第54話【 有り得ねーがてんこ盛りな仲間 】
キラキラと輝く広い川が、空の雲を映し流れてゆく。大きな橋が架けられたその先に、賑わうバルコリンの街がある。
街中、特にギルド・ハンター管理局の従業員達はバタバタと慌ただしく動き回っている。
エレティコス秘境に派遣したカークスギルドの件で、管理局も他のハンター達も落ち着き無くソワソワしていた。
カークスギルドからの定期報告が途切れた事を重く見て、ギルド・ハンター管理局の局長グレインカブースが、次長のユリメーラとブノーガギルドをエレティコス秘境へと急遽派遣したのだ。
イエローダンジョンの前で気絶していた彼等を発見した時は、アルガロス、カルディアが看病している所だった。
カークスギルドのメンバーは、程なくして目を覚ましたが、当初エルだけは気絶したまま目を覚まさなかった。
局長室で、局長のグレインカブースが左手に報告書を持ちながら、渋い表情でバルコリンの街並みを眺めている。
『また彼等が一緒に……』
調査、報告書には次の様に説明されている。
今回のイエローダンジョンは、最深部に濃い魔力濃度が溜まっており、出入り口付近は薄い魔力が漂う作りになっていた。その濃い魔力に引き寄せられたのか、またはその場で作られたのか分からないが、不完全なモリンシゴーレムの棲家となっていたのではと。
カークスギルドが遭遇した魔物は、ゴブリンデフォーム、トロールカレット、モリンシゴーレムの3種の魔物。
カークスギルドの人達は皆、モリンシゴーレムの体液に汚染され、重度の痺れや麻痺等の状態異常にかかり、混乱し気絶していたと説明された。
不完全なモリンシゴーレムはその後、体液のままダンジョンを彷徨い、時間とともに消えていったと。
彼等の記憶に有る細長い洞窟も、その先の魔物の群れが居た広いダンジョンも存在せず、ただ、混乱中に共有する幻影をみたのではと。
アルガロス、カルディアの2名は、上記の幻影を見ておらず、1つずつ携帯していた
当時、“ ブノーガギルド ” がダンジョンに入り調査をすると、魔物はいなかったがまだモリンシゴーレムの体液が少し残っており、数名重い状態異常に掛かり、幻影等を見るハンターがいたが、その先の洞窟は無かったと言う事が証明され、報告書にはその様に締めくくられていた………。
<チュン、チュン>
宿屋の看板の上で、小さな鳥がくつろいでいる。
この宿屋は、以前エルがバルコリンへ来て初めて泊まった宿屋だ。
ベッドの上で目を覚ましたエルは、上体を起こしカーテンを開けて朝日を浴びながら街並みを眺めていた。
今回のイエローダンジョンの事が、頭を過る。
エルは、微笑みながらそっと目をつむった。
◇◇◇◇◇
<ゴフォウウウウー………………>
荒れ狂っていた黒い炎が徐々に小さくなり、黒い煙も空間に溶け込む様に消えていく。
ダンジョンの奥に佇むエルの周りには、玉座の様な物だけが残されており、魔物は………全て消え去っていた。
悲しげな眼差しを足元に向けたエルは……動く事なくたたずんだまま。
こんな力を……こんな惨状をアルガロスとカルディアに見せてしまった罪悪感がのしかかっていたのだ。
どれくらい時間が経っただろうか。
後ろから足音が2つ………近付いてくる。
「エル、大丈夫か!?」
声を掛けて来たのはアルガロス。
だが……、その声に震えるエルは返事が出来なかった。
仲良くしていた仲間から、どんな批判的な言葉が出てくるのか、もしかしたら…もうこれで………。
背中越しに拳を作り、苦しく……悲しい表情を浮かべていたのだ。
アルガロスとカルディアは、そんなエルの背中を見つめていたが、2人は一度顔を合わせ軽くうなずいた。
「なぁエル。管理局にどんな言い訳するか考えねーとな!」
アルガロスからそんな言葉が飛んで来る。
それに合わせて、カルディアからも…。
「そうね、このとんでもない状況の落とし所ってどうしようか?」
「カークスギルドでも倒せねー魔物の群れを消しちまったんだからなぁ」
と、アルガロスとカルディアは笑顔で、そして呆れ顔で腰に手をやった。
思いもよらない反応と言葉が2人から飛び出てきたので、エルは背中越しに驚き、顔を上げる。
「エル、お前の力の事なんて気にしちゃいねーよ。エルに会ってから有り得ねー知識やモサミの存在。有り得ねー団子や訓練。そして……俺達の有り得ねー魔力の上達スピード……」
「有り得ねーがてんこ盛りの毎日だからな!」
アルガロスはエルの背中に、今思う感じるままの言葉を正直にぶつけた。
そして……アルガロスとカルディアは、もう一度お互いに顔を見合わせた。
「ただなぁ、これだけは教えてくれ」
「エルが気絶した時の対処法を!!」
思わぬ言葉。
エルの身体は自然に……2人に引き寄せられる様に動いてゆく。
この……醜い残虐な力の事を聞かれると思っていたが、身体の心配をしてくれていたなんて………。
そこにはいつも通りの2人がいた。
そして……気の許せる仲間がいた。
アルガロスとカルディアの姿に………、
幼馴染のカサトスとラミラの姿が重なってゆく。
全てを分かり合っていたカサトスとラミラ。
エルは何かを決心したのか、ギュッと拳を握った。
「………俺は……俺の中には……、魔力と霊力が流れてるんだ……」
◇◇◇◇◇
「アルガロス、朝食の時間が終わっちゃうからそろそろエルを起こしてきて!」
宿屋の部屋の前で、ちょっぴり困った表情をしているカルディア。早く食べたいのだがエルが起きて来ないのだ。
「はいよっ!」
と、アルガロスがエルの部屋のドアを開けるが…。
「あれっ? 居ないぞ??」
「あいつ、勝手にハンター管理局へ行ったんじゃねーか?」
焦り気味でそうカルディアへ伝え、一緒に階段を降りて行くと……。
「あっ、あそこに!」
目一杯口の中に食べ物を突っ込んだエルの姿が、アルガロスとカルディアの目に飛び込んできた。
振り向くエルは……、
「ん?」
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