4・悪魔公爵と死神天使

 我が地球宇宙軍第47艦隊改め、ネレイド海賊船団がアステロイドベルトを抜け、木星に接近していくとき。


「オイオイオイ。オメェら地球宇宙軍がこの木星宙域に何の用だ? 先頃の無差別爆撃で木星人は地球人を恨みまくってんぞぉ?」


 愛嬌のあるだみ声が、いきなりどこからともなく聞こえた。だが、誰だ? これは私の知っているクルーの声ではない。


「ここだ。見てろ。姿を現してやる」


 その声がする方に、クルーが一斉に振り向く。それに私も。

 ブリッジ内のある一点に。闇の渦、とでも表現するのがぴったりなものが発生する。そして、そこから。

 何者かが出てきた。


「フア―――――――ァ。久しぶりに殺しができそうだな」


 出てきたのは、コウモリのような皮膜の翼を持った、猫。

 スーツを着てサングラスをかけている、妙に小洒落た猫だった。


「……なんだ貴様は?」


 私は、うさん臭い空気を満々に醸し出すその猫に問いをむけた。


「んー? 俺は悪魔だ。しかも超上位の偉ーい偉い、悪魔公爵様だよ」


 放っている邪悪オーラが半端ではない。ひょっとしたらコイツは。名乗っている通りの上位悪魔なのかもしれない。


「おめえら、よ。また木星にちょっかい出しに行く気だろ? そいつは許せねぇんだよな。俺と、もう一人の相棒がいるんだけどよ。まあ、俺たちが女神ソピアから命じられた任務は。思い上がった者どもを叩き潰せって事だからな。今の地球人みたいな」


 そんなことを言う、悪魔猫。女神ソピアと言えば、地球の巫女AIに神託を降す神の名のはずだ。


「私たちは、木星人に悪意を持っているわけではない。交渉に訪れただけだ」

「嘘つけこの野郎。このお前らの第47艦隊がどういう任務を負って地球を出たかのデータは、俺は掴んでいるんだぞ。科学技術魔法の粋である、重力子爆弾で木星の都市を爆撃しようってんだろ?」

「……確かに。そのような命令は受けているが。私はそれに従うつもりはない」

「はぁ⁈ 地球宇宙軍艦隊が、地球宇宙軍命令を無視だと? ははっ! マジかよ、おもしれえ。おもしれえ言い訳だな」

「言い訳じゃない。私の艦隊はすでに、地球宇宙軍の命令をシャットアウトしている」

「しーんじられませーん。げらげらげら!! おい、ルルジュ!! 来い!! この艦隊、全滅させるぞっ!!」


 悪魔猫がそう言ったとたんに!


「提督! ネレイド提督! 天頂方向から我が艦隊に何者かが急接近!! 凄まじいエネルギー量を持った存在です!! サイズは……⁈ サイズはヒューマノイドサイズ!! 二メートルに満ちません!!」


 管制官のミズキが、艦外モニターで。何かの存在を確認。そして!!


 我が艦隊の樹霊艦、アムルワタ・ルタートが何やら光の塊の直撃を喰らって、一発爆散した!!


「アムルワタ・ルタート大破!! 既に修復機能死んでいます!!」


 その上で、金霊艦、クシャ・ラスラ・スゥが次のターゲットになり、何やら光の斬撃の連撃を喰らって切り裂かれ、破壊される!!


「クシャ・ラスラ・スゥ完全沈黙!! 艦霊が喰われたものと思われます!!」


 努めて冷静さを維持するミズキだが、恐怖が声色にあらわれている!!


「ちっ!! ミズキッ!! 敵の位置を特定しろ!! 俺が残った艦でぶっ殺してやる!!」


 ケルドムが、情報処理ヘッドギアをつけて、全艦隊の兵装管制を始める!


「敵は、次は。水霊艦、ハル・ワール・タルトに狙いを定めているようです!!」

「ハル・ワール・タルト!! フリーズバリア展開!! 炎霊艦、アルシャ・ルシャ・ウ!! 炎魔術科学機関、即始動!! ハル・ワール・タルトに襲い掛かるターゲットに炎科学魔術砲を叩っ込め!!」


 ケルドムの指示通りに、ハル・ワール・タルトとアルシャ・ルシャ・ウが動き始める!!

 だが、ターゲットの攻撃速度は尋常ではなかった!!


「ハル・ワール・タルト!! フリーズバリアを無効化されました! その上に、艦霊にダメージを与える心霊派攻撃を受け、艦霊がロスト!! もはや稼働不能!!」


 ミズキは事の重大さに悲鳴に近い声で言い放つ!!


「ぶっ放せ!! 炎科学魔術砲!!」


 ケルドムの命令で、アルシャ・ルシャ・ウが超高熱の青い炎の砲撃をターゲットに向かって放つ! が!!


「ターゲットにダメージが入った様子なし!! むしろ移動速度と攻撃速度を上げています!!」


 ああ! もう滅茶苦茶だ!! なんなんだ、このブリッジにいる悪魔と言い、艦外宇宙空間で暴れまわっている敵アンノウンと言い!!


「……。残すは、我が旗艦のみとなりました……。どうやら、敵は意図的にこの旗艦を攻撃しなかったようです……」


 ミズキの疲れ果てた声。護衛艦をすべて破壊された、我がネレイド艦隊。

 そして、旗艦、アフラ・アル・マズダのブリッジの前の窓の外に姿を現したターゲットの姿は。


 どう見ても愛らしい天使そのものであった。ただし、死神のごとき大鎌を携えてはいたが。

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