そんな顔してるわけない

 私はお姉ちゃんと寝るのなら、ソファの時よりも暑くなると思って、扇風機を自分の部屋に持ってきた。

 ……寝る時に扇風機をかけながらだと、風邪を引いちゃうかもしれないけど、どうせお姉ちゃんがくっついてくるから、ちょうどいい暑さになるはず。





 そうして、しばらく自分の部屋で適当に過ごしていると、お姉ちゃんが扉をノックして入ってきた。


「扇風機持ってきたの?」


 お姉ちゃんは部屋に入るなり、そう聞いてきた。


「うん。……寝る時、お姉ちゃんがくっついてきて暑いだろうから」

「わざわざ扇風機を持ってきてまで、私とくっついて寝たかったの?」


 お姉ちゃんはからかうように私にそう聞いてくる。


「そ、そんなわけないでしょ! お姉ちゃんは、私がくっつかないでって言ってもくっついて来るから、持ってきたの!」

「一応言っておくけど、私は美葉が本気で嫌がってるなら、わざわざくっついたりしないわよ」


 お姉ちゃんはそんなバレバレの嘘を言ってくる。


「じゃあ、さっきなんでくっついてきたの」

「美葉が嬉しそうだったからよ」

「そ、そんなわけないから!」


 意味わかんないし! さっきはほんとに暑くて……嫌、だったし……


「それじゃあ、美葉は嫌だったの?」

「……あ、当たり前じゃん! 暑かったし」

「そう。……だったら、今日は別々に寝る?」

「……え?」


 お姉ちゃんが急にそんなことを言うから、私は間抜けな声を上げてしまった。

 ……だって、さっき一人で寝るって言った時は、だめって言ってたのに。


「い、いいの?」

「美葉が本気で一人で寝たいなら、仕方ないわね」


 お姉ちゃんはなんでもないように、そう言った。

 ……なんで? ……自分で言うのもなんだけど、私の事好きなんじゃないの? 


「ふふっ、やっぱり一緒に寝ましょうか。美葉」

「は、はぁ? わ、私何も言ってないのに」

「美葉が悲しそうな顔をするからよ」

「そ、そんな顔してないから! わ、私は一人で寝たかったし!」


 そんな顔してるわけない。

 どうせ将来的には一人で寝ることになるんだから。

 

「で、でも、お姉ちゃんが私と寝たいみたいだから、一緒に寝てあげる」


 お姉ちゃんが何かを言おうとしたところで、私はそう言った。

 

「そうね。……ありがとう、美葉」


 お姉ちゃんはそう言いながら私の頭を撫でてきた。

 ……お礼を言うなら、頭を撫でるなんておかしいと思うけど、今だけは抵抗しないであげた。

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