今だけ
モヤモヤした気分のまま、それを誤魔化すようにソファに座ってテレビを見ていると、お姉ちゃんが夜ご飯を作って、テーブルに持ってきてくれた。
「遅くなったけど、出来たわよ」
「う、うん。ありがと」
まだモヤモヤした気分は晴れてないけど、お姉ちゃんにお礼を言ってから私はテーブルに移動した。
「……いただきます」
そう言って、私は夜ご飯を食べ始めた。
……美味しい。……美味しんだけど、いつもの方が美味しい気がする。……私がこんな気持ちだからかな。
「美葉、美味しくない?」
私の様子が気になったのか、お姉ちゃんは心配そうにそう聞いてきた。
「お、美味しいよ!」
だから、私は慌ててそう言った。
ほんとに、美味しいと思ってるから。
「ふふっ、ありがとう。……それと、今日のことだけど、私は一人で出かけてきたのよ。誰とも会ってないから、安心していいわよ」
お姉ちゃんは急にそんなことを言ってきた。
……意味がわからない。私は、誰かとお姉ちゃんが会ってた方が安心出来るし……
そう思ってるはずなのに、私はさっきまで抱えていたモヤモヤした気持ちが消えてるのに気がついた。
「い、意味わかんないし」
私は自分の気持ちを隠すように、お姉ちゃんにそう言って、ご飯を食べ進めた。
そんな様子を、お姉ちゃんが嬉しそうに私のことを見ているのを必死に気が付かないふりをしながら。
「ごちそうさま」
お姉ちゃんにそう言って、私はお皿をキッチンに持って行ってから、ソファに座った。
そして、そんな私の隣に、お姉ちゃんもご飯を食べ終わったみたいで座ってきた。
私は黙ってお姉ちゃんの方に体を預けて、もたれかかった。
お姉ちゃんは一瞬びっくりしたような反応をしてたけど、すぐに私の頭を撫でてくれた。
「美葉、どうしたの? 責任、取ってくれる気になった?」
「……違うから。……ただ、今だけ、こうしてたいだけ……だから」
私は恥ずかしい気持ちを抑えて、そう言った。
ほんとに、今だけなんだから。昔やった事は謝るけど、責任とか、知識がなかったんだから、取らないし。
そう思いながら、私は黙ってお姉ちゃんに頭を撫でられ続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます