第27話【 黒い光と白い光 】


「ペトラオスッ!!」


ジョージの叫びがダンジョンに響く。


弾き飛ばしたペトラオスに向かって、容赦なく腕を振り上げながらオーガが突進していく。


ジョージが素早く炎を飛ばしながら、オーガを引き離そうとするが、小さなダメージしか与えられてない様で、びくともしない……。


ジョージもまた……魔力が尽きかけていたのだ。


「ぐほっっっ」


『つっ……、色々……逝かれたか…』


血を吐き出すペトラオス。

俊敏さが売りの剣闘士でアタッカー……。

軽装な防具にしているのも素早く動く為だ。


しかし……敵の攻撃をまともに受けてしまうと、それが弱点となるのは分かっているが……、回復が無いとそれが重くのしかかってくる。


ペトラオスは目の前のオーガを憎しみの目で見上げていた。


『くそっ。この状況で倒せる気がしねぇ……』


ジョージが何度も炎を飛ばすが、その力も小さくなりつつ……、オーガの一振りで、もろく消えていく……。


ペトラオス目掛けて太い足を振り上げるオーガ。


「くっ」


ペトラオスはその場から動く事が出来ない状態だ。

ジョージの炎も効かない……。


「ウオオオオー」


デリスが大声を上げ、斧を振り投げた。


<ドガッ>


オーガの近くに斧が突き刺さる。そしてバランスを崩したオーガに突進し、体当たりするデリス。


透かさずファイナがペトラオスに近寄り、コラースの代わりに治癒を試みるが、やはり治りが遅い。


デリスに体当たりされたオーガも、よろけただけで直ぐ体勢を戻し、再び近寄り腕を振り上げた。


<ガズン>


<バキバキッ>


デリスの盾で辛うじて防ぐが、足元の地面が割れる程の強烈な力に、身体全体に激痛が走る。


「うぐっ」


上から振り下ろされるオーガの腕は、重たい岩石の様にデリスの身体を潰そうとしていた。


『くっ…、身体の中で……何かが割れたか……。しかし…まだまだっ!』


デリスは軋む身体を奮い立たせ、盾でオーガの腕を押しのけた後、斧を掴み力一杯振り上げた。


「くそがー!!」


<ズゴッ>


くすんだ水色の腕に……3分の1しか食い込まないデリスの斧……。

いくら鋼の肉体を持っていようとも、まともに入ればデリスの力なら切り落とせるはずなのだが……、やはり体力の限界が近付いているのか……。



<バズンッ>


そのオーガの硬い腕が燃えながらズリ落ちていく。

リッサが炎を微かにまとう剣で切り落としたのだ。


彼女は剣を扱う攻撃魔法剣士。剣の扱いは慣れたものだが、攻撃魔法は微弱なもの。まだまだ訓練と経験が必要で、魔法を剣に流せばそれだけ体力と魔力が削られていく。


リッサの肩が大きく揺れ、息が荒くかなりの疲労が蓄積されていた。


『……この状況を回避する為には……』


リッサはオーガを警戒しながら、背中越しにみんなに指示を出す。


「デリスはペトラオスを担げ! そして…みんなと……出口へ走れ!!」


「!!!?」


それを聞いたみんなは…リッサの決意を感じ取る。


「リッサは…?」


不安に思ったデリスは、そうリッサに聞いた。


「ここで時間稼ぎだ」


「な、何言ってるんだ……それじゃぁ……」


デリスのその言葉を遮るように、リッサは命令した。


「私はギルドマスターだ。皆を守る義務がある!」


「行け!!!」


そう、リッサはギルドマスター。

全ての権限を要するかわりに、全てのメンバーの命も預かっている。

故に誇り高く、重責を貫く強い意志が無いと務まらないのだ。



<ドスン、ドスン………>


「!!?」


そんなリッサの想いを……無情にも断ち切る音が近づいてくる……。後ろから、出口側からの振動が……。


<ドスンッ>


後ろの暗闇から…オーガが出て来た。

しかも3体………。

リッサの表情が…苦難に満ちていく。


「くそっ……囲まれたか……。こいつ等……、分かってたんだな………」


” 絶望 “ そんな言葉が、みんなの脳裏に深く刻まれ焼き付いていく。

後ろに3体……前には何体潜んでいるか分からない恐怖が……メンバー達に重くのしかかっているのだ。


『フランク…コリンジアだけでも逃げていてくれ………』


救難信号の打ち上げの為、外に出る様に指示した2人。


リッサは、オーガの口や手を確認していた。

後ろから現れると言う事は、遭遇している可能性がある。ただ、オーガの口と手に “ 血 ” が付いて無いのが、救いに思えた。


息が上がるデリスだが、何とか突破口を作ってやらないと、メンバーの逃げ道が無いと考えていた。


「くっ、くそー!!」


デリスは斧を振り上げ、捨て身で後ろのオーガに跳び掛かって行くが……。


<ガシッ>


簡単に腕と顔を掴まれてしまった。

やはり……今の体力では………。


そこに力を入れていくオーガ。


<ミシミシッ>


「ウグッ」


骨の軋む音が、デリスの身体に響き渡る。

デリスの窮地は目に入っていたが、リッサは前のオーガから皆を守る為、デリスを助けに行く事が出来ない。


『デ、デリス……』


<ガキンッ>


「あっ!!」


リッサの剣が弾き飛ばされてしまった。

一瞬の隙が……この世界では命取りになる……。


<ザクッ>


リッサの剣が、虚しく地面に突き刺さる。


「くっ……」


今のリッサの目に映る惨状は、決して受け入れる事が出来ない敗北……死へと向う絶望……。


仲間を募り、長い年月をかけて信用出来るハンターへと育ててきた……。みんなの命を預かり、家族の様に過ごしてきた大切な仲間………。


その仲間が…………今にも……………。


「うぐっ………」


リッサの頬を……小さな光が流れていく。



そんな極度の緊張や疲労からなのか、それとも強烈な無力感からなのか、時が止まった様に……仲間の姿が歪んで見える。


その奥では、ぼんやり光が漂っている様な………。


幻影なのか錯覚なのか……、揺らめく光が……ゆっくりと近付いて来る様に見えた……。


その光が、突然素早く回転しながらメンバー達の前を………飛んでいく。



<ビュンッ>


<スパパパパパパパパ━━━━━━━━ンッ>


<ザザァ━━━━ッ>



光の先には……、背中を丸めて佇む……赤い髪の少年が……。


そして……何故かオーガの肉片が……宙を舞っている。


デリスを捕まえていたオーガの腕は斬り落とされ、リッサの前にいた複数のオーガも小さな肉片へと……。


「えっ?………」


小さく声が溢れるリッサ。


ゆっくり回転しながら落ちる肉片越しに、少年の身体からは黒い光が、手に持つ短剣からは白い光が漏れ出ている様に見えた。




オオオオオ━━━━━━━………。



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