9 この世界の魔法というやつ

 パピラターは、まず話はせずに、鞄から取り出したビスケットをプルクラッタッターとロケンローに寄越した。


 プルクラッタッターにとって、この世界に落ちてきて、初めて口にする食事。


 プルクラッタッターは、ちょっとだけ、黄泉の国の食べ物を食べるとその国から出られなくなってしまう、なんていう話を思い出す。

 けど、そんな事言っていて、野垂れ死ぬのも嫌だから、まあ、美味しく頂くことにした。


 ほのかに甘いビスケット。


「ありがとう、パピラター」

 お礼を言うと、パピラターが少しだけ微笑んだ。

 ……やっぱり、悪い子には見えない。


「美味しいね、プルクラッタッター」

 小さなドラゴンが笑顔(多分おそらく笑顔?)でビスケットを頬張った。


「…………」


 なんでこの小さなドラゴンてばこんなに馴れ馴れしいんだろう、なんて思いながら、プルクラッタッターはぼんやりと「うん」なんて答える。


 確かに美味しいビスケットだ。

 空腹は最高の調味料、だなんて言うけど、それを抜きにしても、美味しい。


 カリカリとビスケットを齧っていると、突然パピラターが話し出した。


「魔法ってのはね、それぞれ使い方が違うのよ」


 プルクラッタッターが顔を上げる。

 パピラターと目が合った。


「正確には、流派で違うの。あたしのは、ムゲン・ステラ流」


「ムゲン・ステラ流……」

 思わず、そのまま口に出す。


 なんだか、厨二感漂うというか。

 “ムゲン”ってなんだろう?“無限”?


「そう。魔法使いや魔女と師弟関係を結んで、ひたすら修行修行」


「……じゃあ、私はこれから、誰かの弟子になって修行するってこと?」


「あなたは」

 パピラターは、顎を支える様に指を当てて、プルクラッタッターを眺める。

「もう、修行済みのはず」


「え?」


「かなり長期に渡る修行を積んできたと見えるわ」


 そんなわけはないのだけど。

 やっぱりこれは、この世界に落ちてきた時のチート能力?


 チート能力なんてほんとにあるんだなー。


 なんて、プルクラッタッターは思うわけなんだけど、実際、プルクラッタッターの魔法は、チート能力とやらじゃない。


「プルクラッタッターは、魔法、使えるわよね?」


 そこでパピラターが話を振ったのは、ロケンローだった。


 まさか、この小さなドラゴンがそんな事を知っているわけない。

 だって、このドラゴンと出会ったのは、ついさっきなんだから。


 知ってるわけないよ、なんてプルクラッタッターが笑い飛ばそうとした矢先、


「もっちろん!」


 とロケンローが答えた。


「え!?知ってるの?」

 まじまじとロケンローを見る。

 まさか、本当にこの子がチート能力?

 私から生まれたって話が本当なら、そうなのかも。

 それとももしかして、実は知り合い?

 アイツが転生した姿、とかじゃないよね。

 いやいや、そんなことあったら怖すぎる。

 大丈夫。もしこれがアイツだったら、迷いなく美少女パピラターにひっついてるはず。


「プルクラッタッター、僕は君の相棒だからね!」


「相棒……」


 私から生まれて?

 相棒だとドラゴンが言う。


「……その相棒って何?」


「相棒は相棒だよ。僕は、君が戦う方法を知ってる」


「やっぱり。あなたの使い魔は、あなたの魔法を覚えてるみたいね」


「…………」

 プルクラッタッターは、ぽやんと小さなドラゴンを眺める。


 ドラゴンは、困った様な顔をした。

「僕が力を貸すから、ひとまず今は、僕を信じて欲しいな」



◇◇◇◇◇



パピラターは旅人なので携帯食としてビスケットを持ち歩いています。

ちょっと食べ飽きたビスケットです。

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