なろう小説とはシアー・ハート・アタックである

 『シアー・ハート・アタック』とは、漫画『ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない』に登場するラスボスの吉良吉影のスタンド、『キラークイーン』が使用する第二の爆弾だ。



 名前の由来は、バンド『QUEEN』のアルバム。今更説明するまでもないが、ジョジョのスタンドの名前は洋楽から取られている事が多い。



 そして、このシアー・ハート・アタックの能力だが、キラークイーンの右手を取り外し一撃必殺の超強力な熱探知型追尾爆弾を標的に命中するまで走らせるというとんでもないモノだ。



 これ単体でも、他の漫画で登場すればラスボスを張れるくらいの能力であり、そして吉良吉影の最も強い願望をそのまま形どったような能力でもある。



 ズバリ、敵には死んでいて欲しい。



 これは俺個人の考察だが、シアー・ハート・アタックは吉良吉影が望む平和な人生を成立させる上で最も重要なファクターの一つだ。



 何故なら、発動した吉良吉影自身はシアー・ハート・アタックの動向を知ることが出来ないからだ。

 知ることが出来ないということは余計な不安を覚えることがないのと同義であり、即ち勝手に平穏を脅かす存在を殺してくれるというどこまでもワガママで他力本願な精神性を表しているといえるだろう。



 要するに、「無駄な努力をしたくないし追跡する苦労もしたくないし直接手を下して悪者になるのも嫌だけど、俺をナメた奴は絶対に許せないしムカつくから殺す」という事だ。



 素晴らしい。



 なんて素晴らしい能力なんだ。ムカつく奴が次の日にはひどい目にあって勝手に死んでくれるというのだから、トラブルに見舞われてもムカつくより先に「イキってるけど明日には死んでるんだよなぁ」と達観出来て心を平穏でいられるに違いない。



 流石、夏目くちびるが選ぶ漫画作品のヴィラン三選の一人。一分の隙もなくクズで邪悪でかっこいい。



 しかし、ここまでツラツラとシアハの魅力について語ってきたが、今回の本題はそこではない。



 ずばり、『なろう小説とはシアー・ハート・アタックである』という事だ。これについて、お粗末ながら語らせてもらうぞい。



 ご存じの通り、なろう小説の楽しみ方は歴史や背景を想像し勢力同士の抗争を考察し意見をブラッシュアップするモノではなく、設定を省きテンプレを使って簡略化されたシーン毎の刹那的な満足と、作者の知識と常識と倫理観の欠如を嘆きながらガバガバ具合をぶっ叩いてこき下ろす爽快感を得る事にある。



 まぁ、書籍化されるなり表面化されるなりしてる時点で、大抵の素人作家よりは遥か高みにいるんだけどな。



 さておき。



 勝手に美少女が降ってきたり能力を授かったり、はたまた自分をヒデー目に合わせた奴が無様を晒したり何もない平和な日常で目立たず目立つ事を目的としたなろう小説とは、まさしく吉良吉影の生き様に憧れている妄想と言っていいだろう。



 まぁ、ぶっちゃけ吉良吉影ほど魅力のある主人公がネット小説界隈に存在しているとは俺は思えないが、商業界隈にもそうそういないのでセーフだ。



 魅力的な主人公を作るなら、吉良吉影タイプを避けるのが無難と言えるだろう。



 しかし、ならばここで一つの疑問が浮かんでくる。



 それは、小説ならばあって然るべきのカタルシスは、なろう小説において不要なのではないか?というモノだ。



 色んなところで散々語られているのは、要するに『なろう小説は短いスパンで小さな出来事が連続して起こる事が大切』という説だ。



 これに関して、俺は『短いスパンで感動が起きる事』と認識していたのだが、しかし積み重ねがなければ人の心が動かされる事なんてないし、数多の作品で『何かやっているが何をしたいのが分からない』というシーンが連続していて、考察と現実の狭間に齟齬が発生していると思っていた。



 つまり、無理やり感動させようとして意味不明なストーリーになったり、情緒不安定になってキャラがサイコパスっぽくなる、と言うヤツだ。



 だから、『動きを作ろうとすること』、『なろうで読まれること』を両立しようとした結果、ガバガバになって死ぬほど叩かれるという悲しいサイクルがこの界隈には蔓延っているのだろう。



 ……まぁ、知らんけど。



 書いてるうちに自分の中に色々と反論が生まれてしまったのでこれ以上はやめとこ。



 とにかく、吉良吉影のイズムを参考にするならば、『激しい喜びはいらない…そのかわり、深い絶望もない…』というスタイルが最も受けやすいのではないか?というのが俺の導いた答えってワケ。



 正直、最近の俺もリアルで疲れて深い物語に没入するようなコンテンツ消費は避けるようになったし。俺は見ねぇけど、きらら系のアニメが一定の支持を得る理由も分かるし。



 だから、剣と魔法の世界で強い男が平穏無事に生きることを題材にすればいいんじゃね?って感じ。ここに女が入り込むと、途端に魅力が皆無になるのが難しいところだけどな。



 ……もう飽和してるって?分かりきってっること言うんじゃねぇよこのハゲだって?



 吠えてんじゃねェー!このスカタン!そう思うならピーチクパーチク言ってねェーで、激しい喜びと深い絶望を含んだ壮大なスペクタクルをテメーが書いてみせろってんだぜ!!



 もしもテメーに、大好きな神から貰った才能とスキルがあればの話だがよォー!?



 恐惶謹言。

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