第36話【 エレティコス秘境 】
夜が明け、眩しい光が小さな崖を照らしている。
その近くで小鳥がさえずり、追いかけっこを楽しんでる様に大空を飛び回っていた。
タップリ寝た3人が、荷物を片付け袋に入れて肩に担ぐ。
「よっと!」
エルは小さく声を出し、袋のベルトをキュッと締めた。
そして、アルガロス、カルディアの方を見て、小指を立てた。
「約束だからね!」
その言葉にちょっぴり不機嫌そうなアルガロス。
「分かったって何度も言ってるだろ!」
「うん……。エルとモサミが言うんなら……」
カルディアは少し不安な表情を浮かべている。
エルが何を約束したのか。
それは、これから向うエレティコス秘境では、アルガロスは剣を封印して素手で魔物と戦う事。
まだ使えないが、VOICEにある ” 祝福された空間認識 “ 力を高める為だ。
カルディアは、杖を使わず手で魔法を使う事。
本来杖の役目は、魔力の弱い人でも出しやすく、溜めやすくする為に使われるが、相手に奪われたら元も子もない。
これもVOICEにある “ 祝福された知識 ” 力を高める為だ。
但し、身の危険な時は、剣・杖は使ってもいいと。
彼等は3人とも顔を見合わせ、笑顔を浮かべながら崖の縁に立つ。
今までのアルガロス、カルディアならこんな行動はとらないだろう。
自分の力の限界は理解出来ているから。
しかし、今の彼等は……今までの彼等とは違っていた。
「行こうか!!」
エルがそう合図を送ると、アルガロス、カルディアはうなずき………崖を蹴りながら大きく足を踏み出した。
<バッ、ザザッ>
崖下へと飛び降りる彼等3人の背中が、深い森の中へと吸い込まれ消えていった。
そこは “ エレティコス秘境 ”
バルコリン地域より濃い魔力が渦巻く地。
◇◇◇数日後◇◇◇
道なき道を、7頭の馬が人を乗せ歩いている。
列を作り、丘と森の間を縫うように。
少しすると小さな沢に出て来たので、先頭の馬に騎乗している男が手を上げた。
「よーし、この辺りで休憩しようか!」
声を掛けたのはカークスギルドのマスター、
クラウディーである。
クラスAの実力者で、剣を扱う火炎攻撃魔法剣士だ。
カークスギルドのメンバーは、全員で16名と多いが、今回はマスター含む上位クラス7名で来ている。
皆、馬から降りて馬つなぎのロープを木に結び、集合した。
「休憩後、地図の作成と周辺探索だな!」
クラウディーはそう声を掛けながら、石の上に座り、ギルド管理局から渡された資料に目を通していた。
他のメンバーは各自、喉を潤す者、干し肉を食べる者と其々がくつろいでいる。
セカンドマスターのナイーサが、喉を潤しながらクラウディーに話しかける。
このナイーサと言う女性は、クラスBの実力者で杖を扱う回復魔法技士だ。
「ねぇクラウディー。エインセルギルドを補佐したって言う人達の情報って、何か聞いてる?」
「いいや。リッサにも会えてないし、ギルド職員も良く分からないらしいんだ…」
クラウディーは首を軽く振りながらそう答えた。
その返事に眉を下げ、軽く頷くナイーサ。
「……そう…」
「ただ…、アイテムで手助けしたってのは言ってたな」
「アイテム!? どんな?」
顎に拳をトントンと軽く当てながら、難しそうな表情をするクラウディー。
「……薬草団子だとよ」
「ハァ?? 団子??」
クラウディーの話をナイーサの横で聞いていたマイケルも、ナイーサ同様驚いていた。
このマイケルと言う男のハンターも、クラスBで剣と短剣を扱う剣術士。
今回派遣された7名のカークスギルドには、クラスAが1人、そしてクラスBが2人。クラスCが4人で来ているのだ。
「団子で補佐したぁ??」
マイケルは両手を広げながら信じられないと言うような仕草をしている。
「それって何かの間違いじゃねーの? 薬草団子でオーガを楽に倒せる様になるなら俺も欲しいもんだぜ!」
少し茶化したように喋るマイケル。
クラウディーも、この話は半ば信用していないみたいで、ほのかに笑いながらうなずいていた。
クラウディー、ナイーサ、マイケルの後で、話に耳を傾けながらくつろいでいたクラスCで双剣を扱う敏捷術戦士の男、ヤブロスが何かの違和感を感じる。
『………、微かに臭う……?』
辺りを見回すが、のどかな風景が広がるだけ……。
ヤブロスは気になったのでそっと立ち上り、目線を少し上げた。
「………」
そんなヤブロスの行動を気にしていたクラウディーが、彼に声を掛ける。
「ヤブロス、どしたんだ?」
「……いや、気のせいだと…」
ヤブロスは目線を下げようとしたが、やはり何か違和感を感じるのだ。
よく見ると、晴れた青空に薄く漂う煙。しかもこちらは風下なので、何かが焦げた臭いが微かに漂ってくる。
ヤブロスはポツリと呟いた。
「誰かが…何かを燃やしているかも…」
ヤブロスは双剣を扱う敏捷術戦士。
俊敏なだけでは無く、理解や判断も正確で早い。
そんな彼の言葉でクラウディーも立ち上り、ヤブロスが眺めている先を見た。
「……こんな未開の地で?」
「山賊か何かのたぐいかもしれないな……」
クラウディーの心がざわつく。
未開の地に足を踏み入れる者は、手の付けられていない良質な鉱物や珍しい植物を探す者が多いが、そのほとんどは金目当てで気性の粗い連中が多いのだ。
「……調べに行くか」
クラウディーとナイーサ、マイケル、ヤブロスの4人で、小川を河原沿いに上がって行く。
少し歩くと小川が左に曲がっており、木々等で隠れてその先が見えない。
が、やはり何かを燃やしている匂いが漂っていた。
カークスギルドの4人は、様子を伺う為に一度その場で歩みを止める。
「何がいるか分からないから、注意しろよ!」
クラウディーがみんなにそう伝えて、用心深く音が鳴らない様に木の枝を除ける。
すると、目の前の光景は………、
「キャハハハッ」
弾けるような笑い声が。
「俺の水魔法うけてみろー!!」
赤毛の少年がそう叫びながら、股の間から小川の水を手で掻き、茶髪の少年にかけている。
「どわあー、やったなー!!」
と茶髪の少年も同じ様に水魔法攻撃だと叫びながら、水を赤毛の少年に飛ばし、反撃していた。
「キャハハッ! もうビチョビチョじゃん!!」
そんな少年2人の姿を見て、河原に座っている少女が笑っている。
『………………………………………』
クラウディーは空いた口が塞がらず、無言………。
他のメンバーも同じく口を空けながら絶句………。
魔力濃度が高い未開の地………。
危険と隣り合わせなエレティコス秘境………。
その中で少年少女の弾けるキャピキャピ声…………………………………。
「ど……どう言う状況だ? これは………。ヤブロス、説明してくれないか……」
クラウディーは、ポカンとしながら締まりの無い表情で、そう口を動かした。
敏捷術戦士のヤブロスでも目の前の状況に困惑し、言葉が詰まってしまう。
「えっ……こ、これは……」
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