身構えている時には、死神は来ないものだということ
二度目のコロナウィルス発症、汗疱による深刻な手足の爛れ、追突事故による脊椎捻挫、痛風発作による歩行困難、そして原因不明の慢性的な高熱。
これは、ここ五ヶ月の内に俺に訪れた生活を脅かす不幸の羅列です。これらのせいで仕事が出来ず、すっかり貯金は無くなり、今ではコンビニ弁当を買うことすら恐れるほどに貧乏化してしまったワケで。
お金がないという状態は、非常に不安な気持ちになります。この上、また別の病気にかかってしまったら今度こそ俺は借金を背負う羽目になるでしょうし、なんとか健康にいられればいいなと思う今日この頃。
まぁ、それでもなんとかやってます。
別に、友達がいないだの恋人がいないだの面白いことが起こらないだの。そんなのは、今までの俺の人生に当たり前に存在していない、言うなれば『前提』みたいなモノですから。今更、人生に彩りが無いことを嘆いて悲観するようなステージにはいません。
というか、俺はそれで一回鬱病になってますし。しかも、その鬱病を家族に相談したら父親と弟にしこたま罵倒されて見下されるハメになりましたし。別に、どれだけ苦しくても誰かが助けてくれるワケでもなかったので、自分一人で勝手に回復して社会に戻ってきました。
ただいま。
俺は、自分のメンタルが弱っちいから鬱病になったのかと思ってましたが、同じようなことが一人ぼっちの人間に起きた時、多分そいつは死ぬだろうと解釈することで、逆に俺の強さを俺が認めてあげた的な。
そんなマインドで、孤独なまま、金もないまま、弱さを引きずりながら、みっともなく生き長らえて今日という日を迎えているというワケです。
タイトルの件ですが、ということはつまり、身構えていれば死神は決して訪れないというワケなのです。
……はい。
今、あなたは「どんだけ念入りに準備してバックドアを作ったとしても、それらすべてが崩壊して破滅することだってあるだろ!」と思ったハズです。
思ってない? なら、思ったという体で話を進めさせて欲しいんですけど。
要するに、この場合の死神とは、自分のことではないかと俺は思うのです。
一人じゃどうしようもないくらい追い詰められて、八方塞がりになってしまって。後は自殺くらいしかやることがねぇなぁと、そう思ってしまう窮地に立たされた時。
諦める方向に背中を押してくれるのは、いつだって死神です。そして、そんな窮地に立たされても尚、「あれだけ頑張ったんだから後悔はない」と思えたのなら、死神に背中を押されることもなく生きる方向へシフト出来るモノなのですよ。
だって、諦めるのって怖いですから。死神がいなければ、誰かに背中を押してもらえなければ、人は諦められない生き物なんだと俺は思います。
実際、俺はこの半年の出来事で心身ともに耐え難い痛みを得て(特に痛風はヤバかった、つーか今もいてぇし)、おまけに綺麗な素寒貧になってしまって、改めて実感したのです。
『まぁ、俺の人生って所詮はこういうモノだよね』と。
俺は、鬱病から勝手に回復した際に、もうきっと俺の人生には何もいいことは起きないだろうと覚悟したのです。最初っから楽しいライフイベントに期待していなければ、ライフイベントどころか普通なら掛からない病気や突飛な事故に巻き込まれることへの覚悟が出来るワケです。
だって、普通の人はまず自分が報われないことを嘆くじゃないですか。寂しいとか、退屈とか、そういう現状を悩むことへリソースを割くワケじゃないですか。
でも、俺は違うんですよ。
もう、それはない。そんなことは、夏目くちびるの人生には起こらない。だから、もう一つ上の不幸に対する覚悟へリソースを割くことが出来るワケです。
夏目君。君は何をやっても失敗するし、挑戦するたびに心は折れるよ。しかも、それを慰めてくれる人なんて現れないし、それどころか敵ばっかり増えていくよ。
こんなことを、最近は寝る前にいつも考えています。以前は突然俺の元に美少女が転がり込んできたり、宝くじが当たって人生ハッピーみたいな妄想をしていましたが、そんなことはありえないので覚悟の時間にしています。
だから、死神は来ませんでした。最初から自分に期待しなければ、傷は浅く済むのです。
……話は変わって。
今、俺が書いている小説、『夢女子の妄想みたいなラブコメ』ですが、ハッキリ言って俺はとても面白いと思っています。ランキングのどの作品より面白いですし、ラブコメという視点で見れば自作で一番バズった『くたばれハーレム』よりも面白いです。
けれど、誰も読んでません。ほとんどの人がスルーして、きっと今回も完結しても注目を浴びることはねぇだろうと容易に想像が出来る失敗作。そんなふうに思いながら、しかし続きをガンガン書いてるワケです。
冷静に考えてみれば、それって普通は心が折れます。
ならば、なぜそんなに注目されてない作品を最後まで書こうと思えるマインドなのかといえば、それはやはり最初から誰かに読んでもらえるとは思っていないという覚悟があるからなのです。
最近、友達になった素人小説家の人が「もう最後まで書く気はないんだよ」と言っていました。
多分、その人は死神に背中を押されたんだと思います。だから、エタってしまったのです。
そして、これだけは言っておきたいのですが、一度エタるとそれはクセになります。
バズらなければ書かない。納得行かなければ書かない。読者にムカつくコメントされたから書かない。気分が乗らないから書かない。色んな理由をつけて、いっぱい自分に言い訳して、書かない理由を探して自分を正当化することになります。
別に、俺はそれでもいいと思います。
書き終わらなくたって、そもそも趣味でやってるモノだし。完結させようがさせまいが、その人の自由なんだって俺は思います。
けれど、それを繰り返していると、いつか必ずどうしても自分を許してくれない存在が現れます。
それは、自分です。
自分だけは、いつも必ず自分のことを見てますから。こいつには、どれだけ理屈を捏ねてそれっぽいことを言ってみても通用しません。喧嘩すれば必ず負けるワケですから、厄介なことこの上ないワケです。
……もう、分かりましたよね。
この『自分』こそが、まさに『死神』なワケです。
自分を許してくれない自分こそが、諦めの方向へ背中を押してくれる存在です。だからこそ、どれだけ惨めでダサくてみっともなくても、自分のことは認めてあげて――。
自分に甘い自分。即ち、『天使』を飼い慣らしましょうって話です。前へ進む方向へ背中を押してくれるのもまた、自分しかいないのですから。
ということで、夏目くちびる流の最後まで作品を書き切る。引いては、クソみてぇなつまらん人生を生き延びるコツ。
それすなわち、自分に期待しないこと。
「もう全部諦めて終わりにしようかな」なんて。そんなことをずっと考えていた俺が、性懲りもなく新作を出した思考法。
今回は、そんな戯言を連連と語らせていただいた次第でございました。
……もちろん、これを読んでいる人にはまったくオススメ出来ないマインドですから。
出来ることならば、俺の読者には俺みたいな惨めな人生なんて歩んでほしくないですし、ましてや俺のマネなんて絶対にして欲しくはないですけどね。
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