第84話【 錯乱する憎しみ 】


 <ゴウオオオー………>


 牢獄の扉が吹き飛び、瓦礫やホコリが舞い上がる。


そこに…エルの姿は無かった………。


「エルッ!!!」


アルガロスが叫びながら後を追う。

そこで、牢屋から飛び出したアルガロスが目にしたものは……。


エルは飛び出した勢いでそのままに……突き刺さったのか、着地したのか……。

衝撃で軋み歪んだから、様にユックリ立ち上がる所だった。


斜め後ろから、エルの肩越しに微かに顔が見えている。

その目は黒く淀み、瞳は………縦長に強烈に光っていた。


『あ……あの目は………あの時と同じだ………。何かが操っている様に………』


アルガロスは、悪魔である混迷の魔術師リーゾックと対峙した時のエルを思い出していた。

怒りが爆発したあの時のエルを………。


激しい魔力がアルガロスの身体を微かに蝕んでいく。

立ち上がったエルは、壁をユックリ歩きながら床へと降りていく。

その時、エルの身体が一瞬だが黒光りした。


<バチバチッ、バフォン>


エルの激しい魔力がさらに勢いを増し、被っていたモサミスケールが弾き飛ばされる。


【 グオーッ… 】


「モサミッ」


アルガロスは咄嗟に手を伸ばし、飛ばされたモサミスケールを素早く掴む。

そして、自身の頭にモサミスケールを被せた。


「モサミ、エルは……」


【 いかんっ。暴走じゃ 】


「ぼ……、暴走!?」




 塵やホコリが舞う牢獄の部屋。

みんなが皆を守る様に覆いかぶさり身を守っている。

そんな時、理解し難い表情でリッサが顔を上げた。


「エルがやったのか? どうして……」


その言葉を聞いて、寂しそうな、悲しそうな、とても辛そうな表情で、カルディアが言葉をユックリ落としていく。


「エルは……、“ 3段石の悲劇 ” の生き残りなの」


「えっ?…………………」


ハンター達の驚く表情がホコリの中に浮かび上がる。

地獄絵図と化した現場の状況や惨状を、みんなは聞いて知っているからだ。

ただ、生き残った人はいないと聞いていたが……。


「無抵抗で……、同年代の仲間達……、エルが家族の様に大切にしてた幼馴染も………、無惨に目の前で………」




 <ゴゴ━━━━━━━━━ウゥ>


荒れ狂うエルの魔力にアルガロスは為す術が無い。

身体に細かく傷が入り、防具や衣服から小さなクズがちぎれ飛んでいく。


「モサミ、どうすりゃいいんだよ?」


【 ワシにも分からんのじゃ… 】


「……、エル! エル止まれ」


近寄る事が出来ないアルガロスが、必死に声を掛けるが聞こえていない……。


エルは、ジリジリと歩き出している。何処へ向かってるのか、誰を探しているのか……。



「許さない………」

  「許さない………」

    「許さない………」

      「許さない………」

        「許さない………」

          「許さない………」



エルから漏れ出てくる言葉は、無意識な自身をさらに興奮させていく。

自分の言葉で負の感情が膨らみ、コントロールが出来ない状態なのだ。


そして……、更に膨張するエルの激しい憎悪が、とうとう限界を………、越えてしまった。


「ゔおおおお━━━━━つっ」

<ドゴゴゴ━━━━━━━━━━ンッ>


叫び声と共にが放たれる。

魔力が爆発し、地面もろとも吹き飛ぶ屋敷が粉々になり舞い上がる。

火の手も上がり、黒い煙がモウモウと立ち上がっていく。




 雨降る中、揺れる街と大気の振動は、みんなが集まるロードル伯爵家へと伝わってくる。


飛び出して来たハンター達が、北の方角で立ち上がる煙を見ていた。続いてクラウディー達も焦りながら外へと飛び出す。


「煙?……、何だ? この凄まじい魔力は……。あの時の感覚と似ている。エレティコス秘境のイエローダンジョンと………」


立ち昇る煙を見つめるクラウディー達は、身体に響く異様な魔力を感じ取っていた。

バウロスがその方角を見ながら眉間にシワを寄せる。


「あの方角は、グスタムの屋敷……」


「何かあったのか? バウロス……」


後から出て来たロードル伯爵は、焦りながら聞くがバウロスも当然分からない。


「黒煙が見えるんです。しかもグスタム家の方角から……」


「な、なにぃ!!?」


ヤブロスの表情はとても厳しい。凄まじい魔力を感じ取ると共に、が向かって行った事も知っているからだ。


『この魔力…、尋常じゃない……。』


「バウロスさんと閣下はここで準備を! 俺達5人で様子を見てきます!」


そう言うと、クラウディー、ヤブロス、ダンブール、テリアーノ、シルヴァニアの5人は、素早く煙が立ち昇る所へと走って行った。




 <ゴウオオオ━━━━━━>


 地響きの様な音と煙が、グスタムの屋敷を包んでいる。

その屋敷は3分の2が吹き飛んだ状態で、残りの部分もいつ崩れてもおかしくない状態だ。


しかも、地下から上へと地面も吹き飛ばしており、無惨にも屋敷の敷地はえぐれた様になっていた。


既に相手の衛兵や傭兵達は、強い魔力に耐えきれず気絶しており、当然グスタム子爵も倒れていた。

その横には、辛うじて必死に耐えてるマルノスとコスタロスが状況を飲み込めず這いつくばっている。


彼等の目に映る “ それ ” は、揺れ動く得体の知れない黒い塊。

残酷な恐怖に怯え、立つことさえ出来なかった。


「な……何だあれは………」


さらに荒れ狂うエルの黒い魔力が渦を巻く。

その中で……、赤黒く輝くエルの瞳が……、マルノスとコスタロスを捉えてしまった。



三 ≣ =<〈 ゴフォウゥッ 〉>= ≣ 三



エルの口から、黒く輝く煙が立ち昇る。



【  み つ け た   】


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