クイーン・オブ・コズミックパイレーツ

べいちき

1・地球宇宙軍元帥、ヴィフィール(ネレイド視点)

「ヴィフィール兄さま。木星資源の採掘の件でお呼びとは?」


 私は、地球宇宙軍元帥のヴィフィール兄上に呼ばれて。地球軌道エレベータ上にある宇宙港の司令室に顔を出していた。


「ああ、来たかネレイド。いや、な。木星近辺の宙域の叛乱軍が勢いを増しているのだ」

「知っておりますが? そのようなことは」

「奴ら、木星の自治権を煩く言ってきてな。巫女AIの神託を信じられないらしい」

「……やはり、バカなのですな。叛乱軍というものは」

「うむ。巫女AIの言うことを信じるよりは、木星の石ころ一つでも多く保持していた方が将来の益になると信じ込んでいる」


 何というのだろうか。兄上にも心労が深い事だ。私はそう思った。


「まあ、なぁ。生粋の叛骨野郎共ってモノは。どの時代どの国にもいるもんだからな」


 甲高いが、低さも太さもある変わった声が司令室に響いた。


「シンク。エナジードリンクのやりすぎだ。頭の回転上げるにはいいが、またぶっ倒れるぞお前」


 兄上が声をかけた先には、白を基調とした豪壮な司教服を着た白い長髪の男がいる。兄上の参謀兼、外地球教化司教長のシンクという男だ。


「はっ!! エラソーに説教垂れるな、この無能元帥!! テメェが木星に絨毯爆撃を宇宙艦隊三つ使って浴びせたせいで!! 外地球人類の人心掌握の任務を負っているこの俺がどれほど苦労していると思ってんだぁ⁈ しかも、俺に無断でかましやがって! 元帥特権か? 元帥特権なのか? ああん⁈」


 いかん、この兄上の親友のはずの男。キレにキレている。私も知っている、先頃の木星叛乱分子一斉殲滅の為の地球宇宙軍のやり口が相当まずかったと。シンクは判断しているようだ。


「……シンク参謀閣下。では、どうすれば良かったのかと。貴方は仰られるのですか? 兄上を罵倒なされるからには」


 私は、思わず聞いてしまった。


「ネレイド、ヴィフィール。お前ら兄妹は本当に頭がイカレてんのかワリイのか。んなもん、木星宇宙軍首脳部を饗応接待して、篭絡をかければいいだけの話じゃねーか!!」

「シンク。饗応接待というが、な。物資量では、木星宇宙軍の方が。我ら地球宇宙軍よりも遥かに上なのだぞ? どのような饗応をすれば納得するというのか?」


 ヴィフィール兄上がさっぱりわからんと言った顔でシンク参謀に聞く。


「これだから……。軍事士官学校しか出てない類の人間は。いいか? よく聞けよ? 木星に清酒があるか? ワインがあるか? スコッチに、ウィスキーにブランデーがあるか? さらに言うなら、チーズがあるか? トマトがあるか? 俺の大好きな鰻のかば焼きがあるか? そーいう事なんだよ。木星は確かに、物資量豊かだが。自然の恵みや、食文化の貧しさは目を覆うばかりだ。何なら、フランスのコート・ダジュールのニースに一週間ほど宿泊させてみろ。その上で、豪勢な料理責めと、日本の芸者でも付けてやんな。一発で親地球派に洗脳されて木星に帰ってくれるぜ?」


 あ。そういうことか。流石に、人心掌握の技にたけた司教長でもあるシンク。

 旨い飯、豊かな自然、綺麗な優しい女の三段構えで精神的に攻められたら。

 木星人如きの朴訥者は一発で地球に悩殺されるだろう。

 えげつないと言えばえげつない人心掌握術を知っている。


「では、シンク参謀。今からそれを行えば……」

「このバカ妹!! オメェの兄貴がぶちかました無差別爆撃は。そう言った搦め手を全部使えないくらいの反地球感情を木星人に抱かせちまったんだよ!!」

「……それは……、そうですね。兄上!! 何故にそのような暴挙に!!」


 私も、シンクの意見に納得。後出しのようなものだが、確かにシンクの言っている方法を取った方が上手く行く。だが、兄上は答えた。


「地球市民の総意だと。地球大統領から、命令書が降ってな。断ることができなかった。シンク、お前に聞かなかったのは。絶対に反対されるからだ」


 それを聞いたシンクは。いや、私もだが。

 口をあんぐりとあけて、フリーズ状態になった。


「そういう事だ。地球市民は、事を急ぎ過ぎている。『地球第二地殻構築計画』を巫女AIが盛大にぶち上げてから。そう言うわけだ。私は、事を急がなければならなくなった。それが例えどれほどの軋轢を太陽系に産むことになろうとも……」

「ヴィフィール!! 目ぇ醒ましやがれっ!!」


 シンクが、兄上をぶん殴った!! あんな華奢な体で恐ろしいほどの力を出してだ!


「兄上!! なりません! そんなことをしてしまっては! ただでさえ、太陽系内惑星には、今は人々が住み。それぞれに自治権をもってそれぞれの生活を営んでいます! それを強権で以って!! 『第二地殻構築計画』のための物資を奪ってしまったりしたら!! 宗主星たる我が地球に、怒り狂った各惑星の宇宙軍が叛乱軍として連合して襲ってまいります!!」


 私がそう捲し上げ、シンクが兄上に馬乗りになって胸倉をつかみ、顔を殴りまくっていると……。


「フッ……。だな。そうだよな、シンク。それにネレイド。俺も流石に、目が覚めていたところなんだ。地球市民に夢を見せ、その夢はいいとしても、だ。夢を過大に唱えて、楽園創造計画であるかのように吹聴する地球のマスコミ。俺もあいつ等にはいい加減うんざりだ。大統領に言ったよ。『示威行動はした。これで市民を納得させられるだろう』とな」


 あ。兄上、わかっていたんだ。だとしたら、先ほどまでの発言は何ゆえの物だろうか。私は、思わずそう聞いた。


「それは、秘密中の秘密なんだが……。ネレイド。お前に頼みがある」


 ? 何だろう? 兄上は含み笑いと、真剣な視線をこっち向けてくる……。

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