セクシーパラディンとセクシーフットボール

疑惑に帰ってこさせられたセクシーパラディン:S8

「ナイスストップ！」

「ごめんな、諭吉！」

　立ち上がるセクシーパラディンの元へ主にDF陣が駆け寄る。

「ええんやで。序盤は誰でも動き、固いしな……と！」

　そう言ってウインクを送る彼に選手も観客の女性も思わず見とれた。その最中、まだ話の途中だと言うのにユーキチは短いモーションでパントキックを蹴る。

「えっ！？」

「やべ！」

　そのボールは風にのってぐんぐんと飛び、一気に北御佐管野高校陣内まで行く。ターゲットはもちろん淳一だ。

「ビエン！」

　北御佐管野高校のDF陣は誰も準備ができておらず、インキュバスのFWは楽々とそのボールをトラップしドリブルを開始した。

「もどれもどれって！」

　北御佐管野高校のGKは泣きそうな声で指示を出す。彼にしてみればビエンではなくぴえんな気持ちであったろうが、その言葉は古すぎ、対応は遅すぎた。

　淳一は併走するDFを片手で押さえつつペナルティ・エリアまで侵入し右足を振り抜く！

「「おおー！」」

　と観客がどよめく程の強シュートにGKは一歩も動けない。淳一のゴールで御佐管野高校が先制する事となった。

「隠田すげー！」

「今のは諭吉くんのアシストが良かったんだよね！？」

　御佐管野高校サッカー部の控えと暇をしている平城高校補講参加組の女生徒達が口々に賛辞を送る。

「さて……と。これで少しはやりやすくなったかな」

　一方のセクシーパラディンはそれに浮かれるでもなく静かにスパイクの紐を解いていた。

「やったじゃんセクシーパラディンっち！　って靴、どうかしたの？」

　流石にパントキック中は少し離れたサキュバスが彼の肩へ戻りながら訊ねる。

「実はどうもしてないんやけど。すみませーん！」

　セクシーパラディンは手と声を上げて審判にアピールし、紐を結び直す時間を要求した。審判は急ぎなさい、といったジェスチャーをしつつ北御佐管野高校のキックオフによる再開をしばし遅らせる。

「ほへー、やっとるな～。アイツほんまにパラディンなん？」

　御佐管野高校ベンチで目渡は独り唸った。彼女が、彼女だけがユーキチが相手の反攻の意思を削ぐ為、ひそかに紐を解いて間を作った事を見抜いていた。

　一般的に聖騎士の誓いの中には『汝、謀ることなかれ』というモノも含まれる。しかし先程の会話を続けると見せかけて急に蹴ったパントキックといい、今の靴紐が解けた偽装といい、反則とまではいかないもののマリーシアが十分に含まれるものだ。

　目渡はその部分で、彼のパラディン性を疑ったのである。

「「きゃー格好いい！」」

　今しも、ユーキチは口でGKグローブを引っ張って外し、紐を結び直していた。その仕草のセクシーさに、女生徒たちから悲鳴があがる。

「あれもやっとんなー」

　目渡はそう言って、三国志に出てくる老将のように存在しない顎髭をしごいた。セクシーパラディンは幻術によって自分を目立たない存在に偽装している、と口にはしていた。しかし手袋を口にするなど、所作の部分部分でセクシーさが隠せないでもいた。

「まあ、試合に支障がなければええか」

　そう嘯く間にも試合が再開する。目渡は余裕をもってその動向を見守った。