第89話【 鉱山でウホッ! 】


 雑草が生い茂る何の変哲もない部分に、魔力を感じたアルガロス。そこにコラースが魔法で雑草を吹き飛ばしていいかと提案していた。


イリアスは驚きながらもそれを承諾する。


「いいぜ! やっちまってく(フゥ)れ!」


「分かりました。危ないので少し下がっていて下さい」


イリアスの許可が出たので、コラースは輝いてる杖を前へ出し詠唱した。


バーストアトミストルネード爆裂気体竜巻


<バババフォーン>


凄まじい勢いで、風の渦が雑草を引きちぎる様に吹き荒れる。

アルガロス、イリアス、ヤニスは目を丸くし、3人とも同じ様に髪の毛が爆風で逆立っていた。


土と雑草が根こそぎ剥がされ、大きな岩の重なりが見えてくる。

そこにはくぼみと言うより人が1人通れるくらいの穴があり、しかもその穴の入口が “ チラチラ ” と輝いている様に見える……。


「おおっ! やっぱりあったな!」


大当たりとイリアスは自慢げに喜んでいるが、コラースの表情は少し暗く、チラチラ光る膜の様な物に頭をひねっている。


「んー…… これは珍しい……。渦巻く前のじゃないかな。」


「え? ダンジョンに育つ前って事?」


アルガロスも一応はその様な現象があると聞いた事があるが、目の前のチラチラがにたあるとは考えてもみなかったので少し驚いている。


「そう。俺達が言うダンジョンって、魔力溜まりを好んで魔物が棲み着く場所の事。そして活動しやすくする為に、土や岩を掘ったりして中が複雑になっていくからって呼び方してるんだけど、これはそうなる前だと思えるな」


基本的なダンジョンへの漸進は、発見出来るのはごく稀で実物を見るのはコラースも初めてだった。


「って事は、この中に魔物がいる(フゥ)かもしれないって事か!?」


そう言ってイリアスは少し興奮しながらコラースを見ていた。


「そ、そうなりますね…。ただの洞窟も棲家として使う事がありますけど、魔力溜まりは自分達の強さや能力維持にも繋がるからより好まれるんです」


この発見に、何故かアルガロスの瞳が輝いている……。


「じゃあ調べるしかないな!! ダンジョンじゃないからオートノミーの規定違反にはならないだろ?」


ギルド・ハンター管理局の上に立ち、統括するオートノミー管理局。魔物から人々を守る為にあらゆる物事を決める最高機関である。


「んー……、確かにそうだけど……」


「イリアスさん達の安全の為だし、街迄近いから街の人達の為でもあるし! 行くっきゃないぜ!!!」


悩むコラースに向けて、煽る様にゼブロスポーズを決め込むアルガロス。


「ガハハハー。ハンターの心得じゃな! そりゃー行く(フゥ)しかないわな!!」


アルガロスとイリアスは胸を張り、2人並びながら親子の様にガハハハとバカ笑いしている。


そんな手に負えない2人を見て、コラースとヤニスは顔を合わせ、お互いに小さく両手を上げていた。


「よしっ! 行くぞー!!」


と元気よく声を掛けるアルガロス。

それに続いてみんなは穴の中に入って行った。


入口は人が腰を屈めて1人しか通れない広さしかない。それが奥深く続いている様に見える。

岩で出来た穴だが、岩肌には苔が生え、地面は雑草の茎が沢山走り少しぬかるんでいる感じだ。


……、その苔が淡く光っている……。


「魔力を帯びたヒカリゴケ……」


弱光を反射し,微かなエメラルド色に光って穴の中をを照らすヒカリゴケ。洞窟の入口付近に稀に見られる植物だ。


この現象…アルガロスは思い出していた……。

カークスギルドのクラウディー達と一緒に入った、エレティコス秘境のイエローダンジョンの苦闘を……。


ゴクリと唾を飲み、1人緊張した面持ちで警戒しながら進んで行く。

少し進むと左右に入り組んでいるが、天井の高さが2メートル程あるドーム状の空間に出た。


「おお! 背を伸ばして歩(フゥ)ける(フゥ)のう(フゥ)! それに…余り(フゥ)暗く(フゥ)無い……」


とイリアスは疑問に思いながらも、腰を伸ばす運動をして近くの岩肌を眺めていると、キラリと光る物が見える。


「ありゃ!? これは……魔光(フゥ)石じゃねーか? ヤニス(フゥ)、確(フゥ)認してくれ!」


「どれだ?」


ヤニスが目を近付け確認すると………。


「小さいけど確かに魔光石だな! もしかしたら……秘宝石もあるかもしれないぞ!」


魔光石とは、魔力が結晶化して光を放つ物に変化した鉱物。

また、” 魔光石ある所にあり “ と言われていて、魔力が結晶化した後、年月をかけあらゆる宝石に変化した石が見つかる事がある。


それを聞いたアルガロスは、瞬時に強めのマギア・ディテクション魔力探知の魔法をそっと展開する。


やはり、エレティコス秘境のイエローダンジョンの流れと同じだからだ。


『……、微弱な魔力がこの先に幾つか有るだけで、強い魔力は全く感じない……。でも、イエローダンジョンの時もそんな感じだった……。要注意だ!』


「この先に魔物がいるかもしれないから注意だぜ!」


アルガロスは特に、イリアスとヤニスに促す様にそう伝えた。

喋らず手で合図を返すイリアスとヤニス。

彼等もハンターとしてギルドに所属した事があるので、洞窟の状態に変化があった時には注意を払っているのだ。


『!』


先頭のコラースが体勢を低く構え、手を上げて左側を指差した。

一気に緊張が走る。魔物がいたサインだからだ。


アルガロスとイリアス、ヤニスは、岩の影から様子を伺う様に顔をだす。

すると、洞穴の左端だけにかたまってノソノソ動いている50〜60センチくらいの生き物が……。


緊迫した中………、コラースが頭をポリポリかいている。


「ん〜あれは……、リオーノ溶かすカタツ魔蟲まむし…か」


リオーノ溶かすカタツ魔蟲??」


あまり聞き慣れない言葉が出てきたので、みんなは戸惑っている。強いのか弱いのか。警戒すべきかどうか等、一切分からないからだ。


「カタツムリ形状で足が生えた魔物系昆虫だよ。鉱物を舐めることからそう呼ばれてるんだ。草から木、木から草へと足で飛んで移動するから足跡もつかない」


「魔力は個体によってだいぶ違いがあるらしいけど、とても臆病な魔物だから驚かさなければ襲われる危険はないよ」


「ほら、あそこに岩を割る道具のクサビやハンマー……。多分鉄分を摂取する為じゃないかな」


コラースが指差す所に、見慣れた道具が転がっている。


「あいつ(フゥ)等が持っていきよったんか! けしからんやっちゃ!」


イリアスは袖をまくり上げ、棍棒を持ち上げながらしかめっ面だ。

そんな彼を落ち着かせ様と、コラースはもう一つの情報をイリアス達に伝えた。


「それより……、リオーノカタツ魔蟲は魔光石や秘宝石を好んで舐めると言われていて……、もしかしたらこの辺りは………」


それを聞いたイリアスとヤニスは、コラースの思いとは逆に、嬉しさ爆発って顔で抑えきれなくなり…、


「やっぱりそうか!!!」


と興奮した2人はつい大声を出してしまう。


<ガサガサガサ、ガサガサガサッ>

<ビュビュンッ>


驚いたリオーノカタツ魔蟲の反射的攻撃が……始まってしまった。


彼等目掛けて…………………………。



<ビュビュビュビュンッ>


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