第81話【 今から旅人宣言 】


 ロードル伯爵家の正面玄関口。

そこにみんなが集まり、其々が挨拶している。


これからの道が、険しく困難な事が予想される為、皆真剣な眼差しで握手を交わしていた。


そんな中にエル達とヤブロスの姿は無く、彼等の姿は、ひっそりと裏手にあった。


「ヤブロスさん、これあげる!!」


そう言いながら、大きな袋を手渡すエル。

その中には、激選されたコルディスコア、魔物の牙、爪、皮膚等、高く売れる物ばかりが入っている。


「おぃおぃなんだこれは……、またかよ。早くクラス判定してもらえよな」


「やる事一杯あって、時間が無いんだよね〜」


前回もそうだが、自分達でこれらを売りに行くと、品物が高価な為(高クラスの魔物)、盗んだと怪しまれてしまうので、ヤブロスにあげてるのだ。


あげてると言っても、ヤブロスはそれら換金したお金は、彼等に返す為に貯金している。


「前回の換金分、持ち合わせが無いから俺が今持ってる金、全部やるよ!!」


「要らないよ〜。まだまだ売れる物沢山あるから! あっそうだ! 換金したらルイス司祭にあげて!」


「あげてって…、寄付って事でいいのか?」


「そうそう!寄付、寄付!!」


「わ、分かった。って言ってもなぁ、お前等……」


確かに、エル達の力ならもうお金に苦労しないだろう。それよりヤブロスは、これから彼等が選ぶ道、育ち方や生き方の方が心配なのだ。

とにかく力任せに無茶、無謀を選択しがちだからだ。


そんな心配をよそに、エルはすごくご機嫌だ。

エインセルギルドやその他の人達の救出段取りが付いたからだろう。


「それよりさぁ、グスタムは任せたよ!」


そう笑顔で言うエル。

その横で腕をブンブン回してるアルガロスもまた笑顔だ。


「コテンパンにヤッつけちゃって!」


「え? お前達は付いて来ないのか?」


エインセルギルドのリッサ達を心配し、核心的な手掛かりを見つけてきたのは彼等。

なので、当然付いてくると思っていたがそうではないみたいで驚いている。

エル達の言葉と共に、カルディアもにこやかに手を広げている。


「私達は今から旅人なの!! 時には盗賊で、ハンターでってね!!」


「は、はあ?? また訳のわからない事を…」


どうやらカルディアの考え方も、エル達に汚染されてきた様で、ヤブロスはさらに心配事が増えた感じがした。

彼等の言動や対応方法に慣れてきたヤブロスは、術戦士としての勘が少し戻ってきたようだ。


「あっ!……、もしかしてお前等…、スパータルへ行く気だな!?」


「さぁ〜て、どうだろね〜」


ニヤッと笑いながら意味有りげに笑う彼等の動作を見て、更に言葉でやんわり詰めていく。


「めちゃ遠いぞ。馬で大体15日位はかかるからな」


と、さも行く体で話を進めると、彼等は目を丸くしていた。


「えっ!? そんなにかかるんだ!?」


「遠いなぁ……。まぁ俺達は自分の足で行くけどね!」


と、完全に釣られてる。

大人のしたたかな知恵の勝利だ。


「やっぱ行くんじゃないか!!」


「ん?……さぁねぇ〜!!」


と誤魔化しているが、本人達はバレてるのが分かっているのだろう……。超ヘラヘラ笑顔を隠しきれていない。

呆れ返るヤブロスは詮索をやめ、エインセルギルドの事に触れた。


「リッサ達には会っていかないのか?」



「えっ? 今から??………」


地位の高い方々との入念な作戦……。貴族絡みの複雑な力関係……。段取りや根回し……。

それらをガン無視し、超越した思考次元にエル達はいる……のかと、術戦士ヤブロスの頭が真っ白に逆戻りする。


それに輪をかけて、さらに耳を疑うような言葉が飛んできた。


「だからまた、グスタムんにこっそり入って、こっそり出ていくんだ! 何か伝えとく事があれば言っとくよ?」


と、友達の家に遊びに行く感覚で、サラッと突拍子もない事を言っている……。


「はあ???」


ヤブロスは……、既にお手上げ状態。


「…またお前等……。やりたい放題だな……」


「エヘヘへへ!」


褒めてないのだが、エル達はまた笑顔だ。


何故、エルがリッサ達に会おうとしているか。

それは昨晩、グスタム家から出て行ったハイクラスハンターの事を気にしているのだ。


こいつが、屋敷全体に “ スフラギダ・オラ ” の魔法を掛けた……、クラスB以上の魔導師。


“ スフラギダ・オラ ” とは、全てを封印すると言う意味があり、強い魔力を伴う国宝級財宝等を運搬する時に箱にこの魔法を掛けると、関係者以外、他者から感知されにくくなる特殊な魔法。


これをハンターに掛ければ、魔法が封印されてしまう。


これは魔法をする、最低でもクラスB以上の魔力を持つしか扱えないので、他にどの様な危険な魔法を使ってくるか分からない。対峙するとなると、クラスAがこちらに何人いようが生死が付きまとうのだ。


さらに、もしたらクラスA以上の魔力持ちかもしれないとなると、尚更危険度が上がってしまう。


魔導師の事はヤブロスに伝えてあるが、前もってリッサ達にもそれを伝え、警戒してもらおうと考えているのだ。


「じゃあグスタムんに行ってくるよ!」


「わ、分かった。みんなに段取り伝えておいてくれ!」


「は〜い!!」


軽やかに返事をし、背を向けて歩き出すエル達。

そんな彼等の背中を、ため息まじりでみつめるヤブロス。


『こっちは人間同士の戦闘になるかも知れないのに、呑気な奴等だ』


そう思いながら、エルから押し付けられた袋の中を覗く。


「あっ!」


とヤブロスは苦笑いし、眉を下げた。


「おい〜…。薬草団子が入ってるじゃないか……。用意周到だな……」



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