第7話【 声の主は 】
<ガゴオオーン……ズゴゴゴゴー……>
石の扉が…左右に吸い込まれながら、淡く消えていく。目の前には………。
” 闇 “
中を恐る恐る覗くが、暗闇しか無いのだ……。
<パパパッパパパパパッ>
突然辺りが明るくなる。壁一面に刻まれた古い文字が輝き出して、広い部屋が映し出された。
「うわっ何だ?……眩しい………」
手をかざしその輝きに一瞬目を細めるが、注意深く中を確認すると、部屋の手前には魔物の様な……。
「うわぁっ!?」
石像が…。奥には羽根の生えた人達の大きな石像が並んでいた。
「何だ…石像かぁ…」
【 グワァッハッハッハッハッハッ 】
【 叶わぬ願いと諦めていたが 】
と奥の方から声がする。
部屋の真ん中には装飾のされた華やかな赤い敷物が敷かれ、その両サイドには羽根の生えた小さな魔物?の石像が浮かんでいた。
【 罪深き人間よ、前へ 】
生き物の……気配は無い。エルは、その赤い敷物の上を用心深く歩いていく。
「だ、誰だ? 何処にいる?」
その部屋の一番奥に祭壇と思われる台が有り、その上に彫刻された石で出来た箱の様な物が…。
石の箱には、古い文字が書かれた帯状の布が、三分の一程の幅で掛けられていた。
そして、その中に……。
【 罪深き人間を見るのは初めてじゃ 】
四角い袋?の様な物体が浮かんでる……。
黒地に色んな物が装飾され、大きな目の様な切れ込みと、口とおぼしき所から牙の様な物が……。
それが声の主だったみたいだ。
【 ガハハハハー、愉快じゃ愉快じゃ 】
「魔物……だよなぁ!? でも…喋ってる…」
【 早くこの護身幕を取り除いてくれ 】
「ご、護身幕って…こ、この布の事か?」
【 そうじゃ 】
余りにも怪しすぎる…と言うか、完全に魔物なのだ。大きくつり上がった目を持ち、しかも黒い眼球にオレンジ色の縦長の瞳……。
「……悪さして、封印されてるんだろ?」
【 これはワシを守る護身幕じゃ 】
「うっ、嘘つくな!!」
四角い袋は目を細める。目の前に立つ少年を長々と見定め、今まで幾度となく聞いてきたその性質を再確認していたのだ。
【 ………やはり罪深き人間だな…。傲慢、嫉妬、暴食、色欲、怠惰、貪欲、憤怒…… 】
【 このまま…また眠る事にするか… 】
「クッ…」
エルはとても焦った。何も分からない今、行動しなければ情報は入らない。そして…このまま独りぼっちになるかもしれない……。でも、護身幕って物を取ると、襲われるかも知れない……。
「お、俺を襲わないか?」
【 願いを聞き入れてくれる罪深き人間を誰が襲うか! 】
ゆっくり、ゆっくり手を伸ばし、恐る恐る護身幕を掴むが……引っ張る事が出来なかった。相手の姿形が余りにも……。
「…俺は人間だ……信じられないよ…」
【 ……そうだな、お前は罪深き人間。だから護身幕を取れば教えてやる事が出来る。何故ここまで
エルは悩みに悩んだ。この選択が身を滅ぼすかもしれないからだ。理由は分からないが、今現在生きてる自分がいる。それを台無しにするかもしれない。
「うっ…ううっ……」
答えを出せない自分がとても歯がゆかった…。
『い、嫌よ…死にたくない…』
『た…助けて…』
……ラミラとカサトスの…最後の言葉……。
その言葉が頭の中をこだまする。
『…そうか……ホントならあの時…俺も死んでたよな…』
その時エルは、護身幕を力一杯引っ張っていた。
<バサッ…………………………>
<<<ブバババリバリババババリバリバ━━>>>
炎の爆風と稲妻の破裂により、勢いよく弾き飛ばされるエル。
<ドゴォンッ>
勢いそのままに石柱に叩きつけられ、四つん這いに倒れ込んでしまった。
「グハアッッッ」
口から血を流し、息が出来ない。身体も…動かない。皮膚は切り刻まれ、服から煙が上がる。
「ウグッ…クハッ…」
パッと目の前が薄暗くなる。
身体は動かないが、何とか目線を上に上げるとそこには…。
恐ろしい形相の四角い袋が浮遊していた。
「……や、やっぱり…俺を殺す気だったんだな!」
四角い袋が布を伸ばして来る。とどめを刺す為のその行動を、エルは為す術無く鋭い目付きで睨んでいた。
「クソッ……」
エルの頭に布が触れる
<ポワァーン>
「えっ?」
傷が瞬時に癒え、生命力が戻ってくる………。
「えっ? エッ??」
【 すまんすまん、力を入れ過ぎたわい 】
【 ガハハハハー 】
っと高笑いしながら、四角い袋は凄い勢いで部屋中を飛び回った。
【 これが自由か! これが解放されるって事か━━━━ガハハハハ━━!!】
ブンブン飛び回る四角い袋。エルは座った状態でポカンと口を開け、その様子を不思議そうに眺めていた。
【 おっと、そうじゃ 】
<キッッ>
と、飛び回る事を突然止めた。何かを思い出したみたいだ。
<ヒュンッ、バッ>
っとエルの前に飛んで来た。
「ヒヤッ!!」
ビックリして膝立ち状態で身構えるエル。相手の行動パターンが全く読めない。
【 お主の疑問に答えてやろう。ワシの分かる範囲でな 】
「えっ…あ、あのっ!!」
【 いや! イイ。分かっとる 】
と四角い袋は、自身の身をヒラリとひるがえした。
【 この地は天空に浮ぶ霊界じゃ。強大な精霊の力に守られておってな、空が虹色なのもそれが原因じゃ。そして、その力によってこの地では死ぬ事が出来んのだよ。だから疲れた身体や怪我なんか簡単に治ってしまう。ただ…小僧がココに来た理由は、“
今 ” は分からんがな。】
エルは、自身の身体を触っている。一度は無くなりかけた身体と命。精霊の力って物が何なのか分からないが、確かに治り生きている。
「これは精霊の力……」
【 そうじゃ。だからこの地に魔物は存在出来ん。】
四角い袋をまじまじと見るエル。やっぱり姿形が……それっぽいのだ。
「魔物…じゃ無いのかぁ……」
【 ワシは霊力により有体を授かった霊体じゃ 】
理解不能なエル。ポカンと間抜けそうな表情を浮かべるしかなかった。
「霊界、霊力、霊体、有体、精霊の力!?? その違いが全く分からないよ……」
【 まぁ、とにかくワシは魔物じゃないからな! 】
と四角い袋はふんぞり返っている。大まかに説明して、満足したんだろう。
一方エルは、頭が混乱している。ココに来てからの現象や四角い袋とのやり取り……。
幾ら考えても、無い知恵を絞っても何も繋がらないのだ。自分の小さく無知な存在を、改めて思い知らされていた。
……眉を下げ、ほのかに笑みを浮かべながら自分を受け入れるエル。
そして、一息付いてから立ち上がった。
「魔物じゃ無いって事は分かったよ! 俺はエル。あんたの名前は?」
【 ワシは、モサミスケールじゃ 】
「………えっ!?…」
唐突に意表を突いた言葉が出て来た。聞き慣れた、皆と求めていた言葉の響きに、驚いた表情を浮かべるエル。
「ス、スケール!? 祝福の?」
【 そうじゃ 】
「え━━━━━━━━━━━━!!!」
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