ピッチに帰ってこさせられたセクシーパラディン:S6

 4校対抗リーグは先週の日曜日が開会式と1戦目、今日が2戦目と3戦目及び閉会式というスケジュールである。御佐管野高校は午前に北御佐管野高校と御佐管野決戦をし、昼食休憩をとって午後に平城高校と対戦する予定であった。

「北は体力しかない田舎モンの集まりやけど、油断するんやないで!」

 試合前のベンチで目渡はそう発破をかける。もはやマネージャーを越えて監督状態ではあるが、それには理由がある。

 目渡は御佐管野高校サッカー部のマネージャーに就任して以来、陰陽術を用いて密かにサッカー部員の心を操ってきた。本人等の自由意志を奪う程ではないが、目渡の言う事にはなんとなく逆らえない精神状態になっている。

 目的はひとえにサッカー部強化の為だ。と、目渡はセクシーパラディン達に告げた。他者を意のままに操るのは聖騎士にとって看過できる事ではない。リーグが終われば解放するとの約束を両者は交わしていた。

 もっともその術なくしてはユーキチがサッカー部員として、しかも正GKとして出場するのも難しい話ではあったが。

「シュートは撃たせてええからな。いつも通り」

 ユーキチは仮初めのチームメイトのDF陣にそう話しかける。

「え? ああ、うん。相変わらず凄い自信やな」

 CBの一人が曖昧に頷いた。もちろん、そのような記憶はない。目渡の術とセクシーパラディンの目力によって強引に頷かされているのである。

「(まいったな。今回で幾つの禁を破ったのだか……)」

 彼は心の中でそう嘆息した。厳しい戒律に縛られた信者も、巡礼先ではその戒めから幾らか解放される事が普通である。パラディンもその例に漏れず、彼にとっての異世界で軽い誓いを少々、破ったとて聖なる騎士としての力を失う訳ではない。

 だが同時に心に重みを感じない訳でもない。また世界を隔てた事によって、パラディンとしての力はかなり制限されていた。

「あんな事を言って良かったん? 1日4回ってシュートにしたらたったの4本やろ?」

 他の選手達がピッチに散らばって行った後で、目渡はユーキチのそう訊ねた。

「そうや。でもお昼休憩挟んだら、回復するかもしれん。それやったら最大8本やで」

 セクシーパラディンはグローブの準備をしながら答えた。彼女らが話しているのは聖騎士が持つある特殊能力の事である。本来は別の目的に使用されるパワーであったが、サッカーにも転用できない事もない。

 そのアビリティの存在が、勝利の鍵になると彼女と彼は考えていた。

「あの、GKの諭吉さんですよね?」

 ふと、話し合う二人にある女生徒が声をかけてきた。

「ふぁい?」

 ユーキチはグローブを装着しながら答える。声がおかしいのはまだ装着していない方のグローブを口にくわえているからである。

「えと、応援してます。がんばってください!」

「ああ、どうも。ありがとうございます」

 そう言われた彼は袖をまくりグローブを脇に挟み、その女生徒の手を両手でしっかりと握る。

「「きゃーー!」」

 少し離れた所にいた女生徒の群れから悲鳴が上がる。その制服を見るに平城高校の生徒たちであろう。そもそも御佐管野高校サッカー部に応援団はいない。誰も期待していないからだ。

「日曜やけど部活?」

「ううん、補講です」

「そうなんや。偉いな。勉強、頑張って。俺も頑張るし……って平城の子やんな? 俺が頑張ったらアカンやんな」

「ううん、ぜんぜん! あいつらぶったおして!」

「はよいけ!」

 手袋を口に銜える、腕の筋を見せつける、優しく話しかける……ナチュラルにセクシーさを出して女生徒と会話してしまうユーキチの背を、目渡は蹴った。見れば確かに他の選手達は凄い目でこちらを睨んでいる。

「ほな。俺は0点に押さえるけど、自分はええ点とるんやで」

 セクシーパラディンは最後にそう行って、彼女らの前を去った。後には女生徒たちのため息が残った。

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