2・地球宇宙軍第47艦隊
《樹霊艦、アムルワタ・ルタート。ドックアウト準備完了》
《水霊艦、ハル・ワール・タルト。ドックアウト準備宜し》
《金霊艦、クシャ・ラスラ・ルウ。ドックアウトできます》
《地霊艦、アールマティ・スプー。ドックアウトまで暫し》
《炎霊艦、アルシャ・ルシャ・ウ。ドッくアウトの準備中》
《獣霊艦、ウォフ・マルナ・フー。ドックアウト前整備中》
《人霊艦、スプンタール・マンユ。微調整中。しばらく時間がかかります》
《神霊艦、アフラ・アル・マズダ。依代となる提督が乗り込み次第、ドックアウトできます》
さて、と。
『エアロック外で深呼吸をした』私は、ふう、と一息ついた。
地上の連中のまず真似のできないことだが、我ら宇宙軍人は『真空中で呼吸』が出来るのである。言葉的には、『真空』とは『無気体』の事ではなく、『真の空』の事でその中には『真の空気』が満ちているというわけであるからなのだが。私たち宇宙軍人が吸うのは、その『真の空気』である。
まあ、簡単に言ってしまうと。『真空中で常人の身体が拡散してしまう』のは、霊的魂的な鍛錬が足りないという事だな。自分を自分で引き付ける『引力意志』の不足とでも言おうか。それを克服している宇宙軍人は、いわゆる常人を超えているのである。
エアロック外に響く、その真の空気を揺らす『霊声』のアナウンスの告げる、地球宇宙軍第47艦隊のツァラストラ級艦艇群の整備状況と出撃可能状況が整うのを、私はゆっくりと待っていた。
「ネレイド提督」
私に声を掛けてくるものがいる。手に軟式プラスチック製の飲料チューブを持って。それを私に渡してくる女性だ。
「これ、中将提督の好きな、ブラッドオレンジのジュースにタピオカ入れたものです。タピオカなんて、変なモノ好きなんですね、ネレイド提督」
「ああ。私はそういう物が好きなんだ。例えば甘納豆とか」
「ふむ。甘納豆とタピオカですか。何か共通点があるような無いような」
「ミズキ大尉。今回も頼むぞ。君の管制官としての腕は大したものだ。艦隊全体のモニター管制を、旗艦のブリッジで取り仕切ってもらう」
「わかっています。今までもずっとそうだったじゃないですか、提督」
まぶしい笑顔を浮かべる、メガネにそばかす顔だが、黒髪ロングヘアーがきれいで、スタイルのいい艦隊管制官のミズキ大尉。私が提督の位を手に入れて、自分の艦隊を持った時からの古馴染みだ。
「他には、誰が任命されていますか? 今回の戦役のブリッジクルーには」
私は、ミズキの問いに答える。
「幹部候補のケルドム少佐に、操舵長のピウフィオ大尉。有機AI搭載アンドロイドのメルシェ参謀に、副官のゼイラム大佐。ゼイラムの奴は、私に付けられたお目付け役だがな。そのほかには技術士官のクリーズ少佐に、肉弾戦部隊長のバッシュ少佐。まあ、こんなものか」
「総勢8名ですか。まあ、地球宇宙軍は士官の質は高いですし。木星人相手なら楽勝と言った所でしょう」
「……まあ、な」
私たち地球宇宙軍第47艦隊は、
だが、私は考えている。
『兄上からの秘密の頼み』の事を。
ゆえに、今回の戦役は普通の物とは違ったものになるだろう。
「ミズキ……。地球は好きか?」
私は。おそらく長い間戻れなくなるであろう、この地球を好きかとミズキに聞いてみた。
「それはもう。私たちの母星ですから。私の地球に対する忠誠心は絶対です」
「ふむ……。それは私とて。同じことだが、な……」
「……? 何かご懸念でも?」
「そうだな……。木星までの道々。話すとしよう」
そう。私は。
実際の所、部下を説得し、私を信じさせて。
『この地球に対する反逆行為とも取れる行動』
を取らねばならなくなるのだ。飽くまでも、周囲から見ればでの話だが。
《第47艦隊全艦艇、ドックアウト準備整いました。艦霊による準自律行動ができる護衛艦の艦霊モチベーション、良好。艦隊指揮をする軍人は旗艦のブリッジに乗り込んで下さい》
アナウンスが聞こえる。どうやら、始めねばならぬようだ。
この私、地球宇宙軍中将ネレイドの転身した姿である。
『宇宙海賊としての役割』
というものを。
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