


「ガニメス!! 即座に衛星ガニメデに帰還し、軍備増強に掛かるのです!! 地球との戦端を開く以上!! 宇宙戦艦他宇宙艦艇は有って多すぎるということはありません!! 星母マナの名において、この命を降します!! ガニメス!!」

「はっ!! 畏まりましたっ!!」


 即座に命を受ける、忠王ガニメス!


「エウロス!! 即時衛星エウロパに戻り!! 戦闘時の軍人の生命活動維持のための物資の生産&確保開始!! 宜しいですね⁈ このマナの名において命じます!!」

「異存はありませぬ。それがご決定であるのならば!」


 スッと腕で礼をして。私の命を拝命する、知王エウロス!


「カリトス!! 即座に衛星カリストに帰還。資源採掘プラントをフル稼働し!! 大量の資源を、衛星ガニメデにある兵工廠群の送り届けるのです!! 木星の聖母、マナの命であります!!」

「承知いたしました!! 件の艦艇の事はともあれ。ついに本腰を入れた地球との戦争を覚悟なさいましたな! お見事な決断かと!!」


 そう敬礼をして、私の命を受ける義王カリトス!


「イオス!! 獰猛狡知なあなたの得意分野です!! 宇宙海戦の戦術を練っておきない!! いざという時に展開できるように、作戦をいくつも保持しておくのです!! 機密保持を慎重にしておきなさい!!」

「畏まった! あの地球の、木星との信義を守らぬ態度。いずれは片をつけねばならぬと思っていたところです!! お任せ在れ!!」


 最敬礼を向けてくる、信王イオス!


「ジプス!! 貴方の任務が一番大切です!! 木星宇宙軍の人員増強の任務を与えます!! ただ、増強するだけではなく、練度も密にするのですよ!! 聖母マナの名において。貴方には一番重い命を降します!!」

「……そう、か。やるのか」


 ? 何でしょうか? 他の四王と違って。ジプスだけは何かを考えこんでいます。


「断るのですか? この私の命令を?」

「いや……。承るが。早急な開戦は思わしくないと思いましてな。まあ、質実剛健に参りましょう」


 結局は命に従った、仁王ジプス。


 これからが大変ですが、私は何やら気が昂って。

 心地よさすら覚えている自分に気が付いたのでした……。

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