魔王撃退

「おのれ、魔王!」


「聖女を離しなさい!」


 コジローがハンマーを、リリアが火炎瓶を投げつける。


 だが、攻撃は魔王の身体をすり抜けてしまった。


 手詰まりになったコジローが、手裏剣を投げる。硬直狙いだ。

 手裏剣すら、魔王の身体にはかすりもしない。


「ふはは! このワシにハメは効かん!」


 メタい発言をしながら、魔王が宙に浮く。夜空に向けて、両手を広げた。


「死ねい。【メテオ】!」


 魔王は空から小型の隕石を落とす。


 隕石の直撃を受けたリリアとコジローが、戦線を離脱する。


「二人は周りの処理を頼む。ウルハは、俺たちが助ける」


「頼みます、ジュライ。コジロー、行きましょう」


 リリアがコジローを伴って、魔王配下の殲滅へと向かった。 


「さてどうする? もうハメ技は使えぬぞ」


 宙に浮き、魔王がまたメテオを放つ体勢に。


「やらせない。【アイスストーム】!」


 ハメが効かないなら、正攻法で行くしかない。


 これまで使わずに溜めていた【魔法】を、レンが一気に解き放つ。


「ぐうう! おのれ!」


 浮かんでいた魔王が、氷魔法によって地面へと叩きつけられた。

 そこへすかさず、俺が聖剣で斬りかかる。

 正攻法、【魔法ハメ】で。


「からのぉ、【ライトニングボルト】!」


 俺は剣を天へかざし、雷の帯を召喚する。

 雷に縛り上げられた魔王が、硬直した。

 そこへ、レンが背後に回って、魔王の腰を掴む。


「サンダー・ボルト、スープレックス!」


 レンはそのまま、魔王を後ろへ投げ飛ばした。


「くうう! さしものワシも、魔法に耐性はない!」


 当然だ。魔法は「初心者の救済措置」だから。いわゆる「緊急回避用のボム」なのである。


 俺たちは熟練のプレイヤーだ。しかし、俺たちは容赦も手加減もしない。


 魔王よ。こっちはお前なんかで、苦戦していられないんだ。

 最後の戦いが待っているからな。


「自分の【メテオ】で死ね!」


 大量の魔力を使って、俺とレンは【メテオ】を同時に展開した。一番魔力を食うから、最後まで取っておいたのだ。

 隕石を浴びて、魔王の体力ゲージがゼロになる。

 そこへすかさず、聖女ウルハが魔方陣を形成した。魔王を浄化するのだ。


「世界を覆い尽くす闇よ、光とともに滅せよ!」


 決まった。大魔法によって、魔王が完全に倒される。イベント戦闘なんだが。


「ぬう! 世界は、人間を選んだか。だが、人間こそが争いを生み出す! ウボアーッ!」


 暗雲に覆われた空が、晴れ渡る。魔王の最期だ。


「勇者ジュライ、レンよ、ありがとう。あなたたちのおかげで世界は救われま」

「死ねええええ!」


 ウルハの感謝の言葉なんかに耳を貸さず、俺とレンは互いに切り合う。


「待ってたぜ、この時を!」


 俺の聖剣と、レンの魔杖がきしんだ。


「やっぱこのゲームのラストは、聖女争奪戦だよね!」


 武器が弾け合い、お互いに距離を取る。


「ふたりともやめなさい!」


「やめない! むしろ俺とレンは、決着をつけるためにここへ来たんだ!」


 聖騎士の俺と、悪役神官のレン、どっちが聖女をものにするのか!


「でもさ、ちょっとまってジュライ。これさあ、元の世界に帰れるのかな?」


……そういえば。


「そもそもさ、なんで喚ばれたんだろう?」


「俺に聞かれても」


 このゲームに、異世界転移されたキャラなんていないはずだ。

 どうして俺たちが、転移者として選ばれたんだろうか?


 しかし、考えてもしょうがない事柄が一つ。


「元の世界に帰るのと、ウルハたんを手にするのと、どっちが大事だ?」


「んなもん、決まってんじゃん!」


「だよなあっ! 帰れなければ、そのとき考える!」


 いわゆる「俺たちの目的は、ここからだ」ってやつである。


「いい? 勝ったほうがウルハたんをゲットする!」


「どっちが負けても、恨みっこなしだ!」


 このゲーム恒例、ウルハたん争奪戦の始まりだ!

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