第29話【 五大精霊の剣 】


「オレンジゲート!!!」



 エルの顔が、オレンジ色に染まる。


激しく渦巻くオレンジ色のゲートを、睨む様に見下ろしていた。

どうやら洞窟の奥に、ゲートが発生していたみたいだ。


「ここが最深部だな!!」


エルはその広い空間を素早く見渡す。

ゲートの光によって、濃くなった暗闇にうごめくくすんだ水色の巨体。


暗くて目では認識出来ない魔物を、魔力の数で判断する。


『……多いな。見えないと思って潜んでやがる』


『一気に片付けないと、後ろに逃げられたら……』


エルは、花火の様に弾ける炎を飛ばしオーガを撹乱。

そして躊躇なく地面を蹴り、大量に湧くオーガの群れに飛び掛かっていく。


そんな時、ふと……世界樹のユグ、ドラ、シルの言葉が頭をよぎる。


”【 その地に合った力まで 】“ と。


そうでないと………、自身の身が………。

しかし……抑えきれないのが若さなのか…。


この時、エルの素早さは既にオーガの目に映らなくなっていた。


モサミスケールがアルガロスの頭の上で、エルの魔力と霊力が上がった感覚を感じて………。


【 !………あいつ……、あれ程抑えろと言ったのに……聞かん奴じゃなぁ………】


【 それが……若さと言う聖域か……… 】



エルが手に持つ短剣は白い光を発しており、オーガの身体に届いてなくても、その光がオーガを斬り刻んでいく。


しかも……見えにくいが黒い光もまとっており、その光は白い光と交差する様に放たれていた。


親から貰ったありふれた短剣。

しかし、エルの魔力と霊力がこの様な現象を作り上げていたのだ。


強い魔力と霊力に裂かれ、弾ける様に激しく飛び散るオーガの肉片。

血しぶきで赤くもやがかかり、視界が塞がれていくが、エルには関係無かった。


最後の1体を倒し終わった頃には、エルの身体は真っ赤に染まり、オーガの血が滴り落ちて………。


オレンジゲートに近付くと、そこからオーガの顔がヌオッと出て来た。


「邪魔だ!!」


<ドカッ>


エルはオーガの顔を蹴り飛ばし、ゲートの中へと

押しのけた。


<グオオォォォ……>


遠ざかっていくオーガの悲鳴。

エルは透かさずアペイロス無限空間を開ける。


「アペイロス!」


右手で、小指側に剣先がくる様に取り出したのは五大精霊の剣。

世界樹のユグから貰った剣だ。


全ての元素をまとい、虹色に輝きながらバチバチと弾ける様に音を立てている。


腕を伝ってエルへと流れてくる振動の波が、心臓の鼓動の様に感じ取れた。


『……生きてる様だ…』


汚れた身体から黒い煙が立ち上がる。

オーガの血が……強い霊力によってへと遷移されているのだ。


エルは素早く体重を掛けるように、五大精霊の剣をゲートに突き刺した。


<ガキンッ>


<バリバリバリバリッ>


決して霊力と交わる事の無い魔力の渦から、激しい光が飛び散ってゆく。


大きな振動が手と空間に伝わってきたと思ったら、剣が弾かれ瞬時にゲートが消えていった。


<シュン………>


『えっ? す……凄い………』


ゲートが発生した岩場が、なごりの魔力で淡く輝いている。

しかし突き刺した後が岩に付いていないのでエルは少し心配になった。


手で岩の表面を触るが、やはりただの岩……。


『これでいいのかな……』


エルは、アペイロス無限空間に五大精霊の剣をしまい、その岩場の経過を眺めていた。


<タッタッタッタッ>


後ろから何かが走って来る音が聞こえる。

これは魔物では無く、人間の足音だとエルは感じた。


『赤い防具のお姉ちゃんか』


「うわっ!!!」


走り出て来たリッサの表情が激変する。


驚くリッサの目の前には、折り重なるように無数のオーガの肉片が転がっていたのだ。


その先に、赤い髪の少年が見えた。


「き、君!? 大丈夫なのか?」


「うん! 大丈夫だよ!!」


笑顔でかるーく返答するエル。

リッサが辺りを見回すが、生きたオーガもゲートも見当たらない。


「オ、オーガは? ゲートは??」


「全部倒したよ。ゲートは消えてくみたい」


と、エルは淡く光る岩場を指差した。


「全部倒した?? ゲートが消えた??」


確かに、一度リッサも目にしたのでゲートのあった場所は覚えている。その場所からゲートが無くなり、今では淡く輝いているだけ……。


「ほ、ホントだ…。確かにここにあったのに……」


少しずつ小さくなっていく岩場の光。

エルは、その上に油を混ぜた草の塊をポンと置き、石で火を付けた。


ポワンと明るくなる洞窟内。


「ゲートがあった目印! 後で調査する時、分かりやすいもんね!」


リッサはエルの手際の良さと……何より……見渡す限りオーガの死体の山……。これだけの数をこの幼い少年が……と驚き、声にならなった。


「俺はエル。お姉ちゃんは?」


突然、と呼ばれたリッサは、張り詰めていた生死を伴う緊張感から開放された様に、表情がゆっくりと和らいでいく。


「あっ…わ、私はリッサ」


その代わり年下の少年エルに対して、違う意味の緊張感がリッサを包む。


お姉ちゃんと呼ばれる、こそばがゆい緊張感が。



「ありがとね、エル。助かったわ!」




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