第17話 【 ハンタークラス判定 】
朝日が登り、穏やかにサラサラと流れる広い川がキラキラと輝いている。大きな橋が架けられたその先に、バルコリンの街がある。街郊外には沢山の土壌豊かな畑があり、食の街として発展している様だ。
エルはバルコリンへ向け、大きな橋の上を歩いていた。
「何だこの街! 想像してたよりむちゃくちゃ大きいな!!」
【 人も多いし、活気があって楽しそうじゃのう 】
橋を渡りきると、街の出入り口の左右に強そうなハンターが立っている。彼等は街の衛兵で、不審者等が入らないか見張っているのだ。
街中へ入っていくと、とても良い香りが漂ってきた。
「んーん。肉のいい匂いがするなぁ!」
「甘〜いお団子屋さんでもいいけどなぁ……」
<グゥ~…>
腹の虫が鳴き、恥ずかしそうにお腹を押さえる。
エルはポケットに手を入れ、お金を取り出して手を見つめるが……。
「んー…これっぽっちしか無いから…飯は無理だし……今日も野宿になるかなぁ……」
【 ワシャーどこでもいいがの! 】
「俺は沢山食べて、フカフカベッドでゆっくりしたいんだよ!」
エルは頭の上のモサミを見上げ、届かぬ思いをぶちまけていた。
【 贅沢もんが! 】
「なんだってー!!?」
【 ちょい待ち! 】
「ん?」
【 回りの視線、気にならんのか? 】
街の人達の冷たい視線。彼等からすると、独り言をわめく少年と映っているのだろう。
「……そうか……、モサミの存在を知らないもんなぁ。ただの帽子と思ってるだろうし…」
⇄【 こうしたらどうじゃ? 】⇄
⇄「あっこれか!」⇄
話したい相手を決めて頭で会話すると、意思疎通が出来る一種のテレパシーみたいな方法だ。
⇄「モサミは有体だから相手からは見えるだろ! その存在をどう説明するかだよね…」⇄
⇄【 召喚魔法ってのがあるからそれにしとくのはどうじゃ? 】⇄
⇄「そうだな! あれ? いや、でも…、召喚って一時的な力だろ!? 怪しまれないか?」⇄
⇄【 魔法は万能じゃないから、戻らなくなったでいいんじゃないのか? 】⇄
「アハハハハ!! それいいね!」
【 声、漏れとるぞ! 】
「あっイケね!…って、召喚したモサミは喋る召喚獣って事にしといたらいいんだね!?」
【 ワシが獣? 】
「あっいや、そういう体で……それなら直接喋っても怪しまれないし」
【 フンッ。まぁそれでええわぃ…… 】
笑顔で街中を歩くエルは、落ち着きなくキョロキョロしている。珍しい物だらけで目に入る物全てが輝いて見えるからだ。勿論モサミスケールも同じで、罪深き人間や街並みを薄ら目で観察していた。
沢山の建物が並ぶバルコリンの街中で、ハンター管理局を探そうにも、何が何だか分からない……。
仕方ないのでエルは、歩いてる人に聞く事にした。
「あのう…」
「んぁ?」
声を掛け振り向いたのはバサバサ髪の少年。
背を丸くし、陰気な表情でエルをじっと見ている。
「ハ、ハンター管理局って何処にあるか知ってる?」
「………………あぁ知ってるよ…俺もハンターだからな。……付いて来な」
図る事無く空返事し、それにぶっきら棒な態度。
どう見ても声を掛けた事を歓迎されて無い様で、
バサバサ髪の少年は、そのまま歩き出した。
「あ、ありがと…」
『………嫌なら断ってくれてよかったのに……』
とエルは思ったが声を掛けた手前、それも、“ 付いて来な ”と案内してくれる事を嫌がる事は出来ない。だから、気を使って話しかけてみた。
「今日初めて来たからさぁ、街中分からなくて…」
「………そか」
「こ、この街、めちゃおっきいよねー。俺、小さな村出身だから珍しくてさぁー」
「………ふーん」
「…い…いい街だなぁ…」
とエルが話しかけても素っ気ない返事しか出て来ない。茶褐色のバサバサ髪に茶色の瞳の少年は、エルの方を気にする事無くユッサユッサと歩いていた。
道を曲がり、いくつもの建物を通り過ぎて歩いていく。程なくすると、バサバサ髪の少年が指を指した。そして、ボソリ言葉を落としていく。
「ここ………」
その先には、横に広い建物が有り、色んな人達が出入りしている様だ。
「ここがハンター管理局!?……」
建物を見上げるエルの表情から、笑みが溢れる。
「あ、ありがと!!」
「奥の建物だ………」
愛想が無くぶっきら棒だが、ちゃんと案内してくれた少年にお礼を言うと、そう少年は一言だけつぶやき背を向け歩いて行った。
『…メッチャ口下手? そんな感じには見えないんだけど……。でもあの目……、病んでる?』
『まぁいっか!』
と前を向き、再び建物を見上げた。
緊張した面持ちで見上げるエルだが、一度深呼吸し、気合を入れて中へ入って行った。
建物の中には広場があり、その奥にまた建物がある。広場ではハンター達が立ち話をしていたり、出店や道具屋等、簡易的に物を揃えるならこの中で十分なくらいの種類が陳列されている店もある。
エルはそれらを眺めながら、奥の建物へと入っていった。
中には……沢山のハンターが!
お酒を飲んだり食事をする人がいたり、仲間内で笑い話をしたり自慢話をしたり。交流や情報交換の場としてハンター達は使っているみたいだ。
若い人から年配まで、多くのハンター達がイキイキしていた。
開けたスペースの奥に、受付のカウンターが幾つか並んでいる。
エルは、この空間の雰囲気に圧倒されていて、どうしていいか分からずポツンと立ち竦んでいた。
「そこの君! どんな用事かしら?」
カウンター側から声が掛けられ振り向くと、綺麗なお姉さんが手を振っている。
「あっあのっ…ハンター登録を……」
「じゃあここでいいわよ! 新人さんかな?」
「ハイ! エルって言います」
お姉さんは若くて元気がいいエルを見て、初々しさに嬉しくなってるみたいだ。
「フフ、私はセレーニ。ハンター達の受付や管理をしているわ! 他に5人いるけどね」
「スキルとクラス判定は受けてる?」
「あっいや、全て初めてで…」
「そうなんだ。じゃぁまず、この用紙に書いてある項目、出身地、名前、年齢なんか書いてちょうだいね」
「は、はい…」
出された用紙を前に、ちょっぴり緊張気味なエル。
自分の事を書いて渡すという事自体初めてなのと、他に色々知られたく無い事等あるからだ。
⇄「どうしよモサミ…。三段石の生き残りってバレたらまずいだろ!?」⇄
⇄【 そうじゃな…。面倒な事になるのはゴメンじゃから……、出身地はシル。名前はさっき言ったからエルで、年齢もそのままでいいんじゃないかの? 】⇄
⇄「出身地シル!? まぁ覚えやすいからいっか! 分かったそうするよ!」⇄
エルは渡された用紙に緊張しながら書き込んでいく。その中に、” 祝福特性 “ と言う項目があった。
「祝福特性?」
「これはね、授かったスキルを書く所なの。自分の長所だからとっても大事よ! 基礎身体強化スキルは皆授かるから書かなくていいからね。それと、無いスキルを書いても後で分かるからキッチリね!」
「後で分かる?」
紙に書いた物を調べる機械なんてあるんだろうかと、エルは首を傾げている。そんなエルを見て、セレーニはニッコリ微笑んだ。
「そう。整合性があるかどうか賢者の石の欠片で調べるのよ」
「えっ!? 賢者の石の欠片!!?」
「別名ね! 賢者の石って、言い伝えに出て来る様な幻の石でしょ。だから本物じゃないわ!」
「そ、そうなんだ…」
「実体、本質を調べる賢者の石の欠片。錬金術が得意な大賢者が、数人で水晶に魔力を注ぎ込んで作るウーシア石の事よ。それでスキルとクラスが判定出来るわ」
「凄い!!」
突然上から、エルの頭の中にダミ声が届く。
⇄【何じゃ…エリクサーとベースメタルで作ったんじゃ無いのか……】⇄
「みたいだね」
声を出したまま、思わずモサミに相槌してしまった。するとセレーニが、ちょっと戸惑った面持ちで首を傾げている。
「えっ? 何か言った?」
「あっ、いえ…何も……」
『あっぶねー…。気ー抜けないなぁ……』
エルは気を抜くと、つい何も考えず口から言葉が出てしまうみたいだ。モサミも頭の上でヤレヤレと言った顔をしていた。
「特性かぁ……」
『ルチフェって結局何だろ……。取り敢えず書いとこ。それと、モサミを正当化する為に召喚だな!』
「ハイ! 書けました!」
と、書き込んだ書類を恥ずかしそうにセレーニへ渡した。
「どれどれ? んー……出身地シルってなってるけど、何処にあるの?」
「ブルーモン領にあるけど、とっても小さな村だから地図にも無いみたいです」
「そ…そうなんだ。それと……去年祝福を受けたのね。……ん? ルチフェ? 何だろ……まぁいっか」
首を傾げるセレーニ。稀に祝福特性欄に意味の分からない、調べてもスキルブックに載っていない書き込みを見る事がある。この場合は、後にハンターに聞いたりするんだが、ハンター自身も分かったためしがないのだ。
「それと……」
セレーニが突然驚いた表情をする。
「召喚!!?…あ、あの……召喚魔法!!!?」
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