14 埃だらけのその場所で

 その雑貨屋は、閉まる時間が遅かった。


 売っているものが売っているものだからだ。

 夜遅く、顔を見られたくない魔法使いや魔女が、この店を訪れる事も多かった。


「今日は1日ご苦労様。じゃあ、看板を片付けてきてくれる?」


「はい」

 ロケンローと一緒に外に出ると、すっかり暗くなっていた。

 店の前の道は狭く、月などは見えない。

 けれど、晴れているんだということは分かった。


 1日結構緊張してしまったな。


 扉の前に出ている看板を持ち上げようとした、その時だった。


「……んっ!?」


 プルクラッタッターの口が抑えられ、引きずられる。


「プルクラッタッター!」


 誘拐だ!

 大変だ!


 え……何これ……。


 プルクラッタッターが混乱するうち、何かの魔法で気を失ってしまったみたいだった。


 動かない身体が、運ばれる。

 ああ、どうしてこんな事になってしまったんだろう。

 ロケンローは逃げられただろうか。

 夢現の中で、人の声が聞こえる。


「こいつどうすんだ?」

「幹部のとこ持って行くんだろ」

 なんだか、不穏な男達の声。


「あなた達、何してるの」

 そして、……知っている、声。


 消えて行く意識と、騒めき。


 次にプルクラッタッターが目を覚ましたのは、何だか埃っぽく暗い、部屋の中だった。


「ん……、ゴホッゴホッ」

 床に転がされていたみたいだ。

 起きあがろうとして、片手が鎖に繋がれている事に気付いた。

 なんとか起き上がると、

「起きた?」

 と、誰かに話しかけられる。


「パピラター!」


 そばに知っている顔があって、プルクラッタッターはとても安心した。


 けどよくよく見れば、パピラターも片手が繋がれている。


「……捕まっちゃったの……」

 プルクラッタッターが本当にがっかりした顔を見せると、パピラターは、

「人質が居たから手が出せなかったのよ」

 と小声で言い、ちょっと頬を膨らませた。


 板張りの床。

 高い天井のそばには、小さな小窓。

 その小窓から差す月明かりに照らされて、部屋の逆側にパピラターの杖が煌めいている。

 そのすぐそばには、大きな鳥籠に入れられたロケンローが座り込んでいる。


「何これ……誘拐?」


「そうみたいね。……あたしと一緒にいたせいで、魔王の幹部に目をつけられたのね」


「そんな……」


 じゃあ、私も狙われるようになったのか……。


 パピラターは、手を伸ばして、きゅっきゅっと手を開いたり握ったりした。

「あたしは杖がないと魔力をコントロールできないから」

 と、自分の杖を見る。


 確かに、あの位置だと、この場所からはどうやっても杖には届かない。

 ロケンローが動ければ、どうにかなりそうではあるけれど、頑丈そうな檻といった雰囲気で、あそこから出るのは無理だろう。



◇◇◇◇◇



パピラターは杖がなくても魔法が使えますが、コントロール出来ずに暴発する可能性があります。

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