第91話【 超ウルトラ激レアスキルの訓練 】


 <ガガガガガッ……ガガガガッガガガガガガッ>



「……ありゃ?」


ハンマーを振り下ろした所がハンマーもろとも粉々になり、その回りの岩にヒビが走る。


<バキバキバキッ>

<ゴゴゴゴゴォ━━━━━━━━━>


洞窟が揺れている。と言うより………ヒビが広がって……。

ヤニスの顔色が青ざめていく。砕石作業をしていると、稀だがこういうが起こるのだ。


「や、ヤバイ! 崩落するぞ!」


「逃げるんだ━━━━━━━!!」



<ドゴドゴドゴ━━━━━………ン……………………>



危機一髪、外へと飛び出したみんなは、崩落した洞窟を眺めながら………、ホコリを被った真っ黒な顔で呆然としていた。

口を尖らせたアルガロスが、頭を掻きながら恐縮している。


「………ご、ゴメン……。やり過ぎた……」


「いや、俺が頼んだんじゃから、気にす(フゥ)る(フゥ)な………」


引きつった顔でそう答えるイリアス。

コラースはこの現状をどうする事も出来ず、素直な思いが口から出てくる。


「洞窟……、魔光石……崩れて埋まっちゃいましたね…」


その言葉を聞いて、ヤニスがある事に気付く。


「ああっ! それだそれ! 全然大丈夫だぜ! 砕く作業が無くなったって事だから、後は掘り起こせばいいだけさ!」


と、笑顔で手に持つ魔光石を前に出している。


「そう(フゥ)か! (フゥ)砕く(フゥ)より掘り起こし作業(フゥ)の方(フゥ)が楽(フゥ)だからな! 宝の山にゃー変わりねえー! ダハハハハー」


イリアスも、手に持つ魔光石を前に出しながら、簡単で楽なその方法に納得してるようで、恐縮しているアルガロスの背中を笑顔で<バンバン>叩いていた。


「あはっ……あはははは……」


アルガロスの弱々しい作り笑いが、暗闇の鉱山に響き渡っていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 <チュチュッチュチュッ>

     <チュチュチュチュッ>



小鳥が楽しそうにさえずる、朝日が眩しい倉庫街。

イリアス倉庫近くの家の中で、朝食をモリモリ食べる男達の背中がある。


その横で上品に食べる女性達が、冷やかな目で男達を見ていた。


「ほんにもう……、昨日はビックリしたよ。真っ黒になって帰って来るんだから……」


そう言うのはイリアスの妻、タニアだ。


「ごめんねー! 俺の力が強すぎて!!」


と、アルガロスは笑顔で自慢げに謝って? いた…。

すると、ヤニスの妻、セラニアが眉を下げながら笑顔で手を左右に振っている。


「違うのよ。母は父やヤニスに言ってるの。鉱山の採石専門家がいながら、こんな事になってどうするのってね」


<ギクッ>として、イリアスとヤニス、ついでにコラースの手が止まる。


「そうだよ、ほんに…。目の色を変えて強引に掘り出そうとしたんじゃろ。これじゃあヨハノスを連れて行けないね!」


イリアスとヤニス、ついでにコラースも背中を丸めながらユックリとおしとやかに朝食を口に運んでいた。


それを見て、エル達はいつも通り他人事とケタケタ笑っているが、カルディアがそれにキツイ横槍を入れる。


「うちの男共も加減が分からないみたい。壊しちゃうから」


その言葉にエルとアルガロスも<ドキッ>として、手がとまった。

女性陣がみな顔と声を合わせて、頷いている。


「やーねー!!!」


セラニアとカルディアの間に座っていたヨハノスは、そんな会話の内容が分からず、スプンを咥えながら<ポカン>としていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ドラントスの街の門の近くに、クラウディー達、バジール達、リッサやコラース、ファイナ達がいる。

デイキシスギルドマスターのシルヴァニア、ロードル家の衛兵隊長のジモンとその娘ベルナの姿も。


「じゃあ一旦バルコリンへ帰って、局長に報告してくる!」


そう言いながら、クラウディーはシルヴァニアと握手を交わした。


「半年くらいを目処に、解決出来る様に動かなきゃならない。忙しくなるな! 気を付けて!」


その横で、リッサとジモンも握手を交わしていた。


「有難う! 世話になったな」


「いえいえ、こちらこそ。ジモンさんの言う通り、時が動きましたね!」


「ああ。これからが大変だけどな!」


そう言ってみんなは手を振り、其々の役割の為別れていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 <ザッザッザッ>


 ドラントスの北側にある町を出てはや1日。渓流沿いを山手へ向けて歩いている、エル、アルガロス、カルディア。


彼らは、逃げたであろう魔導師や、ウドクローヌ子爵の陰謀を暴く為、スパータルへ向けて歩いているのだが、例の如く訓練を兼ねて移動している。


その中で、何故かエルだけケタケタ笑っていた。


先頭を歩くのはアルガロス。

しかし時折フラフラと左右に揺れ、つまずきながら歩いている。


何故かと言うと……。


されているのだ。

<ガツッ>とつまづくアルガロス。


「イテッ。バツゲームかこれは!!!」


苛立ち半分、怖さ半分、よちよち歩く後ろ姿を見て、エルはお腹を抱えながら笑っていた。


これはアルガロスのスキルUPの為、エルが考案した訓練方法。


三次元空間に存在する物体と、相対する自分との距離感や速度、時間を把握する為の訓練だ。

視力以外の感覚と、魔力、オーラの波を駆使し、

見ている様に全体像を把握しろという事だ。


これは彼が持つ “ 空間認識力 ” を高め、の、


” 特殊複合空間魔法 “


を扱える様にする為に。



そして、その後ろを歩くのはカルディア。

カルディアは40センチくらいの木の棒を持ち、ガンミしながら歩いているのでつまづいたりしている。


それを見ながら、エルはまたケラケラ笑っていた。


カルディアが持つ木の棒には、呪いの刻印が刻まれていて、一定時間が過ぎると木が粉々になってしまうのだ。


これは、エルが楽しみながら刻印した呪い……。


呪いの刻印は他の魔法より術式が複雑なので、解呪を何度も繰り返し経験する事によって、術式の原理、構成や理解、解呪をより早く、正確に行える様にする為だ。


これは彼女が持つ、の、


” 特殊複合万象魔法 “ を扱える様にする為だ。


これは、回復や回避等、サポート系全ての魔法を網羅出来るだけではなく、混合、多重は勿論、魔法創造が出来る唯一無二のスキルだ。


アルガロスもカルディアも……、ブツブツ文句を言い、フラフラ歩きながら渓流沿いを歩いていた。



「やってらんね━━━━━━━━━━━━!!!」

「イライラする━━━━━━━━━━━━!!!」


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