そんなこと一言も言ってない

「お姉ちゃん、もう、暗くなってきそうだし、そろそろ帰る?」


 映画館を出たところで、私はお姉ちゃんにそう聞いた。

 まだちょっと早いけど、帰る頃には、いい感じの時間になりそうだし、普通に、今は、変に思い出しちゃって、恥ずかしいし。


「まだ早いわよ。せっかくのデートなんだから」

「わ、私はデートなんて思ってないし」

「ふふっ、それに、今日は外で食べるつもりだったから、材料が無くて、帰っても何も作れないわよ」


 すると、お姉ちゃんがそう言ってきた。


「そ、そんなの、聞いてないよ」

「美葉が私のこと意識しちゃうから、もう帰るなんて言うからよ」

「そ、そんなこと一言も言ってないでしょ!」


 お姉ちゃんが勝手なことを言うから、私はそう言った。

 ……確かに、ちょっとだけ、意識しちゃってるかもしれないけど、そんなこと言ってないんだから、お姉ちゃんに分かるはずがない。だから、当てずっぽうで言っただけに決まってる。


「だったら、別に帰らなくたっていいでしょ? ほら、美葉の好きなハンバーグでも食べに行きましょ」

「ぽ、ポップコーン食べたばっかりだし……」

「ふふっ、少し歩いたところだから、大丈夫よ」


 そう言って、お姉ちゃんは家にいる時みたいに、私をお姫様抱っこしようとしてきた。


「ま、まって、自分で歩くから!」


 人がいるのに、そんなことされたら、もう生きていられないから、私は必死にそう言って、やめてもらった。

 すると、普通に手を繋がれて、お姉ちゃんと歩き出した。

 




「美葉、もう食べられそう?」


 しばらく歩いて、お店が見えてきたところで、お姉ちゃんがそう聞いてきた。

 

「う、うん……もう、食べれるよ」


 しばらく時間が経ったから、私はそう言った。

 いつもよりは、食べられないかもしれないけど、感覚的には、もう食べられると思ったから。

 

「良かったわ」


 すると、お姉ちゃんはそう言って、私と一緒にお店に入った。

 

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