第38話【 巧みな駆け引き? 】


 大きな岩が重なり、その岩で出来た空間に、ゆっくり渦巻く黄色い渦。


イエローダンジョン。


何故、エルがダンジョンの事を告げたのか。

何となくだが、カークスギルドが、エインセルギルドと似たような雰囲気に見て取れたからだ。


真面目で正義感に溢れ、何より折れない心を持っている気がした。


それに、エル達だけでイエローダンジョンに入る事は出来ないので、同行者として付いて行こうと考えていたのだ。


カークスギルドは、このエレティコス秘境に来てからダンジョンを発見していない。

徘徊する魔物とは何度も戦ったが、ダンジョンは初めてだ。


 カークスギルドのメンバーが集まり、相談が始まっていた。


「魔力濃度は1,926。ギリギリだがイエローの範囲だ。レベルDだが、限りなくCに近い……」


「未確認のダンジョンを見つけたら、出来るだけ早く報告、確認、攻略する事。放置するのは厳禁となっているんだが…」


ダンジョンの前には、

クラスCの女で、弓を扱う補助魔法戦士のヘルン。

クラスCの男で、大剣と盾を扱う怪力魔法重戦士のダンブール。

クラスCの女で、短剣を扱う回復魔法剣士のリースの3人が警戒の為立っていた。

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*レベルD:イエローダンジョン 

 魔力濃度1,001〜2,000


*レベルC:オレンジダンジョン 

 魔力濃度2,001〜4,600

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 クラウディーがダンジョンを背にして確認の為、現状と基本的な事を話している。


「みんなも分かってると思うが、イエローダンジョンの場合は、レベルD扱いだ。最低攻略人員はクラスCが3人、クラスDが4人必要となる」


「1つ上のオレンジダンジョン、レベルCとして考えた場合でも、クラスBが3人。クラスCが4人必要な計算になる」


「計算上は今の俺達だけで十分だ。しかもまだイエローだからその分かなり余裕がある訳だが………」


しかし、気になる大きな問題が目の前にある。

力が弱く、であろう子供達の存在が……。


クラウディーは、ちらっと子供達の方を見た。


「どうするかだな……」


カークスギルドのメンバーは皆同じ様な考えを持っていた。

この場合、優先するのは安全性。

子供達をバルコリン近郊まで連れて行く方が優先される。


が、イエローダンジョン攻略の最低基準を遥かに上回る戦力があり、さらにその上のオレンジダンジョンと見込んでも、余裕がある。


そんな状況の中で、調査を中断してまでバルコリン近郊迄連れて行くのも時間の無駄になるからだ。


悩ましい空気が漂う中、そんな考えを吹き飛ばす言葉がエルから飛んできた。


「俺達の事は心配しなくていいよ。イエローダンジョンはこれで2度目だから!」


「ええ━━━━━━━━━━っ??」


唐突にビックリ発言が飛び出てきて、カークスギルドのメンバーが目を見開き驚いている。


「ど、どう言う事だ? 君達だけじゃ無理じゃないか」


この無理と言う言葉には理由がある。

オートノミー管理局の決め事に、ダンジョンの魔力濃度(色)によって、攻略していいハンター基準が明確化されているからだ。


なのでその基準に満たないハンター達だけで入る事は禁じられている。


唯一許される事があるとすれば、雑用面での応援、支援。戦いを含まないと言う事だ。


エルは、その同行者と言う言葉を引き出そうとしているのだ。自分達、特にアルガロスやカルディアの経験の為に。


そして、追い打ちをかけるように言葉を流し込む。


「この前、魔窟のクレモスでエインセルギルドと」


「ええ━━━━━━━━━━っ??」


ギルド・ハンター管理局の人でさえ、把握出来ていなかった謎の………。

謎解きのヒント……と言うより、湧き出る答え。


「も…もしかして……団子の!??」


と、つんのめりながらクラウディーが手を広げる。

エルは、手を袋に入れ現物証拠を取り出してを突き出した。


「この薬草団子の事? あげたよ?」


「まじか━━━━━━━━━━っ??」


カークスギルドのみんなは驚いていたが、それよりより何故か笑顔が多かった。

疑問に思い、モヤモヤしていた事が事実だったからだ。


笑顔だったクラウディーの表情がキリッと締まる。

そして、マスターとしての威厳を保つ様に顎下に手をあてた。


これが、彼からすると威厳を保ってる仕草らしい……。


『その団子があれば、力の弱いあの子達でもある程度自分達で回復出来るんだな』


小さな光を大きくする為に、と言うか自信が無かったのでメンバーに問いかけた。


「あの子達を……ダンジョンに連れて行こうと思うんだが………」


背を丸め、ぼそりと言葉を置いていくクラウディー。まだ自分の中で決めかねているので、みんなの反応を見たかったのだ。


「そうね……比較的安全に攻略出来そうだし…」


ナイーサがそう言うと、クラウディーの背筋が伸びていく。

敏捷術戦士のヤブロスも、それには同感だった。


「現状を整理して判断しても、危険度は低いと思うな」


またまたクラウディーの背筋が伸び、胸を張っていく。そして、物凄くキメ顔だ……。


クラウディーは、<ズバッ>とダンジョンの方を指差して、名セリフをはく様に普通の言葉を言った。


「よしっ!この子達を連れてダンジョン攻略だ!」


「グワハハハー」


そう言いながら、クラウディーは細かな指示を忘れ1人ダンジョンの中へと入って行った。

他のメンバーはやはり「………」だ。


クラウディーの背中を見ながら、ナイーサは頬がぷっくり膨らんでいる。

マスターから指示が無いので、エル達に今後の行動をナイーサが考えて伝えていた。


「君達は最後尾で付いて来てね。左右前方に補助魔法戦士のヘルンと回復魔法剣士のリースを付けるから」


「絶対魔物に近づいちゃダメよ!」


そう言い、ナイーサは優しい笑顔でウィンクした。


「分かったよ!」


初めてダンジョンに入るカルディアの不安をよそに、エルとアルガロスは同行出来る事を嬉しく思い、後ろを向いて少しいたずらっぽく笑っていた。





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★カークスギルドメンバー


・クラスA クラウディー男 火炎攻撃魔法剣士

・クラスB ナイーサ女 回復魔法技士

・クラスB マイケル男 剣術士

・クラスC ヤブロス男 敏捷術戦士

・クラスC ヘルン女 補助魔法戦士

・クラスC ダンブール男 怪力魔法重戦士

・クラスC リース女 回復魔法剣士



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