第45話【 表面化するエルの異変 】


 「くそっ…、このままじゃあ……また………」


 瀕死の状態に陥ってた時の惨状が、クラウディーの頭をよぎる。

とにかく何か対応をと考え、ヘルンに指示を出した。


「ヘルン! みんなにも防御力アップの魔法を!!」


「は、はい!」


アミナ インクリース防御力増強



状態異常に対応出来るのは、補助魔法戦士であるヘルンの魔法しかない。本来は状態異常回避の魔法を使うべきだが、ヘルンはまだ扱えないのだ。

小さな抵抗だが、それ以外に方法がない……。


そんな時、思いもよらない言葉が飛んでくる。


「クラウディーさん! アイツ、小さくなってないか?」


アルガロスのその言葉に、再びモリンシゴーレムの方に目を向けた。

すると驚いた事に、モリンシゴーレムの体液が流れ出るたびに、その姿が小さく崩れていく。


多量に流れ来る体液がカークスギルドのメンバーがいる所にも流れてきた頃には、モリンシゴーレムの姿がほぼ無くなっていたのだ。


「な、何だ? いったい何が起こってる……」


クラウディーは小さく痺れる手を抑えながら、今起こっている異様な状況を把握しようとしていた。


カルディアが警戒しながら流れ出る体液を目で追っていると、その先の光景に衝撃が走る………。


倒れてるエルの姿が……目に飛び込んできたのだ。



「エ、エル!!?」



カルディアは慌ててエルの元へ駆けつけ、パーフェクトヒール完全回復をエルに掛けたが、何の変化も起こらない。

それに、エルの身体を覆ってるモサミスケールも目を閉じたまま、何も言わないのだ。


「この場では危険だ」


と心配したダンブールがエルを担ぎ上げ、体液をよけながらみんなの所へと戻っていった。

カルディアがエルの横に付き、言葉を掛けるが……。


「エル? エル!!?」


カルディアが呼び掛けるが返事が無い。

とにかく緊急なので、ヘルンがエルにも防御力アップの魔法を掛ける事にした。


アミナ インクリース防御力増強


«パスンッ»


「えっ?」


ヘルンが小さく声をもらし、不可解な表情をする。今までに感じたことの無い感覚が、手に伝わってきたからだ。

カルディアは、その言葉が気になりヘルンを見上げた。


「どしたんですか?」


「……魔法が弾かれてる………?」


「弾かれてる??」


ヘルンは小さく首を傾げ、再度杖を構えて慎重に詠唱する。


「も、もう一度、アミナ インクリース防御力増強


«パスンッ……»


「……どうして?……」


やはり、魔法が弾かれてしまう様だ。

カルディアは、エルを守る様に抱きかかえ、不安な表情を浮かべた。


『エル……あなたに何が起きてるの?………』


「どうしたカルディア!?」


アルガロスが前方から駆けつけて来た。


モリンシゴーレムの姿が無くなり、トロールカレットも黒ずみ横倒しになった状態から動く気配が無い。

静寂状態が続いたので、流れ出たモリンシゴーレムの体液を警戒しながらアルガロスが来たのだ。


「ア、アルガロス……。エルが……」


アルガロスは涙目のカルディアの肩に優しく手を置き、その後、エルの首元に指を持っていく。


<ドクンッ…ドクドクドクドクンッ、ドクドクンッ…ドクドクドクンッ>


『エル………』


『脈が速くて乱れてる?………身体も凄く熱い…』


クラスCで回復魔法剣士のリースが近寄り、エルの額に手を置いた。


「凄い熱ね……、急にどうしたのかしら……。攻撃を受けた形跡は無いんだけど……。それに1番後ろに居たからまだ体液の影響は受けてないはずだけど……」


リースは頭を傾けならエルが居た所を眺めているが、何も違和感は感じない。

アルガロスは目を細め、そっとエルの胸へ手をあてた。


『……やっぱり……異常に速いな』


アルガロスは、今までの訓練での出来事を思い出していた。


「エルが良く言ってた……。が崩れる事があるって……」


「魔力のバランス!?」


カークスギルドのメンバー達は、マスターも含めと言うフレーズを聞いた事がないので戸惑っている。


「俺達が訓練している時も、頻繁にバランスを保たなきゃって言ってた……。意味は良く分からないけど、さっきのモリンシゴーレムが放った強い魔力に影響されてるんじゃ……」


アルガロスは心配そうにエルを見つめ、何も出来ない不甲斐なさに、唇を噛み締めていた。

クラスBで回復魔法技士のナイーサもエルの額や腕、胸等を触り、険しい表情をしている。


「心臓の鼓動が異常に速いわね……。何かに影響を受けているのは確かだと思うわ」


「ハンターにはそれぞれ特有の力や能力があるけど、微妙に違いや個人差があるわ。エルは、と言う物が崩れると、身体に影響が出る体質なのかも……」


それを聞いていたクラウディーの表情にはとても厳しいものがある。

“ 責任 ” と言う言葉にこれ程重圧を感じたことは無かったからだ。


「とにかくココを早く出たいが……、後ろは塞がれて戻れない……。と言う事は、進みながら出口を探さないといけないが………」


クラウディーはギュッと拳を握りしめた。

この先に何があるか分からない……。ゲートが発生しているかもしれない……。しかし、進むしか道が無い事は確かなのだ。


選択肢が……それ以外に見つからない。


モリンシゴーレムの体液がゆっくり彼等の横を流れていく。

若干、身体の痺れや不快感はあるものの、大きな変化は現れ無かった………が。


クラスBで剣術士のマイケルが、この異様な静寂に違和感を抱く。

流れる体液を眺めながら……。


「クラウディー、あれ見てくれ!? 不自然じゃないか?」


モリンシゴーレムの体液が、崩れ落ちて退路を塞いでいた岩石の手前で滞留し、至る所で集まり始めていたのだ………。




<ゴボゴボッ>



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