転生特典

べるがりおん

⭐️

「──と言う訳で、特例として、あなたは好きな特典を一つだけ選ぶことができます」

 目の前にいる自称『神使』はそう宣うたが、こちらは緊張と驚愕と恐怖と困惑の入り雑じった思考の真っ只中にいるので言葉を挟む余裕もない。空気を読めと言うのか? こっちの空気も読んで欲しい。


 事の始まりは予備校の帰りであった。

 今度ダメなら働けと宣告されている絶賛浪人中の身であるため、日々予備校と自宅を往き来する生活を送っていたとある日の午後のこと。

「働いたら負けなんだけど、働かなくちゃならない負のループから逃れる道はないもんかなー」などとぼやきながら線路下を通り抜けた瞬間、強烈な光に包まれ同時に意識を失った。


 気付いた時には会議室の様な部屋で椅子に座っていた。

「は?」

 夢遊病で、もしくは催眠術でも掛けられて、見知らぬ会社の面接会場にでも入り込んだ!? いやいや、まだそんな事をしたりされたりする段階にはいない筈だ。再受験まで数ヶ月、戦いはこれからだ!の筈。筈だよね? 念のためスマホを見たら、認識通りの日付だったのでひとまず安心した。浪人生活は続くけど。


 不意にドアをノックする音が響き、「失礼します」という声と共に一人の女性が室内へ入ってきた。この会社の人かな? まさか、何かのセミナーの主催者? え、売られるの? 壺か何かを売り付けられるの? などとドキドキ(壺だけに…)していると、向かい側の位置に立った女性は深々と頭を下げる。

「──この度は当方の手違いでこのような結果となり誠に申し訳ありませんでした」

 受けた記憶の無い会社から、通常封書で送られる不採用の意味を込めた『今後の活躍をお祈り』を直でされたってことだろうか?

「当方の上司──神の一柱なんですが、あなたの住んでいる世界で用事を済ませて帰る際、転移にあなたを巻き込んでしまったようでして……」

「へ?」

「本来なら元の世界へお帰りいただくところなのですが、上司が巻き込んだ結果、あなたの身体を消滅させてしまっておりまして…」

 死んでません? それって。

「そのお詫びと説明を兼ねてこの空間にお呼びした次第です。で、事情が事情なのであなたに選択をしていただくことになりました。このまま死者の国へ向かうか。こちらの世界で生き返るか。後者の場合、こちらで新しい身体を用意させていただきます。【無闇に創造物を異界へ渡らせてはならない】という神々の規約がありまして、元の世界へお戻しすることが出来ないのです」


 悩みに悩んだ末、生き返ることを選択した。別世界で生活することになるが、予備知識や読み書き出来る能力と共に金銭やアイテム類をもらえるとのことなので、まあなんとかなるだろう。

 想像を超えることの連続からか、それとも受験のプレッシャーが無くなったからか、働くことへの忌避感がなくなっていたのは、自分のことながら不思議なものである。 


 ──そして、冒頭に戻る。

「“何でも”とはいかないので、このリストから選んで下さい」

 渡されたタブレットっぽいものの画面には『あ』から始まる索引が表示されていた。試しに『あ』を押してみる。


【相討ち…1度だけ相討ちに出来る能力。同じ相手には2度と通用しない。相応のダメージを受けるので即死の危険がある】

【合鍵…どんな錠前でも開けられる鍵。罠は解除できない】


 こんな感じで様々な特典がリストアップされていた。ものすごく多岐に渡っているようだ。

「考える時間は1時間。それを過ぎるとランダムに選ばれます」

「1時間でこの中から?」 

「いつまでもこの状態を保っている訳にはいかないので。それに期限や制限があれば、決断しやすくはあるでしょう? 最初からランダムを選ぶことも出来ますし」

「うーん……」


 結局、選びきれず1時間が過ぎた。

「では、ランダムで特典付与のお時間です。このサイコロを振ってください」

「え…サイコロ?」

「はい」

「サイコロで決めるんですか?」

「はい」と再び無垢な顔で応えられてもなあ…いや、可愛いけども。

 訊いたら『神使』は見る者の注意を引くような姿形を取れる力を持っているらしく、黒髪ロング眼鏡泣きボクロでスタイルの良い女教師というかキャリアウーマンというかな姿は確かにこちらの注意を引くに充分過ぎる……。オラ、ワクワクしてきた! いや、まだ混乱しているんだが。

「……えい!」

 やけくそ気味にサイコロを放ると同時に何処からともなく軽快な音楽が流れ出し、それに合わせるように『神使』が歌い出す。ま、まさか!?

「何が出るかな?何が出るかな?何が出るかそれはサイコロ次第よ~♪」

 …色々とアウトな気がするそれはサイコロが止まると同時にやめられた。

「……3です」

「奇数は能力の付与です。もう1度振ってください」

「……」


──というやり取りが数度あった結果、得た特典はと云うと、


「では、あなたの得た特典は『真菌類操作能力』になります!」

「シンキンルイ?」

「具体的に言うと、キノコとかカビとかを操る能力です。活性化させたり鎮静化させたり色々と出来ます。食べられるキノコを育てるもよし、気に入らない相手の白癬菌を活性化させて重度の水虫にさせてもよしです」

 何だその能力。キノコなら食料にはなるし売れるかもしれんが。

「やり直しは……」

「もちろん不可です」

 きっぱり言う顔も可愛いい! 駄目だ、まだ心がアレなかんじだ。

「……ですよね」

「では、街の近くに転移しますので、頑張って生き延びてください」

「…はい」

──生き延びれるだろうか?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生特典 べるがりおん @polgara

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ