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両親が私の顔を覗き込んでいる。それはそうだろう。生まれて間もない赤ん坊がいきなり話したのだ。しかも名前っぽい単語を。
「うん?お、おい。もしかして話したのか?」
恐る恐るザハルが私に話しかける。
「うん。僕、エルヴィスがいいな。」
「!?」
「!?」
両親は大きく目を見開いて私をみた。それを見て私は不覚にも面白いと思った。二人とも驚き過ぎて目玉が飛び出しそうな勢いよ。
「名前。エルヴィスにしたい。それに書いてある単語に意味、通じたって意味でしょ?だから色々な物事に精通して、広く知見を得るっていう意味を込めて。」
「そ、それは素敵だけど。あなた、それ意味がわかって言っているの?」
アネモスが少し声を震わせながら口を開く。
「うん。もちろんだよ。僕も魔法が使えるんだ。だからこうやって喋ることもできるし、文字を読むことだって問題ないよ。ねえ、名前いいでしょ?」
「ああ。もちろん。本人がいいならそれが一番だ。なあ、アネモス。」
「ええ。そうね。そうしましょう。」
二人とも言葉では肯定しているものの、まるで不吉なものを見てしまったかのようなとても怯えた目をしていた。フレユールの嘘つき。明らかに怪しがられてるんですけどっ!?これからどうすればいいの?
「ありがとう。僕、眠いから寝るね。」
「ああ、おやすみ。」
「おやすみ。エルヴィス。」
それから私は寝息を立てて寝ているふりをしながらも両親の方を窺っていた。
「ねえ、ザハル。あの子、喋ったのよ。生後数日で!?お母さんが喋るのは一歳になってからって言ってたわ。あの子やっぱり普通じゃないわ。もしかして、プレイ‥」
「そんなわけないだろう。第一、君のお腹から出てきた我が子がそんな不吉なものじゃない。彼も言っていただろう。魔法で話したんだと。俺や君が知らないだけでそういう魔法があるのかもしれない。ということはあの子は誰に教わるでもなくその魔法を使えた。これは天才かもしれないぞ。」
「そうねっ。あの子は天才なのよ。文字だって読めたしね。将来が楽しみだわ。」
やばいもの認定されて追い出されたらどうしようかと思っていたけれど杞憂だったようだ。脳内お花畑の両親はあっさりと私を受け入れた。何なら天才だと思った始末だ。少し呆れたが、この二人とならばうまくやっていけそうだ。安心したら眠気が襲ってきた。そういえば私はまだ生まれたなかりの赤子だった。私の意識は少しずつ薄れていった。
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