第18話 【 驚きと落胆 】



「召喚!!?…あ、あの……召喚魔法!!!?」



と受付のセレーニは驚いている。

その後、直ぐ自分の口を押さえ、回りをキョロキョロと気にしだした。


小声で聞いてくるセレーニ……。


「ほ…本当に召喚魔法? 後で分かるけど?」


「はい。召喚魔法です!」


と笑顔でキッパリ言い切るエル。事実、エルは召喚魔法を使えるのだ。ドラからこれでもかと叩き込まれたから………。


「そ、そう……じゃぁ後は賢者の石の欠片でスキルとクラスの検査ね。ちょっと待ってて!」


そう言って、セレーニは奥の部屋に入って行きながら、ちょっぴり難しい顔をしている。


『……一応……、局長に報告しといた方がいいかしら……。本当なら超レアスキルなんだけど………、それに………』


エルは待っている間、他のカウンターを眺めていた。植物や物の鑑定をするカウンター。討伐や採取、護衛等の仕事を受けるカウンター。金銭を出し入れするカウンター等、初めて見る光景にポカンと口を開けて見入っていた。


⇄【 エル…魔力が漏れとるぞ… 】⇄


⇄「いけねっ!!」⇄


頬をポリポリと掻き、苦笑いするエル。どうも緊張感が無いのか、いいかげんで無頓着な性格なのか……。モサミは心配になったので、注意する様に促してみた。


⇄【 クラス等を調べる時、魔力を出し過ぎない様に気を締めていくんじゃぞ!! 】⇄


⇄「わ、分かった!!」⇄


何度もうなずくエル。これがドラなら遥か彼方まで蹴り飛ばされるか、狂気的な笑顔で炎の塊を投げてくるか……。思い出すだけで身震いしてしまう恐怖体験が、頭をよぎり冷や汗を流していた。


<ガタッ>


奥の部屋から、箱を持った大柄な男の人とセレーニが出て来た。

大柄な男の人が箱をカウンターへ置き、笑顔で話しかけて来た。


「おう、君か! クラス判定に来たのは!」


「は、はい」


「俺はここのハンター管理局の技監で、ゼブロスってんだ。宜しくな!」


大きな腕をカウンターへ置き、親指を突き上げて合図している。

エルは身体の大きさにも圧倒されていたが、それより太い腕の傷跡を見て、この人もハンターなんだと分かった。


「エ、エルです。」


「アハハハハー。そんな緊張すんなって! 気楽に行こうぜ! 気楽に!!」


そう言ってゼブロスは箱を開け、カウンターに賢者の石の欠片の道具を出して、エルの方へ向けて置いた。


赤い賢者の石の欠片は真ん中に有り、その左右に手を置く所がある。

ゼブロス側には用紙を置く場所があり、そこにエルが書いた用紙を置いた。


「さあっ、左右に手を置いて!」


とセレーニがエルに伝える。


「は、はい」


緊張せずにってのには無理があり、少し手が震えている様だ。しかし、初めての事だから仕方ない。

そう思いながら、エルは手を置いた。


ジワジワと淡く光り出す賢者の石の欠片。エルは目を閉じ、魔力を抑える事に集中していた。


<……ジジジジジッ>


賢者の石の欠片が振動している。エルの魔力に反応しているみたいだ。そうこうしている内に、エルが書いた用紙の ” 召喚魔法 “ と言う文字が……、淡く輝き出した。


「おおー!! 本当だったんだ」


ゼブロスとセレーニは、顔を見合わせ驚いている。

初めて召喚魔法が扱えるハンターを見たからだ。

もう一つ、” ルチフェ “ は輝かなかったが、二人共気には止めていなかった。


後は、魔力濃度と気の循環速度の総合値、即ちハンタークラスの表示待ちだ。

<ゴクリ>と喉が鳴るゼブロスとセレーニ。召喚魔法が扱えると言う事は、大きな魔力を持っていると言う事。だから、とんでもない総合値が出るのではと考えているのだ。


<ブォン>


賢者の石の欠片が淡く輝き、総合値が表示された。


総合値 “ 7 ”


『…………………』


ゼブロスとセレーニは、また顔を見合わせ驚いている。総合値一桁台を見るのも……初めてだったからだ。


「え…えっと…」


とセレーニは言いづらそうに口をモゴモゴと…。


「エル君の総合値は7で…クラスG……ね」


「…………………………」


3人の…無言で気まずい時間が流れている……。

そんなこんなで、スキルとクラス検査は呆気なく終わってしまったのだ……。


「ク……、クラスG!!? やったー!!」


とエルは喜んでいる。何故なら、最大限魔力を抑える事が出来たからだ。器の強化と言う意味でも、一歩進めた気がしていた。


ゼブロスとセレーニはそんなエルを見て、気の毒な思いが湧いてくる。特殊なスキルを持っていても、扱えないハンターは数多くいる。エルもその内の一人なんだろうと。そして総合値一桁台。ハンターとしてやっていけるのか……と言うより、ハンターより他の職業の方が良いに決まっていると思っているのだ。


「…ホントにハンターって言う職業を選ぶのか?」


とゼブロスが聞くと、間髪入れずに気持ちのいい返事が返って来た。超キラキラ笑顔で!!


「ハイ! 家族や皆を守りたいんで!!」


「そ、そうか…。自分で決めたんなら仕方がない…。ただ、無理はするなよ。絶対だぞ!」


ゼブロスは念には念を入れ、エルの事を思いその様に伝えたのだ。


「ハイ! 有難うございます!!」


と腕を前に出し、超笑顔で親指を突き上げるエル。

ゼブロスもそれに応じ…超苦笑いしながら親指を突き上げて前に出した……。


そんな二人を見ていたセレーニは……ヤレヤレと言う表情をしながら顔を左右に振っている。


「じゃぁ後は宜しくな! セレーニ」


と言ってゼブロスは賢者の石の欠片を片付け、奥の部屋へと戻って行った。


「じゃ、じゃぁこれがエル君のハンターカードね!」


そう言ってハンターカードをエルに渡した。

受け取ったエルは、またまたキラキラ笑顔で喜んでいる。


「うお〜スゲー! ハンターカードだ!! やった、やったー!!」


両手を上げ満面の笑顔。待ち望んでたハンターに登録出来たので、これからが楽しみなのだ。


「それとこれ」


<コトンッ>


とセレーニがカウンターに何かを置いた。

それを見たエルはキョトン顔。


「ん? お金!?」


「そうよ。初めてハンター登録した人には銀貨1枚渡す事になってるの。ハンターへの準備品や日用品、宿賃なんかに使ってもいいわ」


目を輝かせ銀貨を見つめている。無駄遣いをするつもりは無いが、とにかくお腹一杯美味しい食事を食べたいのだ。


「あ、有難うございます!!」


「頑張ってね!」


カウンター越しに心配そうに手を振るセレーニに向かって、ペコリと頭を下げるエル。そして、手を振りながらその場を後にした。


ハンター管理局の建物から出て来たエルは、笑顔で手に持つ銀貨を見つめていた。


『やったぁー。これで飯にありつけるぞ!』


銀貨を持った手をギュッと握り締め、胸を膨らませながら大きく足を踏み出した。


「先ずは腹ごしらえ! お団子はデザートだから、その前に何処か美味しいそうな飯屋はないかなぁ」


エルは回りをキョロキョロ……。


「おっといけね。魔力を抑えれて……いるな!」


「よしっ!!」


と元気よく街中を歩き出した。






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