体が重い。手足が思うように動かない。なんなのこれ。私が目を開けると笑顔の男女が顔を覗き込んだ。

「おお。目を開けたぞ、アネモス。」

「ええ。ザハル。本当に可愛いわ。」

私は自分の手を見る。すごく小さい指、短い腕。言葉を発そうにも口から出るのは言葉とはかけ離れたものだった。まるで赤ちゃんの泣き声のような‥。赤ちゃん?そういえば私転生したんだっけ。もしかして赤ちゃんになったってこと?


「では、この子の属性を調べようか。」

「そうね。そして属性に合った名前をつけてあげましょう。この子が加護を受けることでできるように。」

「ああ。そうだね。では、この陣の中に置くよ。」

どうやらこの世界では一人一人属性があるようでその属性に合った名前が付けられ、得意とする魔法も属性ごとに異なるらしいということが二人の会話から分かった。私はなんの属性があるんだろうとワクワクした。ザハルがゆっくりと私を不思議な陣の中央に置く。しばらくしても特に変化はなかった。両親の顔を見ると二人とも最初は不思議そうな表情であったけど、段々と顔がこわばっていった。え?なになに?なんか私やっちゃった?

「普通は属性に合った光が出るはずなんだけど。もしかしてこの子は属性がないのか、もしくは‥。」

「ねえ、大丈夫なの?こんな時どうすればいいのかな?」

アネモスは泣きそうだ。私の方が泣きたい気分だよ。

「うん。神継者様に相談してみよう。あの方なら何か分かるかもしれない。」


二人は私を連れて街の中心にある大きな教会?(見た目は私の世界の教会みたいなんだけどちょっと違う)を訪れた。

「神継者様!私どもの子供を見てください!」

ザハルが大声で叫ぶと奥からいかにも牧師のようなお爺さんが出てきた。

「どうした。ザハル。おお、最近生まれた子というのはこの子か。この子がどうしたのかね?」

「はい。この子の属性を調べようとアトリビュートを行ったのですが光らないんです。この子は大丈夫なんでしょうか。」

「うん?それはおかしいな。普通は属性に合った色で光るからな。ちょっとその子を見せておくれ。」

うっ。ジジイくさい加齢臭っていうのかな。いやだ。こんなジジイに抱かれたくない!私は必死に抵抗しようとしたけど頭の中でフレユールの声が響いた。

(こら。抵抗するんじゃない。これは君にとって重要なことなんだから。)

(でも!私の属性が分からないって言ってたじゃない!私、魔法が使えないってこと?それならこの世界に来た意味がないじゃない!)

(はは。大丈夫。心配しなくてもいいよ。さあ、このジジイの言う通りにしなさい。)

(あなたもジジイって言ってんじゃん。)

私は諦めて息を止めてジジイじゃなかった、神継者様の腕に大人しく抱かれた。

「ふむ。どうやら魔力はあるようじゃがね。少し待て。」

神継者様は祭壇に行き、中央にあるすごく大きくてなんて書いてあるか分からない模様が書かれた一枚岩の上に私を置いた。ああ、ようやく息ができる!

「汝、我々をお守りくださる神々よ、精霊よ。その者の本性、正体を表せ。」

神継者様は今までののんびりした話し方とは打って変わってすごく重々しい話し方?まるで呪文を唱えるように祭壇に向かって話す。すると岩から眩いばかりの光が発せられた。私は眩しくて反射的に目を閉じてしまった。乳飲み子には少し刺激が強すぎたようだ。

しばらくして光は収まったけれど私の両親は声が出ないようで二人とも口をぽかんと開けて固まっていた。

「うむ。珍しい。この子はどの属性にも当てはまらない。」

「それってこの子はプレイグ(災厄)ってことですか?」

アネモスが震える声で話す。神継者様はゆっくりと首を横に振る。

「いいや。そうではない。少なくともこの子には悪の魔力は感じられない。きっとまだ知られていない力なのだろう。だからこそ注意が必要じゃ。この子はこれから善い側にも悪い側にもなれる。お前たちは善い人間に導いてやる必要がある。そしてこのことはこの子が大きくなるまで誰にも知られてはいけない。いいな。肝に銘じておけ。」

「分かりました。」

「あの。名前はどうすれば良いですか。」

アネモスが聞く。確かに名前どうすれないいのよっ!神継者様は少し考えて答えた。

「お前たちで考えろ。確かに属性から考えることもできないし、加護も受けられるか分からん。それでも名前というのは親から子へ初めての贈り物じゃ。その子の将来を願う名前ならば属性などどうでも良いではないか。昨今、皆属性というものを重く考えすぎなのじゃ。本来、名前は子供のことを第一に考えなければならないもので、その子の属性や加護などおまけに過ぎん。その子の幸せを思って素敵な名前をつけてあげなさい。」


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