第39話【 異変の始まり 】


 イエローダンジョンに入って行くカークスギルドのメンバー。

慣れているのか、みんな落ち着いていて貫禄ある雰囲気に見てとれる。


その後ろを、アルガロス、カルディア、エルと続いて入って行った。



<ゴウオオオー……>


 

魔力の波が岩に反響し、小さな音と振動が身体に伝わってくる。


「んつっ…」


1番後ろを歩いてるエルが、そっと額をおさえる。


⇄【 エル……また乱れとるな……… 】⇄


⇄「うん………。前以上にバランスは整えてるんだけどね…」⇄


⇄「理由は分からないけど、増えてる気がする……」⇄


⇄【 …………… 】⇄


不安気な表情を浮かべるモサミスケール。

最近、エルが身体のバランスを整えようとする回数が少なからず増えている事を知っているからだ。


エルは少しだけ体調が悪くなったみたいで、眉間にシワを寄せながら額をマッサージしている。


そして歩きながら、みんなに気付かれない様に、魔力と霊力のバランスを整えようと、オーラ循環を丁寧に慎重にコントロールしていた。


「わたし、ダンジョンって初めてなのよね……」


カルディアがそう小声でつぶやき、不安げな表情をしながらエルの方を見ると、額に手を当ててるエルが目に映る。

うつむいたまま難しい顔をしていたので、少し気になったようだ。


「あれっ? どしたのエル。体調悪い??」


「ん? 違うよ、マッサージ! それよりカルディアの魔力なら、イエローダンジョンなんかどうって事ないよ!」


と、笑顔で親指を立てポーズ。

そんな会話をしていると、いつしか身体のバランスが整い、元の体調に戻っていった。



 子供達を守る様に斜め前方の左右には、クラスCで弓を扱う補助魔法戦士のヘルンと、同じくクラスCで短剣を扱う回復魔法剣士のリースが歩いている。


「緊張しないでね! カルディアちゃん」


と優しく声を掛けたのは、短剣を扱う回復魔法剣士のリースだ。


「は、はい。リースさん」


「カルディアちゃんも回復系の魔法なのかな!?」


「そ、そうです」


話しかけてきた相手が、バルコリンの街で一、二を争うギルドに所属する人なので、少し緊張した面持ちでそう答えるカルディア。


「杖、手で持たずに背中に付けてるからどしたのかなーって気になって」


「あっこれは……この方が両手自由に使えるので便利だなーって……」


「そうなんだ……」


リースは笑顔でそう返答したが、カルディアの身なりがやはり軽装過ぎて心配になっているのだ。しかも主力の杖を手に持っていない事が、拍車をかけていた。


『やっぱり……戦いに慣れて無いみたいね。ダンジョンに入ったら戦わなくても警戒の為に戦闘態勢をとらなきゃいけないのに……心配だわ……』



 弓を扱う補助魔法戦士のヘルンがちらっとアルガロスの方を見ると、超笑顔だ……。

当のアルガロスは、魔物に近付かないでと言われてるが、隙をみて腕試しが出来るかもと考えていて、浮足立っている。


「アルガロスくんは、剣が得意なの?」


と、弓を扱う補助魔法戦士のヘルンが声を掛けた。


「う〜ん、まだ良く分かんないけど、剣は得意な方だな! それと ” くん “ はいらないよ! 何か弱い感じがするから。アルガロスって呼び捨てでいいよ、ヘルンさん!」


そう言って “ ゼブロスポーズ ” でキメるアルガロス。


「そ、そう? じゃあアルガロスって呼ぶわね!」


『ゼ、ゼブロスポーズ……。こんな若い子供達まで汚染していってるなんて……可哀想だわ……』


ギルド・ハンター管理局のゼブロス技官……。

クラスBの実力者であり、多くの功績を残していながら、このポーズだけが独り歩きしている……。



 今回のイエローダンジョンは入口は小さいが、奥深く広いダンジョンの様だ。


それに、岩の隅々に魔力を帯びたヒカリゴケが生息しており、弱光を反射し,微かなエメラルド色に光ってダンジョン内を照らしていた。


そんな中で、何故か違和感を感じるエルとモサミスケール。


⇄「……魔力濃度が入口と違う……?」⇄


⇄【……ああ…。僅かじゃが上がっとるの……】⇄


モサミスケールは、カークスギルドのメンバーには気付かれない様に、小さく片目ずつ開いて辺りを見回していた。


⇄「同じ空間で濃度が違うって……どう言う事だろう…。またゲートがあるのかなぁ?」⇄


⇄【分からんが、注意は必要じゃな!】⇄



 そんな時、先頭を歩くクラウディーの足が止まる。


ギルドマスターでクラスAの火炎攻撃魔法剣士。

普段は頼りにならない発言や行動が多いが、対魔物戦となると、非常に勇敢な男で頼りになる。


そのクラウディーの足が止まったのだ。


「………」


「妙だな……。魔力濃度が上がってる………」


ハイクラスのハンターになるにつれ、魔力濃度には敏感になっていく。これは訓練で培われるのではなく、14歳の祝福で誰でも貰える ” 基礎身体強化 “ がそうさせているのだ。


クラウディーの後ろにいた、クラスCで怪力魔法重戦士のダンブールが辺りを見回している。


「魔力濃度が上がってる? それにしちゃぁえらく静かなダンジョンだなぁ。それに、入り口からだいぶ歩いて来たのに、まだ薄っすらとヒカリゴケの光が漂ってるみたいだし」


ヒカリゴケの生息範囲は、およそ入り口から20メートル程。それを過ぎているのにまだ光が続いていたのだ。


そのダンブールの言葉に違和感を覚えた敏捷術戦士のヤブロスが何かに気付き、岩の間を観察している。そして、静かに呟いた。



「魔光石……」


「ま、魔光石!!!?」



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