第19話 【 少年との再会 】




 笑顔で街中を歩くエルは、鼻の穴を大きく開いて美味しい匂いを探していた。色んな匂いが漂う中に、ひときわ良い匂いが混ざっている。その匂いに引き付けられながら歩いて行くと、一軒のお店の前にたどり着いた。


「良い匂いがする。この店に決めた!!」


店の中に入って行くと、お昼まではまだまだ時間があるが、結構お客さんが入っている。

それと<プ〜ン>と良い匂いが店中を包んでいた。


『大当たりじゃね!? ムフフー』


とだらしない顔をしながら席に着こうとした時、見覚えのある人が目に映った。

茶褐色のバサバサ髪に茶色の瞳の少年。そう、ハンター管理局迄案内してくれた少年だ。


食べている所にいきなり入って行くのも迷惑だと思ったが、“ 感謝は素直に伝える事 ” と親に教えられていたので、挨拶する事にした。


「さ、さっきは案内してくれてありがとね!」


「!…あれっ、お前は!」


少し驚いた表情の少年だが、直ぐ真顔になる。

直後、<コトン>とそのテーブルにお水が置かれた。


「いらっしゃい! 何にする?」


とお店の人が声を掛けて来た。エルもバサバサ髪の少年も、お店の人が仲間だと勘違いしてると思ったが、その笑顔に押し切られていく。


「あっ、そのっ…この席は…」


「ん? 注文は?」


エルはお邪魔かなと焦ったが、街や周辺の状況の事を知りたかったので、その笑顔にキラキラ笑顔で返していた。


「この人と同じ肉料理を!」


と注文しながら、図々しくもバサバサ髪の少年と同じテーブルに座った。


『おぃおぃ、座るのかよ……』


バサバサ髪の少年は少しムスッとしているが、エルはそんな事お構いなしに笑顔だ。


「俺はエル。さっき初めてハンター判定してもらって、ハンターカード貰ったんだ!」


「クラスGだけどね!」


「だから自分へのご褒美に飯食べに来たら、たまたま君が居たって訳」


「………そうか」


やはりバサバサ髪の少年は、口数少なく暗い表情のまま……。

図々しくも同じテーブルに座ったが、ちょっぴり居づらくなったエルは、少し強引過ぎたかなと気を遣って席を立とうとした。


「ご、ごめんね。俺……邪魔かな? アハハ……」


そんなエルの ” 邪魔 “ と言う言葉が少年の心を締め付ける。散々自分が言われてきて、苦しく、辛く嫌な思いをしてきた言葉。それを口には出して無いが、相手にそう思わせてしまった罪悪感が少年にのしかかってくる。


「……あぁ…別にいいぜ」


「俺はアルガロス。…この街では…最後の飯になるけどな……」


「えっ? 最後??」


エルは戸惑い、小さく身を乗り出している。


「あぁ……。エルっつったか? ハンターになれて良かったな」


「え? あっうん。ありがと…」


アルガロスは眉を下げ、ほのかに笑みを浮かべながら軽く水を飲んだ。


「俺は強く無いから魔物の事はあんま知らないけど、それでもいいなら何でも聞いてくれ。街の事なら大体分かるからよ」


「最後の飯ってどう言う事?」


真顔で聞いてくるエルの反応に、少し戸惑っているアルガロスだが、もう一度、知っている事ならと念を押すように言葉を続けた。


「……街の事なら……」


「いやっそうじゃなくて、最後の飯って」


「………」


経験のあるハンターならさらっと流される内容だ。人の出入り、向き不向き、怪我や生死……。それらが頻繁に起こっているからだ。しかし初心者のエルには、その言葉が引っかかったのだろう。

アルガロスは少し考え、はにかんだ表情で話し出した。


「俺……ハンター辞めるんだ……」


「な、なんで?」


エルはビックリしている。自分より少し年上の様に見えるだけなのに、もう辞めると考えてる事に驚いているのだ。


「……祝福から2年……」


「クラスFから全然あがんねーんだわ……努力しても、何しても皆の足を引っ張ってるだけ……素質が無いのか頭が硬いのか……」


「それでも意地んなって皆に着いて行ったけど……迷惑掛けっぱなしでさ…」


「他の街には効率的な教育を受けるハンター学園ってのもあるんだけど……、貧乏だからよ……」


アルガロスは目を細めた。自分の生い立ちを悔やんでいるのでは無い。努力が実らない自分自身に苛立っているのだ。


「でもな、そんなの俺だけじゃないぜ。夢を抱いて挫折して……多くのハンター達がそうやって毎日何処かで諦めていくんだ」


「だから俺も……村へ帰って、畑でも耕して……これからハンターとして頑張るエルには分かんねーだろうけどな……」


アルガロスはまだ16歳。成人を迎えて2年経つが、まだまだ大人に成りきれない成長段階の小さな心。その心で辛い思いを沢山して色々悩み、出した答えが……ハンターを辞めると言う選択だったのだ。



「ハンターやりながら畑耕したらいいじゃん?」



あっけらかんと言い放つエル。


「……おめっ……………ぉお!!? あれ?」


「俺の村では結構多いよそういう人! 俺、ハンターやりながらお団子屋さんもやりたいんだよね! アルガロスの村にはそんな人いないの?」


ポカンとしているアルガロス。頭が回っているのかいないのか。テーブルに置いてあったコップを鷲掴みし、水をグイッと一気飲みした。


「………いるけど…。俺の村にも……えー……あれ?……俺は何を?……」


「グオオオオー」


と頭を抱えながら上を向き、自分の悩みが何だったのかと…悩んでいた事を悩んで変な声を上げている。情緒不安定と言う言葉が、今の彼にはピッタリだ。

そんな彼等を回りの客が迷惑そうに睨んでいる。


⇄【 罪深き人間は、悩みだすと簡単な事でも色々見えなくなるんじゃな 】⇄


⇄【 エル、こやつのボイスを見てみろ 】⇄


⇄「え? どしたの?」⇄



ボイス( VOICE ) とは、相手のステータスが分かるの力だ。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る