第88話【 超〜意外 】


 「お、俺も?」


突然のご指名であ然としているコラース。

イリアスも少しビックリしているが、回復魔法士との事なので、万が一の時は頼りになる存在だと考えていた。


「お(フゥ)主、コラース(フゥ)と言ったか、ク(フゥ)ラス(フゥ)は何じゃ?」


「私はまだクラスCですけど……」

*検査してないだけで、実はクラスB


「おお!! ク(フゥ)ラス(フゥ)Cの回復(フゥフゥ)魔法(フゥ)士か! 俺等より強いじゃないか! そりゃ頼りになるわい。ダハハハハー」


ちなみにイリアスと息子のヤニスは、共に元重戦士でクラスDである。


イリアスのこの反応は…、既に同行する事が決まっている様な雰囲気で話をしている……。

コラースは心配になり、ファイナの方を向きながら呟いた……。


「俺……行く前提になってる?」


「はい、なってますね。今日1日お世話になる事になってるんでかと!」


とニヤつきながら突き放した様に、冷たい視線を送るファイナ。その後ろではエルとアルガロス、イリアスがケタケタと笑っていた。


「おぃおぃ……」


コラースは手で顔を覆い、ズシリと肩を落としているが、その横でファイナが何やらゴソゴソと。


「念の為、自前の信号拳銃を渡しておきますね!」


と、ファイナが手際よく道具一式が入った袋をコラースに手渡していた。

しましたと言う事である。


「おい〜………」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ドラントスの街から歩いて30分程の所に鉱山が有る。既に辺りは薄暗くなっており、当然人の気配は無い。

そこに、イリアス、ヤニス、アルガロス、コラースの姿があった。

イリアスとヤニスの腰にはこん棒とランプがぶら下がっているが、まだ火は灯しておらず、コラースが持つ杖が淡く輝き、辺りを照らしていた。


「えぇ~??、これが鉱山?」


アルガロスは、岩で出来た高い山があると想像していたのだが、普通のなだらかな山が目の前にあったので、少し拍子抜けだ。


「鉱山って色んなタイプが有るからな!ここは土を掘ったら岩が直ぐ出てくるんだ。だから根が伸びないから大きな木は生えないんだぜ」


そう言うのは息子のヤニス。

確かに、鬱蒼と茂る森が無い。その代わり豪快に伸びる雑草だらけだ。


少し進むと、イリアス採石所と書かれた看板が見えてきた。色んな採石道具が置かれているが、荒らされた形跡は無い。


「まぁそんな頻繁に荒らされる(フゥ)訳じゃないからな。気長に見回りす(フゥ)る(フゥ)しかないじゃろ」


とイリアスはチラッと採石所を見たが、そのまま歩みを進めていく。

ヤニスは、自分達の採石所に指を指しながら異常が無いか確認している様だった。


「10分くらい歩けば隣の採石所が出てくるから、それ迄は雑草だらけの変哲もない鉱山が続くぞ!」


ヤニスはそう言いながら歩いていく。

歩く所は荷馬車も通るので地面が見えているが、それ以外は雑草が覆い被さる様に生えている。


「ん? ちょっと待って!」


みんなにそう声を掛けたアルガロスは、生い茂る雑草を見つめていた。


『……何かある…』


実はこっそり詠唱無しで、マギア・ディテクション魔力探知の魔法を使っていたのだ。

アルガロスの声に反応し、ヤニスが戻ってきた。


「あん? どしたんだ?」


「ヤニスさん、この奥って何かある?」


指差す所は、雑草の山……。


「いやぁ……、山肌が続いてるだけじゃないか?」


雑草の中を調べた事が無いので、ヤニスは首を振りながら父親の方を見た。


「オヤジは何か知ってるか?」


「はあ? んー……」


イリアスは腕を組み、回りを見回して何かを思い出そうとしている。


「確か……この場所……、大(フゥ)きな岩の塊とちょっぴりく(フゥ)ぼんだ穴が有った様(フゥ)な記憶(フゥ)が……、見たのは30(フゥ)年く(フゥ)らい前だったか……」


ひと昔前の記憶なので、イリアスは頭をひねりっぱなしだ。

コラースもそこに神経を集中している。

どうやら、何かを嗅ぎ取っているようだ。


「……確かに魔力感じるなあ……。強い風で雑草を切り払ってもいいですか?」


コラースの提案に目を丸くするイリアス。


「切り払う(フゥ)!? そんな事も出来る(フゥ)んかいな」


「ま、まぁ一応は…」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 部屋の明かりが外に漏れ、ぼんやりと地面を照らす日が暮れた倉庫街。

そんな中、イリアス倉庫前のベンチには、アルガロス達の帰りを待つ、エルとカルディア、ファイナが座っていた。


「まだ横になってた方がいいんじゃない?」


ファイナがエルを気遣って声を掛けるが、当の本人はいたって元気である。


「もう全然平気だよ! カルディアのパーフェクト・ヒール完全回復だから!!」


とエルは自分の首を締める様なおちゃらけ仕草。

回復魔法を真逆の殺人的と表現してると言う事は、頭も通常通り回っているという事だろう。


「悪かったわね! で!」


しかめっ面で舌を出すカルディアを見て、エルはケタケタと笑っている。

そんな2人を見るファイナは、微笑ましく感じてニコリと柔らかい笑顔を作った。


「あっそうだ!」


エルは何か思い出したのか、そう言葉を漏らしてファイナの方を見た。


「ヤブロスさんに、って伝えといて……」


敏捷術戦士であるヤブロスが、地位ある人達とギルドマスター達の意見を聞いて組み立てたグスタム子爵達の拘束段取り。

それを全て台無しにしてしまった事を気にしての ” ごめんなさい “ である。


ファイナも囚われてた側なので色々分からない面はあるが、エルの言葉をそのまま優しく受け入れた。


「うん。分かったわ!」


その言葉を聞いて安心したんだろうか。エルがまたおちゃらけモードに入っていってるようなニヤついた顔をしだした。


「それより、クラウディーさんがやけにリッサ姉ちゃんの事を心配してたんだけど……」


その言葉にカルディアも身を乗り出して喰らいつく。


「2人って恋人同士なの?」


輝く瞳が眩しいカルディアの笑顔。

やはり恋バナが好きなんだろうか。

しかし、ファイナの返答は予想外だった。


「へっ?」


「違うわよ! 兄妹よ!!」


「え━━━━━━━━━━━━━っっっ!!!」


超〜意外な答えに、エルとカルディアの絶叫が倉庫街に響き渡っていった。


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