第90話【 やっちまった? 】
静まり返る暗闇の中、なだらかに佇むドラントス近くの鉱山。
しかし、穴の中では……。
<ガギーンッ>
弾かれる金属音が響いていた。
アルガロスの短剣の音だ。
入り組んでいて、岩が盛り上がっているので剣より短剣を選んで使っているが……。
「かて━━━━━━っ! なんて硬さだ!! それに、
それを見て、コラースはイリアスとヤニスに後ろへ下がる様に指示を出す。
「イリアスさん、ヤニスさん。アルガロスの短剣が弾かれるって事は、棍棒じゃ歯が立ちません。下がって下さい」
「いや、しかしあいつ(フゥ)はク(フゥ)ラス(フゥ)F(フゥ)じゃあ……」
アルガロスを心配してそう言葉を漏らすが、足が前には進まない。
ギルドに所属していたとは言え、過去の事。
目の前の出来事にイリアスとヤニスはたじろぎ、尻込みしていた。
コラースは続いてアルガロスにも注意を促す。
「アルガロス、そいつの甲羅は鉱物の様に硬くなってるかもしれないぞ!」
「ははーん、そう言う事ね。じゃあいつも通りで行くか!」
アルガロスはいつもの剣に持ち替え、オーラ循環速度を上げてその波を、小さく鋭く、速くなる様にコントロールする。
「行くぞ!! おらあ━━━━━━━━━!!!」
わざと大声を上げ、リオーノカタツ魔蟲の反射的攻撃を自分へと促した。
回りは盛り上がった岩だらけで剣が当たってしまう……。
しかしアルガロスは、飛び掛かってくる魔蟲をその岩ごと………。
<ズザズザズザ、ガキガキ、ズザーンッ>
叩き斬ったのである。
<ドドドド━━━━━━━ンッ………>
斬り裂いた岩と魔蟲が粉々になって落ちていき、重量のある音が洞窟内に響き渡った。
「ええ━━━━!?」
イリアスとヤニスは目を見開き驚いている。
魔蟲の硬さは分からないが、この辺りの岩の硬さは手が覚えているからだ。
鉱山の岩は、通常の岩より遥かに硬いので建築等に需要がある。
その岩を……剣で斬り裂いたのだから、驚かずにはいられない………。
「ま…まじか………。なんちゅう(フゥ)パワーじゃ……。ク(フゥ)ラス(フゥ)F(フゥ)でもこんな奴(フゥ)がおる(フゥ)んかいな…」
リオーノカタツ魔蟲を全て斬り裂いたアルガロスは、イリアス達の方を向いて自慢げに胸を張っていた。
イリアスは呆気にとられながら、道具が落ちている所まで歩いて行くが、気持ち悪がって、
「こんなん舐める(フゥ)たぁー、ヘンテコな
「おやじ、ここ見てくれ!!」
さっき迄
そこには薄っすら輝く……。
「魔光(フゥ)石じゃないか!!!?」
「コラース(フゥ)、良く(フゥ)調べたいから(フゥ)杖で照らしてく(フゥ)れんかの」
さすが鉱山の男! ウズウズして仕方ないイリアスとヤニス。コラースを抱き込んで、3人で魔光石探しが始まった。
「コラースさん! 俺は他に危険が無いか、この辺りを調べてみるぜ!」
「ああ、有難う! 頼むよ!!」
アルガロスはやはり、エレティコス秘境のイエローダンジョンの悪夢が頭から離れない。
この洞窟に横穴が無いか、潜んでる魔物はいないか、それ以外の危険は無いか。
見落としがあれば、一気に命の危険に晒される可能性がある事を、頭に刻み込まれているのだ。
それに、エル達が居ればこんな事はしないが、不慣れなイリアスさん達が居るので、余計に慎重になっていた。
広くなった洞窟の端から端迄、時にはしゃがみながら確認している。
一通り調べたが、やはり危険は無さそうだ。
イリアス達はまだ魔光石探しに夢中になっている。
仕方なくアルガロスは、座って休もうと思い地面に手を付いた。
<パチンッ>
『イテッ!』
手のひらに小さな痛みが走る。
何かに手を弾かれた様な痛みが……。
その小さなへこみ部分を覗き込むと、不思議な……、
スライム状の塊があった。
「何だこりゃ?」
よく見ると、中は……ゆっくりと渦巻き、流動してるみたいに見える。拳の半分くらいの大きさで、黒ずんだ塊………。
塊と言ってもスライム状だから弾力がある。
『俺にケンカ売ってんのか?』
と指を再度近付けると……、
<パチンッ>
『イテッ!』
やはり、弾かれた様な痛みが走る。
『何か分からないからコラースさんに見てもらお!』
アルガロスは、短剣で回りの岩を砕き、黒ずんだ塊を石で挟みながら、麻袋に入れた。
『手で触れなきゃ大丈夫そうだな!』
イリアス達の所へ戻ってきたアルガロスは、コラースへ伝えようとしたが、先に息の抜けた声が飛んでくる。
「アル(フゥ)ガロス(フゥ)、お前のバカ力でこのク(フゥ)サビを叩いてくれ!」
と、イリアスからハンマーを渡されたので、仕方なくハンマーを振り下ろした。
<ガキーン……>
「ぐおっ、いててっ」
弾かれた手をマッサージしながら、しかめっ面のアルガロス。
「コレッて魔光石?」
「そうじゃ。クサビ部分はただの鉱石じゃがな。やっぱりハンマーじゃぁアル(フゥ)ガロス(フゥ)でも無理かぁ……」
『無理かぁ……』
『無理かぁ……』
『無理かぁ……』
と落胆しているイリアスの声が、アルガロスの頭でこだまする。
負けず嫌いなアルガロスは口がヘの字になり………。
「ちょっとどいてて!」
と言いながら、ハンマーを再度振り上げピタッと止めて目を閉じた。
そして全身のオーラ循環速度を上げ、その波を小さく鋭く、速くなる様にコントロールする。
そして……、目を見開きおもいっきりハンマーを振り下ろした。
「どおりゃあ━━━━━━━━━━━━━つっっ」
<ガズンッズドドドド━━━━━━━━ンッ>
<ドスンッ>
<ガガガッ>
<ガガガガガッ……ガガガガガガガガガガ>
「……ありゃ?」
手に持つハンマーも目の前の岩も、それ以外も粉々になってしまって……、
洞窟が揺れている。と言うより………ヒビが……。
<ガガガガガッ……ガガガガッガガガガガガッ>
「ええっ? 何かやっちまった?」
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