第35話【 冒険の中での過去の思い出 】
チロリ流れる小川の道。川面の中で苔と戯れる虫や魚達が、自分達の生命を楽しみながら踊っている。
エルとカルディア、リッサは河原で談笑しているが、アルガロスは、小川の中にある大きな石の上にうつ伏せで寝転び、訓練で火照った手足を水に浸して冷やしていた。
そんなのどかな時間が流れる中、近くの草木が何かを伝えてくれる様に揺れ動く。
<ガサッ>
「おーい、リッサ! そろそろ行こうか!」
と木々の間から出て来たのは、デリスとペトラオスだ。続いて他のエインセルギルドのメンバーも草むらから出て来た。
「あれっ? デリスおじちゃんとペトラオス兄ーちゃん!!」
その言葉を聞いてデリスがズッコケている。眉を下げ、ほのかに笑みを浮かべるが、目が笑っていない……。
「おぃおぃエル。俺とペトラオスは同い年だぜ!!」
ケラケラいたずらっぽく笑ってるので、エルは分かっててそう言ったのだろう。とにかく、見た目が全然違うから。
その横でカルディアが、不思議そうにデリスとペトラオスを何度も何度も見比べていた。
カルディアは、リッサ以外のエインセルギルドのメンバーと会うのは初めてだからだ。
アルガロスも小川の石の上から河原へと歩み、他のメンバーと握手をしていた。
デリスにむんずと頬を摘まれたエルが、リッサに声を掛ける。
「用事?」
「スパータルの街から来るお偉いさんの護衛なの」
リッサは軽く顔を振り、少し不機嫌っぽく笑う。
仕事とは言え、どうやら乗り気では無い様だ。
後で分かったが、ギルド管理局からの依頼だったらしい。
憂鬱そうな表情で立ち上り、デリスの胸をポンと叩いた。
「行こうか!」
手を振り、エインセルギルドのみんなを見送るエル達。人が多くてザワザワしていた小川の河原が、一気に静かになった。
その途端、エルの目に力が入る。
「アルガロスもカルディアも、だいぶ強くなったみたいだから……」
「ちょっと冒険しない!?」
その言葉を聞いたアルガロスが、ニヤッと笑う。
どうやら、リッサがいたので控えていたらしいが、エルとアルガロスは気分転換の為、何かを企んでいたみたいだ。
「この先にある秘境まで行ってみるか!?」
◇◇◇◇◇◇◇
バルコリンの街を出て約1日半。
休憩は挟まず、エル、アルガロス、カルディアは、寝ずに走りっぱなしで移動している。
歩きなら約10日間程の距離だ。
彼等が何処に向かっているのか。
それは、バルコリン地域でもまだ開拓の進んでいない未開の地。
“ エレティコス秘境 ” と呼ばれる場所だ。
そこで、さらに魔力やオーラ循環速度を上げる訓練をしようとしているのだ。
今回は実戦も交えて。
彼等はそこまで行く道中も訓練の為と走ってるのだが、勿論体力は無くなる。
体力が無くなれば、カルディアの回復魔法で回復して貰うが、使うと魔力も無くなる。
そんな時はエル特性の……例の “ お団子 ” の出番となるのだ。
強制的に体力・魔力を回復させ、走る事を継続する。
時には魔物との遭遇もあるが、必ず急所を狙い、一撃で倒す事を自分達に課して走っていた。
<ザザザザッ>
<バサバサッ……バッ>
森から飛び出して来たのはエル。汗を流しているが、息は上がって無い様だ。
ちなみにエルは、1度もお団子を食べていない。
「ふぅ……この辺りでいいか」
見晴らしのいい、綺麗な景色が眼下に広がる小さな崖。
エルは大きく息を吸い、香りの美味しい空気を沢山吸い込んでいた。
「うーん。生き返るなぁ!」
陽が傾き始めているので、辺りも薄っすらと暗くなっている。
エルは小枝を掻き集め手をかざして、火を付けた。
<ボワッ>
パチパチと弾けながら小枝が燃える中、小さな虫達の心地良い音色に耳を傾ける。
<チロチロッ、チロチロッ>
<ジジッ、ジジッ、ジジジッ>
<リーン、リーン、リーン>
心の静寂は、ふとある事を思い出させる………。
幼馴染のカサトスとラミラの事を……。
助けられなかった自分の弱さを……………………。
<チロチロッ、チロチロチロッ>
優しい虫達が奏でるリズムに、座りながらウトウトとしていたエルはある気配に気付き、おもむろに森へと振り向いて笑顔になる。
その後、小さな虫達の音色が止んだ。
<バサバサバサッ>
<バッ>
アルガロスとカルディアが森から飛び出て来たのだ。
「だあ━━━━━━━━━━っ」
「もう駄目だああぁぁぁ━━━━━━━━━━」
「無理、無理、むり━━━━━━━━━━!!」
アルガロスとカルディアは、悲壮感漂う表情で叫びながらその場に倒れ込む。
アルガロスは男の子だから乱雑でいいが、カルディアは女の子。しかし、なりふり構わず地べたに大の字になって倒れていった。
「お団子いらない……このまま寝かせて……」
究極の本音だろう。カルディアはつぶやく様に言葉を落として、力なく目を閉じた。
「Zzz z z ………」
二人ともエルの顔を見て安心したのか、即寝落ちしてしまう。
眉を下げながら優しい笑顔で二人を見ているエルは、漂う大陸の事を思い出していた。
『だいぶ無理させちゃったかな? でも……ドラなら叩き起こしてるだろうなぁ…』
エルは手を広げ、霊力の力で防御魔法のトイコスをこの敷地に使おうと思ったが……、考え直し手をおろした。
『今のこの二人には、もう必要無いか!』
エルは、其々の袋の中から羽織る布を取り出して、そっと二人に掛けた。
<パチンッ>
と弾ける焚き火の火。エルは座りながら、火を絶やさない様に小枝を何本か追加している。
そして夜空を見上げ………、何かを思い出したのだろうか………。
エルは……静かに涙を流していた…………………。
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