今日は八月十日。夏休み真っ盛りだ。夏休みなら学校はないし、昼間に外に出ても大人から咎められることもない。私は、本屋さんに最近出版された『最新魔法・呪術総集』を買いに行こうと久方ぶりに外に出た。そういう外出の時は気分が悪くなることは少ないから自分でも不思議だったけど、実際にそうなのだから仕方ない。玄関で靴を履いていると母親がいつの間にか後ろに立っていて嫌味を言われたけれどそんなこと気にしない。何より私はあの本が欲しい。そのためなら母親の嫌味の一つや二つくらいどうってことないのだ。


 本屋さんが見えてきた。もうこの信号を渡ればすぐだ。早く信号変わらないかなと思いながら足元を見る。(おっ、五百円玉が落ちてる!ラッキー!)

私は、屈んで拾おうとした。ちょうどその時子供が走ってきたが、私が屈んだことにより軽くぶつかってしまった。子供は後ろによろめく。幸いなことに転んではいないようだった。ちょうどその瞬間、「危ない!」と周りから鋭い声がかけられた。

「え?」

私は間抜けな声を出して周りを確認しようと頭をあげようとしたが遅かったようだ。体に大きな衝撃があり、次に私が見たのは青空。え?空?私、さっきまでアスファルトの地面を見てたよね?なんで?そう思ったけれど、不覚にも綺麗な空だなと思った自分はかなりお気楽なやつだ。長い時間だったように思われた浮遊感の後に、私は硬い地面に叩きつけられた。どんっ!と大きな音がした。その瞬間体に激痛が走った。痛い!!目の前には大きく歪んだ自動車のバンパーが見えた。もしかして私轢かれたの?死ぬ?ヤダヤダ!死にたくない!私はあの本を買うんだから!ねえ、助けてよ!子供の泣き声。ああ、あの子は無事かな‥。

「わーん!えーん!」

「おい!お前どこ見て運転しているんだ!」

「大丈夫ですか?」

「もう、どう見てもダメだろ。」

「そんなこと言うなよ。それより救急車!」

「りょうちゃん!!大丈夫!?」

「うん‥ぐすっ。お姉さんが助けてくれたから。でもあのお姉さん、大丈夫?いっぱい血が出てるよ。」

「えっ!じゃあ、りょうちゃんを庇って‥。あなた大丈夫ですかっ!?」

「ちょっと、邪魔!ガキを連れて寄ってよ!」

「でもっ!この人はこの子を庇ってこうなったんですよっ?」

「もしそうだったからなんだ?その子を治療できるのか?できないならよそに行ってくれ。」

「えっ。わかりました。りょうちゃん、行くよ。痛いとことはない?」

「うん。どこも痛くないよ。」

そっかあ、あの子大丈夫だったんだ、良かったな。私は自分の体の力が抜けていくのが分かった。視界が暗くなる。

「おい!お嬢ちゃん!もう救急車来るからな!もう少しだ!頑張れよ!」

そんなこと言われても‥。そこで私の意識は途切れた‥。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る