第85話【 止まらない浸食 】



     【  み つ け た   】



  三 ≣ =<〈 ゴフォウゥッ 〉>= ≣ 三



エルの口から、黒く輝く煙が立ち昇る。

マルノスとコスタロスを捉えたエルは、黒い目を見開き、赤黒い縦長の瞳で睨んでいた。


ユックリ歩き出すエル

踏みしめられた瓦礫は黒くくすみ、やがてもろく崩れ去っていく。

形ある物、命ある者はみな………………。


離れているが、マルノスもコスタロスも、その残虐な黒い魔力に恐怖し、身体が硬直して怯える事しか出来ない。


動く、逃げると言う思考にはならず、ただひたすら怯えるだけ……。



「エル━━━━━━ッ。止まれエル!!!」



飛ばされ傷ついたアルガロスが、エルの後ろから走ってくる。その頭にモサミスケールは……無くなっていた。


アルガロスはエルを止める為、残虐な黒い魔力の中で前に回り、エルの肩と腰に手をやったが、その瞬間……。


「グオオオオッ」


激痛が走り、アルガロスの悲鳴が上がる。

エルの残虐な黒い魔力に、身体が浸食され引き裂かれているのだ…。


しかしアルガロスは………、エルを離さなかった。


「くっっ、エルっ、聞こえるか? エル!!」


叫び正気に戻そうとするが、全く効果が無い。


「エル! とにかく止まってくれ━━━━━!!」



【 殺 す 】


【 奴 等 を 殺 す 】



呟く様に言葉を漏らすエルは、ユックリだがその歩みは止まらない。

しかも、アルガロスの…エルを抑える手が徐々に黒くくすみだした……。


アルガロスは構わず、エルを抑えようと足に力を入れ踏ん張るが、全く刃が立たないのだ。


【 殺 す 】


【 奴 等 を 殺 す 】


「エル、俺だ! アルガロスだ! 止まってくれ!!」


その時、不意に抑えていた手から力が抜けた。


『分かってくれたのか、エル!!』


アルガロスは、エルが正気に戻り止まってくれたのだと思っていた。


━━━━━しかし━━━━━


アルガロスの目にが近付いてくる。


「えっ?」


エルの横をすり抜ける様にして、倒れていくアルガロス……。手を伸ばし、地面に手を………。


<ドガッ>


何故か顔から地面に倒れたアルガロスは……、自身の状態に気付いてしまう。


『て、手が無い………』


アルガロスの肘から先が……、エルの残虐な黒い魔力によって、浸食され無くなっていたのだ。


「エル……、止まってくれ……」


横たわりながら、アルガロスが力無く祈るように呟いたその時……。


パーフェクト・リジェネレーション完全再生


<パパァ━━━━━━━ンッ>


優しく、暖かく、しかし激しく強烈な光がアルガロスを包む。


「ぐほうぐっっ」


強制的に完全回復プラス身体を再生させるこの魔法は……、さらに魔力を上げた彼女しか!

その頭にはモサミスケールも。


「カルディア!!! モサミ!!」


アルガロスはそう言いながら立ち上がり、またエルの前に立ちはだかって手で身体を押さえた。


「グオオッ」


裂ける、弾ける、切れる、焼ける、浸食する……。

こんな痛みよりアルガロスは……、エルの心の痛みを考えていた。


” 友達を守ってあげなきゃ “ と。


「止まってくれエル! 止まるんだエル!!」


<ドドドッ>


また不意に軽くなる。


アルガロスは、また身体の一部が無くなったのか……と思ったが、近くから声が聞こえてくる。


「エル、私だ! リッサだ!止まってくれ!!」

「デリスだ! エル、止まってくれ!!」

「ペトラオスだ、止まるんだエル!!」


「グオオオオ━━━━━━━━━ッッッ」


みんなの身体が裂け、切り刻まれて悲鳴が上がる。

そんな状況でも、みんながエルの身体にしがみつき、止めようとしていたのだ。


少し離れた所にも、囚われてたみんなの姿があった。

驚いたアルガロスは一瞬笑顔になるが、即厳しい表情を作る。


「みんな駄目だ!! 浸食される。離れて!!」


「カルディアちゃんが居る! 再生は任せるんだ!」


リッサが笑顔で力強くそう言った。

しかし……、そのリッサも皮膚や衣服、防具が切り刻まれていく……。

当然、デリスもペトラオスも同様だ。


4人掛かりでエルを押さえようとしているが、凄まじい力で全く止まらない。



【 奴 等 を 殺 す 殺 す 殺 す 】



徐々に確実にグスタム、マルノスとコスタロスの方へと近付くエル。彼には……奴等しか見えていないみたいだった。


「ま、まずい。奴等を殺されると、証言が!」


リッサはこの緊迫した状況に焦っていた。証人が居なくなると、このエルの行動や状況が水の泡になってしまうからだ。

リッサは咄嗟に大声を上げた。


「ジモン隊長とテリオスギルドのみんなは、奴等を確保してエルから遠ざけてくれ!!」


「分かった!」


クラスAであるジモン隊長の行動は特に素早かった。

即座に相手の魔力を感知し、1番魔力量の多いマルノスを確保。

次いでテリオスギルドのマスターにコスタロスを確保させ、グスタムは他のメンバーに確保してもらった。


<ドクッ……………………………………………>


その時、リッサの心臓が止まり崩れていく。

両腕と身体半分が浸食され無くなったのだ。


パーフェクト・リジェネレーション完全再生

パーフェクト・リザレクション完全蘇生


カルディアが泣きながら詠唱する2つの魔法。

身体を再生し、その後、止まった命を蘇生する。

心臓が止まった肉体に使うリザレクションは、止まってから短時間しか猶予がないのだ。


再びリッサの目に光が灯って立ち上がり、歯を食いしばりながらまたエルに身体を押し付けた。


「ぐふっ…、どっちも強烈だな……」


デリスもペトラオスも次々と倒れてはカルディアにパーフェクト・リジェネレーション完全再生パーフェクト・リザレクション完全蘇生を掛けてもらい、立ち上がってエルの前進を必死に止めようとしていた。


しかし……、エルの残虐な黒い魔力は威力が衰えない。



<ゴウオオオ━━━━━━━━ッ>



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る