ゴール前に帰ってこさせられたセクシーパラディン:S7

 御佐管野対決が始まって早々に、パラディンの能力が発揮された。御佐管野高校のお粗末なラインDFが大きくバウンドしたボールの処理でいわゆる『お見合い』をし、北御佐管野高校のFW二人が一気にゴール前まで走り出たのである。

「あわわ、絶体絶命じゃん!」

 セクシーパラディンの耳元でサキュバスが慌てふためいた。彼女は試合中も定位置を変えるつもりは無いらしい。

「大丈夫だ。お前! 来い!」

 一方のユーキチは鋭い気合いと共にボールを持つFWに向かって叫んだ。その声を聞いたFWは鼻息荒く……

「ふん!」

と足を降り、シュートをハーフエルフの真正面へ放った。

「ああああ~」

 観衆から一斉にため息が漏れる。もちろん、ユーキチはそのシュートを楽々とキャッチし、ゆっくり膝、肘と芝生につけて倒れ込んだのだ。

「なにやっとんねん!!」

「あほか!」

 北御佐管野高校のベンチ及びシュートを放ったFW以外の選手の怒りは激しいものだった。特に彼の少し後ろを走ってパスを要求していた2TOPの片割れの失望は相当なものだ。

 何せ彼らはまだペナルティエリアのすぐ外で、シュートを急ぐような局面ではなかったからだ。もう少し進入して確実に決められる距離と角度からシュートを撃っても良かったし、GKを釣り出した上で相棒にパスを出し、無人のゴールに流し込んでも良かったのだ。

 いくら北御佐管野高校サッカー部が御佐管野高校と同じ程度に弱小校であるとは言え、サッカー部のスタメンをはれる程の選手がそんな判断をできない筈がない。

「いや、でも、なんか俺……」

 呆然と言い訳にもならない言葉を吐く選手を、セクシーパラディンは慈愛と罪悪感に満ちた目で眺めた。何故ならFWはシュートを彼に『撃たされた』からだ。

 パラディンが持つアビリティ『挑発』によって。


 多くのゲームにおいて、パラディンというクラスは『タンク』『防衛役』に分類される。パーティの盾となり主要な攻撃を引き受け、他の撃たれ弱いクラスを直接間接的に守る役割である。

 その際に使用されるのが『挑発』という能力だ。平均以上の知恵がある敵にしてみれば、わざわざ防御力が高く体力もあるパラディンを攻撃するのには旨味が無い。回復役や高ダメージが出せるクラスを倒してから相手しても良い訳である。

 そんな敵に強制的に自分を狙わせるのが『挑発』またはそれに類するアビリティだ。大きな声、相手を苛立たせるジェスチャー、或いはなんらかの聖なる力……。タンクはそれらを駆使して敵の注目と攻撃を自分の方へ向けてしまう。

 例に漏れずセクシーパラディンにもその能力が備わっている。ではその能力をサッカーに用いればどうなるか? 結果は見ての通りである。

 挑発されたFWはより確実なプレイを選択するでもなく、より有利な状態にある味方選手にパスするでもなく、兎に角パラディンに向かって攻撃、つまりシュートを放ってしまう。

 ユーキチとしてはそうやって放たれた雑なシュートを落ち着いてキャッチすれば良いだけであった。

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