第83話【 3段石の陰謀 】
ローソクの火が幾つか消えている為、薄暗く沈む独房の中。
<ギギギイイイイー………>
<キキキー………>
木が歪み軋む音。次に鉄柵の錆の摩擦音。
そして、木製の扉の方から光が入って来る。
独房にいるリッサ達は、其々が睨むようにその光を見つめていた。
いつもの光景だ。
その後は必ず女の子か左目に傷がある男が入ってくる。しかし、女の子が入ってくるのは食事を運ぶ朝と晩の2回だけ。
と言う事は、今は左目に傷がある男が入って来るのが確定している。
そして……、ダンジョン攻略には満たない人数で、危険な ” 強制された討伐 “ に駆り出されてしまう。
独房の中のハンター達は後ろを向き、身を潜めながら静かにしていた。
しかし、彼等の予想は大きくハズレる。
「ジャジャーン! 盗賊だぞぉ!!」
重苦しく緊迫した状況を一変しながらそう叫ぶのは、仮面を被った3人組。
驚き振り向くハンター達の目に映ったのは、あの仮面を被ったあの子供達。
「エ、エル!!? それにアルガロス、カルディアも!!!?」
超〜ビックリしたリッサは、思わず牢屋から飛び出してしまう。同じく他のハンター達も目を丸くし、牢屋から出て来た。
「誰の事かなぁ〜? 俺達は盗賊だって! リッサ姉ちゃん!!」
手をフリフリしているエルの仮面が、キラリと光る。
それにしても自分達の事を隠したいのか、そうで無いのか……。
リッサはそんな事どうでもよく、嬉しくなって抱きしめた後、エルの肩をバンバン叩いている。
アルガロス、カルディアとも握手を交わして、とても生き生きした表情をしていた。
「そうそう盗賊だったな! ありがとな! 色々段取りしてくれて」
そう言うリッサの近くにみんなが集まり、其々が笑顔で感謝を口にしている。
「俺にも礼を言わせてくれ!」
と出てきたのは
優しくエルの手を取り、にっこりと微笑んだ。
「俺はロードル伯爵家の衛兵隊長、ジモンだ。私の娘、ベルナの刻印も解呪してくれて本当に有難う!!」
「いやあ〜、大した事してないってぇ〜!!」
と、褒められるのが恥ずかしいのか、モジモジしながら答えてる。
その後、エインセルギルドのセカンドマスター、デリスがエルの肩に手をやった。
「もうみんな来たのか?」
「まだだよ! だからひっそりと伝えに来たんだ!」
段取りが分からないハンター達は、お互いに目を合わせ不思議そうな顔をしている。
「伝えに来た?」
「そうだよ。今夜、夕方前くらいかなぁ、みんなが来るのは」
「おお! いよいよか!!」
「うん。その時、相手の魔導師っぽいのに気を付けてね。今はまだこの周辺にはいないんだけど」
と、エルは身振り手振りで伝えている。
しかし、ハンターのみんなは誰の事か分からず頭をひねっているが、単独行動を強いられてたペトラオスは何かに勘付いたようだ。
「魔導師!? あいつの事かなぁ…。いつもグスタムと一緒にいた奴……」
「もしかしたら、魔法の封印を仕掛けてくるかもしれないから」
「えっ? まじか??」
少し動揺しだすハンター達。
万が一魔法を封印されると、こちら側に人が多くとも圧倒的不利となるからだ。
デリスは腰に手を当てながら、改めてエルを見た。
「そうか、要注意だな。でも、やっと出れるのか!」
「本当に…、奴等は卑怯だからな。警戒しておくぜ! ありがとなエ……、盗賊さん!!」
彼等に気を遣い、笑顔で言葉を言い直すデリス。
そして、腰を屈めてエル達とハイタッチしている。
リッサもはじめはにこやかだったが、ある事を思い出して次第に険しい表情になっていく………。
「奴等は…、絶対に逃がしちゃいけない……。必ず捕まえなきゃいけない犯罪者だ」
「この状況もそうだが、必ず公の場で白状させなければいけない……、あの事を………」
リッサの鋭く睨みつける様な目。
回りのハンター達も静まり、其々が重苦しい表情で頷いていた。
アルガロスはリッサの怒りの原因である ” あの事 “ が気になって……聞いてしまった。
「あの事って?」
憎悪が込み上げてくる感情を必死に抑えようと、リッサは憎しみで震える身体を自身の腕で縛り付ける。
そして……、怒りを言葉に乗せて……。
「1年前のカデフ街近郊で起こった “ 3段石の悲劇 ” は……、あいつ等が故意に作りやがったんだ」
━━━━━━ <ドックン> ━━━━━━
突然弾けるエルの鼓動。それと同時に仮面が割れて落ちていく。
瞬きする事無く、ゆっくり目線をリッサへと向ける。
そして絞り出す様に……、口を動かす……。
「ど……、どういう事………?」
「ゲートの発生を知っててわざと放置し、祝福を受ける若者達を……、粛清対象だと見殺しにしやがったんだ……」
<ドクンッ……ドクンッ、ドクッドクッドクッ>
エルの鼓動が速くなり、血の気が引いた様に肌の色が青ざめていく。
リッサの言葉を聞くアルガロスとカルディアも仮面を取り、小さく頭を振って……。
以前にエルから聞いた、幼馴染2人を失った惨劇。
しかしその言葉を止めたくても、突然の事でどうすればいいか分からない。
「大切な未来ある若者達の命を……、歪んだ思想で奪いやがったんだ!!!」
<ドクッドクッドクッドクッドクッ、ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク……………、
ドクン…………………………………………………>
心臓の鼓動が無くなり、エルの身体から微かに黒いモヤが立ち昇る………。
『い、嫌よ…死にたくない…』
『た…助けて…』
……ラミラとカサトスの…最後の言葉が……残像が、頭の中をかき乱す。
そして………、
<ドンッ>
突然、爆発音に似た音が響きホコリや木くずが激しく舞い上がる。
視界が悪くなり、多くの瓦礫が飛んできた。
「うわあっ━━━」
驚く声が上がり、みんなは其々を守る様に折り重なる。
その場にエルの姿は無く、しかも屋敷へと続く牢屋の出入り口が………、
全て吹き飛んでいた。
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