第13話【 漂う大陸の世界樹ドラ 】
<ギャオ━━━━━━ッ>
暗黒の世界で雄叫びを上げる魔龍。六つの翼を持つその巨体から黒い魔力が激しく溢れ、その摩擦で稲光が発生し弾ける様に輝いている。
それと対峙する様に異種多くの精霊達が身構えていた。
魔龍とは濃く渦巻く魔力が行き場を無くし、時間をかけて有体化した龍の事だ。その強さは破滅級で、特に六つの翼を持つ魔龍は ”ドラゴン・デイールヴィロス“ と呼ばれ、漂う大陸の食物連鎖の頂点に立つ部類なのだ。
危険極まりない状況が長く続き、精霊達にも疲労が見えていた。
赤い光がデイールヴィロスの足元から胴体を駆け上がり、口元へ集まっていく。大きな牙が生えた口が上下に開き、回りの空気がビリビリと波打ち出した。
【 危ない! 散れ!! 】
<ドゴオオオ━━━━━━━━ッ>
暗黒の森が、デイールヴィロスのブレスで強烈に明るくなる。
大地が割れ、無情にも広範囲が焼き払われる暗黒の森。その爆風を、立ちすくみ超涙目で受けている少年がいた……。
エルである。
「……モサミ、無理だって………」
【 ごちゃごちゃ言っとらんで、とにかく逃げろ! 】
エルの頭に乗るモサミが、逃げる方向を指さしている。体力と魔力が下がったエルは、身体に縛り付けたカバンから素早くお団子を取り出し、口の中に入れて身体を回復させた。
エルは焼ける森の中を素早く走り、木の根を飛び越えながら全力で走るが、フッと何かの影に包まれる。
「えっ?」
<ドスーン>
地響きと共に、デイールヴィロスがエルの前に降り立ったのだ。その瞬間、また赤い光がデイールヴィロスの身体を駆け上がる。
【 ヤバイ!!! 】
<ドゴオオオ━━━━━━━━ンッ>
直撃を受けるエルとモサミ……。
炎の中で、焦げた塊がうごめいている。
少しずつ炎と爆風が収まりつつある中で……両手を顔の前に出して構えるエルが出て来た。
<ゴオオオオー………>
目を細め、炎と爆風に耐えてるその姿は……顔、手足は出ているが、身体は袋に覆われていた。
モサミが咄嗟の判断で、エルをすっぽり包んだのだ。くすぶり煙が立つモサミの身体。
「モ、モサミ、大丈夫か?」
エルの顔、手足の傷を見て、モサミスケールはそのままの状態でいる事にした。
【 大丈夫じゃ! じき癒えるわい! それより危ないからこのスタイルで行くぞ!! 】
【 エ━━━━━ル━━━━━!!! 】
<バシュ━━━━━ン>
激しく回転しながら飛んで来た謎の物体が、エルの頭を<バシン>と叩いた。
髪は紫色のセミロングでオレンジ色の瞳。そして、灰色と紫、白色の甲殻類の様な防具をまとった女性が立っていた。そしてエルをキリッと睨む。
【 逃げずに闘わんかぃボケナスが━━━!! ユグ姉に笑われるだろうがよー!! 】
「ドラ! 俺には無理だよ。こんな凶暴な魔物!」
【 根性無しが!! グダグダ言ってないで、さっさと行ってこい!! 】
<ドカッ>
っとエルをデイールヴィロスの方へ蹴り飛ばした。
汚い言葉と暴力三昧。見た目とは正反対の性格…。
「ダアアァァー、それでも世界樹かー!!!」
飛ばされながら涙目のエル。
しかしドラは、蹴り飛ばしたエルをチラッと見て何故か微笑んでいた。
『【 顔、手足にデイールヴィロスのブレスが直撃したのに…。ココにいる精霊達なら即死だぞ 】』
ドラと呼ばれるこの女性は、漂う大陸の世界樹だが口も態度も超悪いのだ。モサミスケールが懸念していた通り………。
荒れ狂うデイールヴィロスに立ち向かう精霊達。勿論…その中にエルの姿もある。
<ギョオワ━━━>
雄叫びを上げるデイールヴィロスが、六枚の翼を大きく広げた。
魔力の波動がエルや精霊達を襲う。
<ドフンッ>
引き裂かれながら勢いよく飛ばされる精霊達……。
そんな中、エルは足で踏ん張り耐えていた。
<バサッ…バサッ、バサッ、バサッ>
デイールヴィロスは六枚の翼を力強く羽ばたかせ、深い暗黒の森の中へと飛び去って行った。
<ピ━━━━━ッ>
【 これ以上追うな! 暗黒に足を取られて出られなくなるぞ! 】
ドラは飛び去るデイールヴィロスを目で追い、険しい表情で見据えていた。
【 クソッ…また逃したか…… 】
炎がくすぶる森の中を、トボトボと歩くエルの姿がある。その先にはドラが、光る手の平を木々にかざしながら歩いていた。
<パフーン、パフーン……>
くすぶる炎を消しているのだ。
他の精霊達も同じ様に、ドラから離れながら木々に手をかざしていた。
『また……何も出来なかった。皆の足を引っ張ってるだけだなんて………』
【 エル、走れ! 】
ドラの合図でその場から走り去るドラとエル。
飛び跳ねる様に、素早く走るエルの姿は、以前の弱々しい姿から少しは成長している様だった。
太陽の陽が届かない暗い世界。強力な魔力の渦が、陽を遮断しているのだ。暗黒の地で育つ木々は、魔力を苗どころに成長している為、たまに…襲って来る物もある。
漂う大陸は、魔力の波と霊力の波が一進一退を続けているが、緩やかに魔力の方が力を増してきていた。
他にも漂う大陸は幾つか有り、その1つを精霊達と共に世界樹のドラが守っているのだ。
深い森を駆け抜け広い草原へ出ると、目の前にとてつもなく大きな大木が出て来た。世界樹だ。
その手前に木と落ち葉で作ったテントの様な物がある。
ドラはそのテントを横目でチラ見しながら歩いて行った。
【 罪深き人間は不便だね… 】
といたずらっぽく笑うドラ。
笑顔は可愛いんだが……。
「フンッ! 落ち着くんだよ! 俺は罪深き人間だからな!!」
身体を覆っていたモサミスケールがエルの頭の上に、ポンッと乗る。
エルは、手に小さな枝を抱えて持って歩いている。
テントの前には太い丸太が置かれてあり、そこに腰掛け小さな枝を前に置いた。
そしてフワリと手をかざす。
<ポフッ>
すると、火が付き辺りがぼんやり明るくなってきた。エルはそのままテントから小さな袋を取り出し、丸太の上にポンと置いた。
魔物の肉で作ったお団子だ。本当は甘〜いお団子を食べたいのだが、材料が無い。
【 また団子か…不便だね…… 】
「もう何度も何度も聞いたよその言葉。いい加減止めてくんないかな!!」
【 オレより強くなったらな! 】
「………くっそー……」
ドラは自身の世界樹に手を触れる。
すると、ドラの身体が淡く光り、また元に戻っていった。
【 フゥー。腹一杯!! 】
とエルの方を向きながら、お腹をポンポンと叩きこれ見よがしにいたずらっぽく笑顔を作った。
「くっそー、腹立つなぁ。毎日あれだもんな……。精霊と人間じゃぁそりゃ違うでしょーよ!」
【 z z z… 】
「あれっモサミ!? 寝てるのか? 珍しい」
【 ! 】
エルをからかっていたドラから突然笑顔が消え、草原の奥、深い森の方を見た後にテント前の丸太に座った。
【 エル、客が来たよ 】
「ん? 客?」
ドラが森の方を見ながら静かにそう言った。
エルは訳分からずだが、何故か胸騒ぎがする。
じっと森の方を見てると……ほんのり光りの様な……淡い光が森を照らしながら動いているのが見えた。
「なんだ?」
微かに地響きを感じ取れる様になってきた。こちらに近付いて来てるのだ。
<ドスーン、ドスーン>
「足音!? デカいぞ!」
<ドスーン、ドスーン、ドスーン……>
エルは立ち上がり…何かを思い出したかの様に、目を見開いて驚いている……。
聞き覚えのある……恐怖の振動。
身体に刻まれた……強烈な激痛。
暗闇が明るくなり、“ それ ” が近付いて来た。
<ゴオオオオー>
深い森を抜け、エル達がいる草原に………、
炎の魔獣が足を踏み入れた。
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