第93話【 回復魔法の弱点 】


 <ビビュンッ、ビビュンッ、ビビュンッ、ビビュンッ、ビビュンッ、ビビュンッ、ビビュンッ、ビビュンッ、ビビュンッ、ビビュンッ、ビビュンッ>


グリア神経膠ウルフの群れから放たれる触手の槍が、アルガロスを集中的に攻撃する。


『くそっ! カッコつけようと突っ込んだのが間違いだったか…』


「カルディア!! 何かイッパイ飛んで来てるだろ!?」


目が見えて無いのに、アルガロスの後先考えない行動とその安直な言葉に、カルディアの焦りが爆発だ。


「アルガロスのバカ━━━━━━!!」


見えない触手の、回りの全ての波を正確に感じ取ろうとしているアルガロスは、更にオーラ循環速度が上がっていく。

身を翻し剣を振るいながら鋭利な魔力が波となって、更に集まりだすグリア神経膠ウルフを迎え討つ。


「バカはバカでも、俺達はだろ!!!」


素早く流れる様に、迫りくる魔力の波へ向けて剣を振る。


<ビビュンッ、ビビュンッ、ビビュンッ、ビビュンッ、ビビュンッ>


<ザザザッザッドンッザンッズバドンッズバドドンッズバッ>


<ブシュシュッ>


血しぶきが上がり、赤いもやが立ち込める。

アルガロスの足元には、刻まれて幾重にも重なる触手が<ピチャピチャ>と醜い音を立てながら動いていた。


「アルガロス!?」


しかし、カルディアの目に映ったものは下に落ちて触手……。

何本かの触手がアルガロスの身体を貫いていた。


グリア神経膠ウルフの動きが一瞬止まる。

幾つかアルガロスの身体に刺さった、自分達の触手を眺める様に……。


「ごほっ、うぐっ」


「かっこわりー……。幾つ刺さったんだ?」


アルガロスは、突き刺さった触手を数える様に触っていく。


「俺にはこんなショボい触手モドキは効かねーんだよ。もっとに貫かれた経験があるからな!」


言葉が通じないグリア神経膠ウルフに無駄に啖呵を切るアルガロス……。

しかしその顔は痛みに歪んでいる様だが、かなり強気だ。

そんな言葉に、エルは冷や汗を流している。

確実に自分の事を言われているからだ。


モサミスケールも、エルの頭の上で困惑し眉を下げていた。


パーフェクト・ヒール完全回復


<パァーンッ>


カルディアの魔法が飛んでくる。

しかし痛みは和らぐが、それ以外は何も変わらなかった。


『……やっぱり』


「体内に異物が入ってると効果が出にくいみたい。除去出来る?」


今迄の経験から、カルディアはパーフェクト・ヒール完全回復等の回復系魔法の弱点を痛感していたのだ。


「突き刺さったままじゃぁ効果が出にくいのか……。しかしコイツ等、襲ってこなくなった……?」


アルガロスはこの隙に、突き刺さった触手を抜き取ろうと手をかけた……その時。


<グチョーグチョグチュグチュグチュグチュ>


突き刺さった触手が突然暴れ出す。


「ぐおおっ!?」


激痛に顔を歪めるアルガロスが、悶え苦しみながらも触手を抜こうとするが暴れている為抜く事が出来ない。

それどころか、ある異変がアルガロスの身体を走る。


<ズゴゴ……>


『えっ!? 魔力が…吸い取られてる??』


そう感じた時、握っていた触手に違和感を抱く。

徐々に膨れ上がる触手の塊。

そして……、先端には……醜く顔の様な形が膨れ上がる。


『こ、こいつ、俺の魔力を吸い取って、グリア神経膠ウルフに成長しようとしてるのか!?………』


『ヤバイ! このままだと……、膨れ上がったウルフの身体で、俺の身体が破裂する!』


その時、アルガロスはエルの触手に貫かれた時の事を思い出していた。

強すぎる魔力の波の前では、触れる弱い身体、魔力は崩壊すると……。


アルガロスは………ニヤリと笑った。


「なら、とことん吸収してみろよ━━━━━!!!」


<ドンッ>


更に湧き出る強い魔力と、鋭く速いオーラ循環速度の波が、締め付ける様に触手を襲う。


<ミシミシッ……>


余りにも濃く、大きく、鋭い魔力の為、グリア神経膠ウルフの触手が黒ずんでいく。

キャパオーバーなのだ。


<パンッザザザッ……>


そして……、もろく弾ける様に崩れていった。


パーフェクト・リジェネレーション完全再生


<パパァーン>


素早く飛んでくるカルディアの強制的で強力な回復魔法。

アルガロスの傷が瞬時に再生し癒され、回復していく。


「サンキュー、カルディアッ!!」


そう声を掛け、アルガロスはすぐさまグリア神経膠ウルフへとまた飛び込んで行った。

そんな……軽率な姿を見たカルディアは大声で……。


「じゃなくて、距離をとれっての━━━━━━っ!」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ドラントスの街中、北側に規則正しく生える林の影に、あの………魔導師シモニアの姿があった。

彼は危険を察知し、何処かで身を潜めていたみたいだ。

グスタム子爵家跡地を眺めながら、冷たい表情を作っている。


『パタラエ村はギルドにより占拠され、グスタムの屋敷もこのザマか……』


『それに……、” スフラギダ・オラ “ を掛けた屋敷と箱を破るとは……。』


スフラギダ・オラ ” とは、全てを封印すると言う意味があり、強い魔力を伴う国宝級財宝等を運搬する時に箱にこの魔法を掛けると、関係者以外、他者から感知されにくくなる魔法だ。


『やはり何かが……。はやく副師団長に知らせなくては』


作りかけの防壁近くに繋げていた馬にまたがり、魔導師シモニアは走り去っていった。


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