第80話【 解呪への道 】


 重苦しい空気が流れる中、エルとアルガロスは解呪作業をするカルディアを放ったらかしで………、

寝ていた。


退屈な話し合いが子供達には合わなかった様で、ウトウトと…。そんな彼等に、執事のクレタスがそっと布を掛けている。



「いかがでしょうか? この段取りで」


ヤブロスがみんなの意見を聞き、最善と思われる方法を導き出してお伺いしている。


ヤブロスはクラスCで、レアスキルの敏捷

戦術を組むならこの中では最適任なのだ。


更に他の者に言えないが、この中でヤブロスだけがエル達から詳しい情報を聞いていたので、尚更戦術が立てやすかった。


「そうだな、今はそれが最善で妥当だろう」


ギルド・ハンター管理局のテオコスタ局長が、そう言いながら眉間に深いシワを寄せ重々しく頷く。


「これは……、既に貴族の利権を越えた……非常に重い犯罪だ。しかも、複雑に巧妙に他の地域まで巻き込んでるという現状がある」


「さらに……、ブルーモン領、城下町スパータルの貴族絡みとなると……、用意周到にこちらも根回ししないとな……」


テオコスタ局長の重く複雑な言葉。

みんな其々が、真剣な眼差しをしていた。


ロードル伯爵が顎下へ拳を充てながら、ある言葉を呟く。


「そうですね。向こうには……、例のかなり危険な激レアスキル……、召喚魔法師がついてると考えられますから……」




” 「クラスSの召喚魔法師、ボレイロス」 “




其々が熱いツバを飲み込む。

うわさ段階だが、貴族の裏で暗躍し、サイコパスとも揶揄されてる男だ。


「ん? そんな奴は俺の召喚魔法でヤッつけてやる…ムニャ…むにゃ……ZZzzz」


と寝ながらボヤくエル。


「何だ寝言か!! お気楽なもんだ!」


みんなはエルが言った “ 俺の召喚魔法 ” と言う言葉には全く反応しなかった。

超希少な召喚魔法は、自身が生きる人生の中で1人現れるかどうかと言われている程、本当に希少だからだ。


ただ……、1人焦り顔の人がいる。

人と言うより………。

モサミスケールが、エルの頭の上で冷や汗を流していた。


そんな時、


「よし!! 見えた!!!」


とカルディアが呟く。

その言葉に、みんなは一斉に彼女の方へと振り向いた。


「ルイス司祭、もう少し我慢していて下さい。痛くはありませんからね!」


そう言いながら、一度司祭の腕から手を離す。


「あっ、あぁ。お手柔らかにね!」


苦笑いするルイス司祭のその言葉を合図に、カルディアは再度、司祭の腕に手をかざしながら自身の魔力を流していく。


「順番が大切なんだわ……」


つぶやくように独り言を言うカルディア。

そして、そのまま……。

言葉を喋る様な、解呪の長い詠唱へと入っていく、




「呪いのエティア原因ディテクション探知

「……、これなんだよね…。慎重に……」

「これをカタストロフィ破壊

そしてこれもカタストロフィ破壊

これと、それと、あれもカタストロフィ破壊カタストロフィ破壊カタストロフィ破壊

「これはアフェレシス分離してズィアヴロスィ浸食された部分のアナニプスィ蘇生


カルディアの目と指が、細かく複雑に動いていく。

神秘的で神々しくもある彼女の所作に、回りの人達は言葉なく釘付けになっていた。


「よし! 魔力の流れをアナヴィオスィ復活


「最後に………、カタルシス浄化




<パァ━━━━━━━━ン、ブファ━━━━>


少し強めの魔力の波が、司祭の腕から放たれる。

それと同時に黒い煙も舞い上がった。


その魔力の波に優しく煽られる回りの人達は、目を細くし凝らし、その様子を見守っていたが、寝ていたエルとアルガロスは、煽られた拍子に椅子から滑り落ちてしまう。


魔力の波が収まると、ペタンと座り込むカルディア。


「ふぅ~……。これで大丈夫! どうですか? ルイス司祭。軽くなりました?」


「おお! 今までと全然違うぞ!! 身体が軽くて倦怠感も全く無い!!」


「すごい、すごい……有難う。本当に有難う!!!」


そう言いながら、ルイス司祭は地べたに座り込むカルディアに近寄り、手を取りながら感謝の気持ちを伝えていた。


そんなカルディアを見ながら、眠気まなこのエルとアルガロスは、地べたに座り込みながらニコリと笑顔を作る。

勿論モサミスケールも満足気な表情をしていた。


「ふぅ~。これでやっとが喋れる!!」


回復したルイス司祭がその様に言葉を漏らす。

それを聞いたテオコスタ局長は、少し驚き顔だ。


「真実が喋れる…とはどういう事ですか?」



今までルイス司祭は、鉱山の権利譲渡の件、グスタム子爵の件、その衛兵の件、グスタム子爵に関わる貴族の件、そして自身の呪いの件。

これらに関して一切口を閉ざしていた。


しかしそれは、呪いの魔法によって語ることを封じられていたからだ。無理矢理口に出そうとすると、その前に咳込み、体調が悪化していたのだ。


ルイス司祭が語った内容は、鉱山の権利譲渡を拒否した事。これが全ての始まりで、ロードル伯爵へと話が行き、それが拒否されると、グスタム子爵の暗躍が始まり、それに繋がる城下町スパータルのウドクローヌ子爵の暗躍を許してしまった事等を語ってくれた。


「奴等……、司祭にまで……」


ロードル伯爵の怒りの要因が、広範囲へと広がっていく。


「教会、貴族、民衆に対して、圧力、陰謀、脅迫と犯罪……。腐ってやがる……」


城下町スパータルの、一部の貴族に暗躍する利権・権力争いの余波が、暴力や差別と言う形で犯罪に加担し、ブルーモン領内に広がっている現状が浮き彫りになっていく。


ギルド・ハンター管理局のテオコスタ局長が立ち上がり、みんなの顔を眺めた。



「よし! 行動を起こすぞ!!」



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