第28話【 屈辱から湧き出る内側の怒り 】


 驚き固まるエインセルギルドのメンバー達。


一瞬で変わった目の前の世界は、誰も想像し得ない幻影を見る光景。


「アルガロス、後は頼んだぞ!!」


赤い髪の少年エルはそう叫び、ダンジョンの奥へと走って行った。


後ろから走って来るアルガロスは、エルのその言葉は聞き取れたが、” 頼む “ が何を意味しているのか分からない。


「ハ、ハァ!?」


しかし、エルは既に走り去っているので、確認出来ないのだ……。


呆れ顔のモサミスケールは、鈍感なアルガロスを見下ろしながら、この先の状況を伝えた。


【 目の前の魔物を倒せって事じゃ! 】


「えっ? 魔物!?」


散らばっている炎の明かりが、薄暗くダンジョンを照らしている。

走るアルガロスの目には、ハンター達の姿しか見えなかったのだ……。


<ゴグウ…>


暗闇から、微かに唸り声の様な音が聞こえてきた。

そこに視線を向けると……、うごめく巨体の背中が………。


【 オーガじゃ 】


「オ…オーガ……!!?」


走るアルガロスの前に、ゴツゴツしたくすんだ水色の大きな身体が現れた。


“ 血に飢えた鋼の肉体を持つ魔物 ” と聞いた事がある。群れを成す習性があり、その数は……、少なくとも30体は下らないと……。


「やばっ!!」


<ズザザザザーッ>


アルガロスは、走る足にブレーキをかけるがすべって止まれない……。


それに気付いたオーガが、目を光らせ素早く手を伸ばしてきた。


「うわっ」


【 止まるな! 剣を振るんじゃ!! 】


「む、無理だよ! オーガなんて!!」


ゴブリンさえ倒せないアルガロスの心情からすると、当然の反応だろう。

しかし、一週間程訓練を受けた後の力の位置付けは、モサミスケールの考えではそうではなかった。


【 …と呼ばれた頃に戻りたいのか? 】


モサミスケールは、屈辱から湧き出る内側の怒りを引き出し、くすぶる恐怖を消そうとしたのだ。


罪深き人間の………。


「くっ…」


悔しく、耐え難い記憶が溢れて来る……。

最近まで否定され続けた苦痛は、精神を蝕んでいっていた。正しく判断できない状態まで追いやられていた…。


『戻りたくない!!!』


剣を握る手に、力と魂が入る。


「くっ…くっそおおおおー」


アルガロスは叫びながら剣を振るった。

荒れるオーラの波を……、一筋の線となるように。


<ズザーンッ>


鋼の肉体が……真っ二つに割れていく。

エインセルギルドのハンター達の目の前で。


彼等は驚いた表情でそれを見ていた。

自分達より遥かに幼い少年が、あの鋼の肉体を斬り裂いたのだから。


しかし、斬り裂かれたオーガの後ろから湧き出る様に、新たなオーガが腕を振り上げていた。

雄叫びを上げながら、しなる腕を振り下ろしてくる。


<グオオオオー>


剣を振り下ろした反動から、まだ体勢を立て直す事が出来ていないアルガロス。

見上げる先には……狂気に満ちたオーガの顔が……。


<ガシーン>


激しい音と共に、盾でオーガの腕を防ぐ身体の大きな男の姿……。

アルガロスの目に映ったのは、デリスだった。


「少年!! ナイスファイトだ!!」


デリスはそう言い、そのままの勢いでオーガを壁に叩きつけた。


<ドゴォン>


しかし……かなり疲弊しているエインセルギルドのメンバー……。その後の攻撃が続かない。


アルガロスは彼等の状態を把握すると、やはりしかないと思い、袋から何かを取り出した。


「体力と魔力が少し回復する団子だよ。食べて!」


「オーガが怯んでる隙に早く!!」


ここに残るオーガは、デリスが弾き飛ばしたオーガと、両手を斬り落とされたオーガの2体。

ギルドのメンバーは、素早くその団子を口に入れた。


「にっげー!!」


団子の苦さに悲鳴を上げるも、回復していくのが分かる。怪我は治らないが、力や魔力が蘇ってきたのだ。


デリスに弾き飛ばされたオーガが襲ってくる。

透かさずリッサが炎をまとう剣を振り上げ、オーガの首を切り落とした。


<ズザンッ>


炎に包まれながら落ちていくオーガの顔。


後では、両手を切り落とされていたオーガが炎に包まれている。


<ガボウッ>


コラースが団子を食べて魔力を振り絞り、ジョージをさせて強いバーストフレイム爆裂炎を打てる様にしたのだ。


<ゴオオオオー……>






 ダンジョンの奥へと走って行ったエルの前には、無数のオーガが。


その奥からわずかに振動が響き、淡く光っている様にも見える。


「ゲートか!!?」


ゲートの閉じ方は、本来上位クラスの祈祷魔術師が数人で魔法を唱えながら閉じていく。時間がかかる上、その間魔物が飛び出してくる可能性が有る為、高クラスのハンターが同行しなければならない決まりがあるのだ。


しかし、今はそんな悠長な事を言ってる場合ではない。


「この数…、オーガが湧き出てるみたいだ……」


エルは走り込みながら、頭に浮かぶモサミスケールの言葉を思い出し、素早く短剣でオーガを斬り刻んでいった。


『【 エルの魔法でゲートを閉じるのは簡単じゃ。じゃが、強い魔力を使うと霊力とのバランスが崩れてしまう可能性がある 】』


『【 じゃから、試しに五大精霊の剣をゲートに突き刺してみろ。運が良ければ、魔力と霊力の打ち消しがゲートを消し飛ばすかもしれん 】』


オーガの群れを斬り刻みながら、角を曲がると広い空間に出た。


それと同時に、エルの身体が下からの光に照らし出される。



「オレンジゲート!!!」



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